物語

世の中で起きることは じつに多面的で いろいろなことが同時に起きるから
誰もがそれらを整理して たくさんの物語を作り出す

出来上がった物語は どれも一面的で 必要のないことは ぜんぶ省かれてしまうから
嘘は全然 含まれていなくても 物語は真実とは遠い

仕事の物語には 家族が出てこないし 家族の物語には まわりの人たちは出てこない
歴史という物語からは 都合の悪いことは消され 愛情という物語からは 真実が消される

うまくいった人たちには 悪かったことはなくなっていて
うまくいかなかった人たちには 良かったことが消えている
一日のあいだには じつにたくさんのことが起きるけれど
物語のなかには ひとつのことしか起きない

悪い記憶から 良かったことが消され 良い記憶からは 悪かったことが消される
どんな記憶も事実として残り 歪んだ記憶が真実になる

たくさんの多面的なことを 正確に伝えることなど不可能で
ましてや一面的な物語が 事実や真実を伝えることはない

それでも人は 物語を信じ 伝えられた事実を信じ 伝えられた真実を信じ
はっきりと良し悪しを断じる

物語にすべて記録しようとすると
はじめから終わりまでの時間に 人の数を掛けなければならないから
紙は何枚あっても足らないし ディスクは何ギガ会っても足らない

大事なことだけを取り出して 物語を作ったつもりでも
大事なことが必ず 物語から漏れている
大事なことを伝えようとして 物語から たくさんのことを省く
たくさんの事実と真実が 省かれた中に潜んでいる

たとえ物語が間違っていなくても 物語から漏れた事実や真実があって
いいことにも悪い面があって 悪いことにもいい面があって
いい人にも悪い面があって 悪い人にもいい面があって
だから どんな物語も 想像をめぐらさないと
物語の裏にあることに 思いをはせないと
ちゃんと受け取ったことにはならない

物語をちゃんと読む そうすれば物語は 詠んだ人の数だけ 広がり歪む
物語をちゃんと観る そうすれば物語は 観た人の数だけ 広がり歪む

広がり歪んだ物語は すべて想像の産物だから
たとえどんなにに正確だったとしても それは事実や真実からは程遠い

物語を見ないで 僕は 君を見る 君も 僕を見る
壁にできた たくさんのしみを取り去り 透明のペンキを塗る
そうすればきっと もっといいものが見えて すべてが輝きだす
だから 物語を信じるのは もう止めよう

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