石牟礼道子

ShiranuiDVD人間のたれ流した毒によって、生命の根源である海は滅びた。竜神の娘であって海底の宮の斎女であるしらぬいは息もたえだえになって、海底から渚へあがってくる。竜神の息子常若は、人の世のありさまを見めぐってくるよう親から命じられ、その旅からかえってくる。姉弟は渚でめぐりあい、隠亡の尉(実は末世にあらわれる菩薩)のはからいによってしらぬいは再生し、2人は結婚する。
祝婚のために古代中国の歌舞音曲の祖と言われる「き」が呼び出され、浜辺のかぐわしい石を手にとって撃ちならし、妙なる音楽が奏でられるなか、この浜辺に惨死したすべての生きものが舞いに舞い、海は新しい生命をよみがえらせる。


3 thoughts on “石牟礼道子

  1. shinichi Post author

    水俣の回生 能で祈る

    by 鶴見和子

    http://www.kyoto-np.co.jp/kp/rensai/asu/32.html

     患者らと死者らが集い共 に観(み)る
     回生の祈り「不知火(しらぬい)」の能

     去る8月28日、作家石牟礼道子さんの新作能「不知火」が、水俣病による多数の死者を出した水俣のヘドロの海の埋め立て地で、梅若六郎師(シテ)らによる奉納公演として催された。「不知火」の初演は、2002年7月に東京の国立能楽堂であった。わたしは現在、重度身体障害者で、京都府内以遠はおもむくことができない。水俣での奉納に深い思いを抱きながら、いたし方なく、初演のDVDを見た。

      そして、奉納の能は藤原良夫さんが送ってくださったビデオで鑑賞させてもらった。この公演でまず驚くべきことは、勧進元が地元の漁師さんたちだったことだ。ご自身も水俣病患者である緒方正人さんが代表を務め、地元の人たちの1年半の必死の努力によって奉納公演が実現したのである。

      その能舞台は、チッソ水俣工場の排水口からたれ流された水銀によって汚染された魚たちがドラム缶に詰められ、埋められた場所で、狂い死にした猫たちも、鳥たちも、そして悶死(もんし)した人間たちの魂も、ここに埋められている。「不知火」は28日の午後6時すぎ、夕陽(ゆうひ)が真向かいの恋路島(こきじま)を照らす荘厳な光景を背に、患者さんたちと遺族と、全国から集まったおよそ1300人の人々を前に始まった。

      人間のたれ流した毒によって、生命の根源である海は滅びた。竜神の娘であって海底の宮の斎女(さいじょ)であるしらぬいは息もたえだえになって、海底から渚(なぎさ)へあがってくる。竜神の息子常若(とこわか)は、人の世のありさまを見めぐってくるよう親から命じられ、その旅からかえってくる。姉弟は渚でめぐりあい、隠亡(おんぼう)の尉(じょう)(実は末世にあらわれる菩薩(ぼさつ))のはからいによってしらぬいは再生し、2人は結婚する。

      祝婚のために古代中国の歌舞音曲の祖と言われる「き」が呼び出され、浜辺のかぐわしい石を手にとって撃ちならし、妙(たえ)なる音楽が奏でられるなか、この浜辺に惨死したすべての生きものが舞いに舞い、海は新しい生命をよみがえらせる、という物語である。

      初演のDVDを見ていて、不思議なことに気付いた。

     わたしたちが調査で水俣を訪れるたびに、石牟礼道子さんのお宅では、いつも「魂入(たましい)れ式」をしてくださった。水俣の人々がなにか事を始めるときには、まず船霊(ふなだま)さんや田の神さんにお神酒をそそいで仕事の成功を祈ったという古来のならわしにのっとって、道子さんのお母さまは、土俗の神々にお神酒とお手料理を供え、わたしたちの仕事がうまく運ぶように祈ってくださった。

      そのお下がりをわたしたちが頂戴(ちょうだい)する直会(なおらい)の光景が心によみがえった。母上は天草ことばで、つぶやくように、歌うように、祈るようにわたしたちに語りかけてくださった。「不知火」のシテの語りにも、そして地謡(じうたい)にさえも、その母上の懐かしい語り口を聞いているような気持ちになった。

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  2. shinichi Post author

    新作能 不知火

    by 石牟礼道子

    (2003)

    平凡社

    「ことにもヒトはその魂魄を己が身命より抜き取られぞろめきゆき来する悪霊の影たるを知らずかかる者らの指先でもて遊び創り出させし毒の様々」

    不知火海はメチル水銀により死の海と化し陸においては水俣病に憑りつかれた。
    そしてついに、2011.3.11福島において原発事故という最悪の惨事が発生した。根は同じところにある。

    原作者は石牟礼道子。水俣病を世に知らしめた人であり今世紀の文明は病んだ異様な文明となっているとの認識がある。

    荒筋はヒトが作り出した様々な毒が水脈に沿って山と海を覆い尽くし生類は命脈を絶たれようとしている。

    ここに至って菩薩が竜神に命じ不知火(姉)と常若(弟)に生類の命脈をつなぐ最後の仕事に赴かせる。

    毒により息絶えようとする二人を八朔の満潮の恋路が浜に呼びよせて回生のとき夫婦の仲を約す。

    菩薩が呼んだ古代中国の楽祖が浜の石を打ち合せて二人を祝婚し再び来る世はこの穢土よりと天高く日月と星のある限り甦らんことをと舞いに舞い声なき浜を荘厳する。

    不知火とは八朔の頃、九州の有明海・不知火海(八代海)で闇夜漁火の複雑な屈折により無数の光が明滅する幻想的な蜃気楼のことである。

    演者は不知火(海霊の宮の斎女、竜神の姫)−梅若六郎
       隠亡の尉(じつは来世に顕れる菩薩)−櫻間金記
       中国の楽祖            −九世観世銕之丞
       常若(竜神の王子)        −梅若晋矢
       コロス(上天せし魂魄たち)    −六名

    演出は笠井賢一

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