人口減少(河合雅司)

いまだに世界人口は増え続けている。人々が豊かな暮らしを手にしたいと思う気持ちは抑えようがない。果たして、この先、人類はどうなっていくのだろうか。
だが、各国のデータを調べてみると、すでに地球規模で少子化が進み始めている。あまり知られていないが、1950年以降、世界全体の合計特殊出生率は急落している。「2015〜2020年」は2.47だが、21世紀中に「2」台を割り込む見通しだ。世界人口が減少に転じるのは、もはや時間の問題なのである。
資源不足にしても、地球温暖化の進行にしても、人口の急増が大きな要因となっているわけだから、その前提が変わればいずれは落ち着きを取り戻し解決に向かうこととなる。タイムラグはあるが、いつの日か人類の悩みは人口爆発がもたらす弊害から、人口減少がもたらす課題へと大きく転換するということだ。
人口がひとたび減り始めると流れを止めることは難しい。それどころか、減少スピードを加速させていくこととなる。われわれは、人類が〝レッドリスト〞の仲間入りをすることになるかどうかの瀬戸際にあることに気付くべきなのである。

2 thoughts on “人口減少(河合雅司)

  1. shinichi Post author

    人の数が減ってゆく

    世界規模で直面する「人口減少」の静かなる脅威

    人類が「レッドリスト」入りすることになるのか

    by 河合雅司

    https://toyokeizai.net/articles/-/474005

    世界の人口は増加の一途をたどっていると思いがちですが、「すでに地球規模で少子化が進み始めており、世界人口が減少に転じるのは、もはや時間の問題だ」と言うのは『未来の年表』の著者・河合雅司氏です。人類の課題は今後、人口爆発がもたらす弊害から、人口減少がもたらす課題へと大きく転換するといいます。これから先いったい何が起きるのでしょうか――。河合氏の新著『世界100年カレンダー』を一部抜粋し再構成してお届けします。

    人口爆発による成長の限界

    「あと30年もしたら、石油は掘りつくされてしまう」――。私が子どもだった1970年代、人口爆発への懸念がよく語られていた。1973年、のちに高度経済成長を終焉させることとなる第1次オイルショックが起きたためだ。

    第1次オイルショックのきっかけは、第4次中東戦争で原油の供給制限と輸出価格の大幅な引き上げが行われたことであり、人口爆発と直接的な関係があったわけではない。だが、世界人口の爆発的増加で消費量が増えれば、エネルギーに限らずさまざまな資源の枯渇が加速するとの認識が広がったのである。

    街のネオンサインは消され、テレビの深夜番組は打ち切りとなった。多くの人が「省エネ」を強く意識するようになったのも、このときからだろう。

    過剰反応も生んだ。馬鹿げた話なのだが、オイルショックによって物資が不足するのではとの噂が広がり、日本各地でトイレットペーパーや砂糖などの買い占め騒動が起きたのである。

    人々がオイルショックと人口爆発を結び付けたのは、世界の有識者が集まって地球規模の課題を研究し啓蒙するために設立された民間組織「ローマクラブ」の影響が大きい。前年の1972年に、「成長の限界」というレポートを発表したのである。

    その内容は天然資源の有限性を説くもので、第2次世界大戦による荒廃から立ち直り、物質的な豊かさを追い求めていた当時の人々に非常に大きな衝撃を与えた。必然的に人々の関心は世界人口にも向くこととなった。

    20世紀は、科学技術と経済成長の時代として特徴づけられるが、実は「成長の限界」が懸念されるほどに猛烈な人口増加が起こった時代でもあったのだ。そのすさまじさについては、のちほど詳述する。

    第1次オイルショックから半世紀を経て、さまざまな代替エネルギーが登場した。もはや石油の枯渇危機は叫ばれなくなったが、いまだに「開発途上国が、先進国並みの生活をするようになったら、食料も資源も不足して争奪戦が起きる」といった言説はなくならない。

    事実、乱獲によって漁業資源が乏しくなるといったことは起こっている。その背景にあるのは、豊かになった人々の増加だ。人々が際限なく消費を拡大していったなら、確実にさまざまな天然資源が枯渇するだろう。

    人口増加は自然環境の破壊にも直結する。人口が増えれば資源の獲得競争は激しさを増す。その分、使用するエネルギー量も増え、地球温暖化は加速した。一方で、都市開発や良質な住宅を確保するために密林地帯など未開の土地の造成が進み、緑地面積は減った。温暖化によって永久凍土が溶けたところに、性懲りもなくさらなる開発の手が伸びていく。

    近年、新規感染症が広まるペースが速くなってきているのもこうした乱開発と無関係ではない。密林などに住む動物を宿主としていたウイルスに人類が接触する機会が増えたためだ。COVID-19に続く新たな感染症の発生が懸念される。

    いまだに世界人口は増え続けている。人々が豊かな暮らしを手にしたいと思う気持ちは抑えようがない。果たして、この先、人類はどうなっていくのだろうか。考え始めたら不安は尽きないだろう。

    世界人口が減少に転じるのは時間の問題

    だが、各国のデータを調べてみると、すでに地球規模で少子化が進み始めている。あまり知られていないが、1950年以降、世界全体の合計特殊出生率は急落している。「2015〜2020年」は2.47だが、21世紀中に「2」台を割り込む見通しだ。世界人口が減少に転じるのは、もはや時間の問題なのである。

    資源不足にしても、地球温暖化の進行にしても、人口の急増が大きな要因となっているわけだから、その前提が変わればいずれは落ち着きを取り戻し解決に向かうこととなる。タイムラグはあるが、いつの日か人類の悩みは人口爆発がもたらす弊害から、人口減少がもたらす課題へと大きく転換するということだ。

    人口が増加から減少へと転じるのは、言うまでもなく少子高齢化が進むからである。人口減少後の世界がどうなっているのかは、「課題先進国」と呼ばれ、少子高齢化が最も進んでいる日本が道標の役割を果たすこととなるかもしれない。

    世界人口の減少の動きは、一律ではない。最初に変化が表れるのは少子化である。続いて平均寿命が延びていく。これが高齢者人口を増やす理由だ。出生数が減り、高齢者が増えるのだから、必然的に勤労世代の割合は減ることとなる。労働者というのは国際間移動をするため、勤労世代の減少はなおさら認識されづらい。

    このように、人口の変化は複雑に進行するが、中でも厄介なのは平均寿命の延びであろう。出生数の減少を覆い隠し「見せかけの人口増加」をもたらすためだ。人口減少がヒタヒタと迫りきていても多くの人は気づかず、状況が放置される。現在の世界人口は、ちょうどこの段階にある。

    平均寿命の延びに限界が来た段階で人口が減り始めるが、そうした状況を多くの人が認識する段階に至ったときには、もはや講ずる策はなくなっている。これは日本が証明していることだが、人類はひたすら絶滅の道を歩んでいくこととなる。

    少子高齢化による人口減少というのは、隕石によって恐竜が死滅したのとは異なる。

    われわれは突如として人類絶滅の日を迎えるわけではない。ある意味、こちらのほうが過酷かもしれないが、絶滅に至るまでの間も少子高齢化は各国の経済を停滞させ、社会機能を麻痺させていく。「老いゆく惑星」の未来は、過去からの延長線上にはないのである。私はこうした事態を「静かなる有事」と名付けて警鐘を鳴らしてきた。

    先にも述べたように、「見せかけの人口増加」は人口減少の危機に対する各国の国民の目を曇らせ、社会全体としての危機感が醸成されにくい状況をつくる。そうしている間にも、年々の少子化で女児の数が減っていく。そうなると、「未来の母親」となる若い女性人口が激減過程に入ってしまい、出生数の下落を止められなくなる。これから多くの国が、日本と同じ運命をたどるだろう。

    繰り返すが、人口がひとたび減り始めると流れを止めることは難しい。それどころか、減少スピードを加速させていくこととなる。われわれは、人類が〝レッドリスト〞の仲間入りをすることになるかどうかの瀬戸際にあることに気付くべきなのである。

    10億人単位の急加速

    先述したように、20世紀は人類史に刻まれる「人口爆発の世紀」であった。その激増ぶりはどういうものであったのか。また、いつの間に減少局面へと転じたのか。20世紀を振り返ると痕跡が見つかる。まずは、時計の針を19世紀に巻き戻してみよう。

     

     

    国立社会保障・人口問題研究所(社人研)の「人口統計資料集」(2021年版)が国連データを紹介しているが、世界人口が10億人に達したのは1800年代はじめである。この頃の年平均の人口増加率は0.4%であった。年平均の人口増加率は、紀元前から20世紀前半(1945〜1950年は0.8%)までずっと0%台で推移してきており、途方もなく長い時間をかけて人類はその数を徐々に増やし、19世紀に10億人に達したということである。

    ところが、10億人から20億人に達する道のりはまったく違った。わずか130年足らずしかかからなかったのである。具体的には1927年とされる。

    突如として人口が急増し始めたのは、農業の生産性が向上し、医療の普及や衛生環境が改善したためだ。先進国では工業へと産業構造が転換していくにつれて人々の暮らしが急速に豊かになり、乳児をはじめとして亡くなる人が減った。一方、開発途上国においては、子ども数の増加は労働力の増加であり、農業収穫量の増大を意味した。

    国連の「世界人口推計」によれば、20億人からさらに10億人増えて30億人となったのは、その30年後の1960年である。40億人となるのには、もっと短く14年しかかかっていない。1974年のことだ。

    50億人突破はその13年後の1987年、60億人突破は50億人突破から同じく12年後の1999年である。

    年平均の人口増加率を見ても、第2次世界大戦後に急加速し始めたことがわかる。先に紹介した通り、「1945〜1950年」は0.8%だったが、「1950〜1955年」に1.78%となるとその後は伸び続け、「1965〜1970年」には2.05%に上昇した。これは、1800年代前半の5倍の水準である。これらは、20世紀の「人口爆発」がいかにすさまじいものであったのかを明確に示しているのだ。

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  2. shinichi Post author

    世界100年カレンダー 少子高齢化する地球でこれから起きること

    by 河合雅司

    世界人口減少、逃げ場なし――。
    日本人はもはや、絶滅危惧種か

    今から半世紀も待たずに世界人口のピークを迎える地球。
    日本が経験済みの少子高齢化が各国を覆い、
    人類滅亡へのカウントダウンが始まろうとしている。
    米中人口戦の行方、アフリカの台頭、世界マーケットの変化、
    人口推計から得られるリアルな未来がここに!

    ◎目次より

    はじめに――世界人口減少「前夜」を迎えて

    【第1話】老いゆく惑星のカレンダー
    老いゆく惑星の「静かなる有事」/日本は「家族計画の優等生」/爆発の裏での増加率下落 etc.
    【第2話】日本の現在地のカレンダー
    日本人は〝絶滅危惧種〞/日本のマーケットの魅力とは/「アジアの世紀」と離れた現実 etc.
    【第3話】アフリカ台頭のカレンダー
    43年後に始まる人類滅亡/人口ボーナスによる最後の開拓地/驚異的な日本の一人負け etc.
    【第4話】少子化と高齢化のカレンダー
    合計特殊出生率が示す現実/少子高齢化による勤労世代の減少/「世界の主役」交代 etc.
    【第5話】世界マーケットのカレンダー
    フロンティアへの希求/課題先進国としての日本/あとの祭りになる少子化問題 etc.
    【第6話】中国100年カレンダー
    人口センサスをめぐるドタバタ劇/世紀の失策 一人っ子政策/低出生率の恐るべき罠 etc.
    【第7話】米国100年カレンダー
    凄まじい人口偏在/移民大国ゆえの若さ/トランプ政権の影響/白人がマイノリティーに etc.
    【第8話】米中人口戦のカレンダー
    人口の多寡をめぐる静かなる戦争/社会の若さを比較する/潜在扶養指数が示す深刻さ etc.

    結びに代えて――人類の未来は変えられる

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