>ペトロ・ネメシェギ

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「ヒューマニズム」という語について、『小学館ランダムハウス英和大辞典』には、「人間主義」、「人道主義」、「人文主義」という三つの訳語が載せられ、説明として、「人間的趣味・価値・品位・尊厳がその中心となっている思考(行動)様式」と書かれている。これは一般に認められているヒューマニズムの定義であると思う。そこで、このような意味をもっているヒューマニズムという語に「キリスト教的」という形容詞をつけるのは、いささか意外である。というのは、宗教においては、人間ではなく神か仏、つまり人を越える存在が中心にされるべきだと思われているからである。事実、その理由で、キリスト教的な事柄を中心とするヒューマニズム思想を排斥したのである。キリスト者の間に広まっていたこのような考え方に反発して、19世紀に、ヒューマニズムを主張するためには、キリスト教を退け、神を否定しなければならないと主張する人々が現れたことは、よく知られている事実である。この無神論的なヒューマニズムを提示する人々の代表者として、フォイエルバッハ、マルクス、ニーチェなどの名をあげることができる。彼らによると、ニーチェ風に言えば、人間を立てるためには、神を殺さなければならないのである。  このような無神論的なヒューマニズムが、19世紀から20世紀にかけて世界的な運動になったが、ニーチェの思想からナチズムが生じ、マルクスの思考からスターリン主義が生じて、無数の人の命を奪う人間否定に発展して行ったので、現代では無神論的ヒューマニズムが色褪せてしまい、ヒューマニズムを新たに基礎づけ、それとキリスト教徒の関係を考え直さなければならないという必要性が痛感されるようになったのである。

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