福島第一原子力発電所事故(松浦祥次郎)

シミュレーションの課題

  • 大地震・大津波の規模予測の失敗:予測時の科学的知見の限界
  • 発電所全停電により原子炉計測、データ伝送が不可能となり、事故シミュレーション計算(ERSS及びSPEEDI)が役割を果たせなかった。
  • あらゆる情報伝達が混乱、このため事故対応が多く不全となった。
  • 事故現場は想像を絶する困難状況を来たした。
  • 社会的に大混乱を来たし、原子力安全確保への社会的信頼が崩壊した。
  • 国内及び海外の原子力利用状況に大きな影響を現在も与えている。

2 thoughts on “福島第一原子力発電所事故(松浦祥次郎)

  1. shinichi Post author

    原子力安全確保とシミュレーション

    ─役割と限界─

    by 松浦祥次郎

    実例から指摘されるシミュレーションの課題

    2011年東北地方太平洋沖地震による福島第一原子力発電所事故(過酷事故)

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  2. shinichi Post author

    原子力安全確保とシミュレーション

    ─役割と限界─

    by 松浦祥次郎

    はじめに

    原子力発電体系が基盤とする工学技術体系は、典型的な大規模総合科学技術体系である。その構成および運用の規模と複雑さは、体系の部分的かつ総合的シミュレーション計算の活用を不可欠としている。シミュレーションの範囲は、原子力発電所設置の構想と基本設計の段階から、安全評価、詳細設計、特性試験、通常運用、事故故障対応、そして最終的には解役・解体まで全ての段階に及んでいる。計算科学技術の進展によりシミュレーションの能力は原子炉の初期の開発時期に比較すれば各段に進歩しているとはいえ、各段階についての進歩の状況あるいは水準─state of the art─にはかなりの差が存在していることは否めない。特に、シミュレーションの結果の社会的利用において、福島第一原子力発電所事故に対してシミュレーションがどのように役割を果す能力があったか、能力があったにも拘わらず果せなかったとすればそれは何故か、逆に能力に不足があった点は何か等については多岐・多様な反省と示唆が得られる。ここでは、原子力発電体系の特徴を踏まえ、安全確保の観点から、社会との関係を中心に今後の課題を考えてみたい。

    原子力安全確保におけるシミュレーションの課題のまとめ

     1)モデルの適用可能性範囲の確認:原子力関連事項に関してのシミュレーション計算においては、純粋に科学的第一原理からの論理構成のみで計算が可能なケースはほとんど考えられない。計算方法の検証をする何らかの実験値が不可欠である。しかし、対象範囲を全て包括できる実験値を得ることは不可能であり、また、必ずしも必要ではない。しかし、計算の適用に当っては、インプットデータを含め、計算方法の適用限界を確認しておかなくてはならない。特に、自然現象で科学的知見の限界を超す問題については、シミュレーション結果の適用には最大限の注意が不可欠である。

     2)基礎データの信頼性:使用データは基礎的なものであるほどその確度に関して、実験的検証が重要である。

     3)計算機能力と計算科学技術の進歩結果を最大限に活用すると同時に、その進歩への努力を継続しなければならない。特に国際的評価を通じて、常に使用している手法、データの現状(state of the art)の確認が不可欠である。

     4)シミュレーション結果の公表:社会への正しく、分かりやすい説明に格段の努力を費やすことが求められる。原子力安全確保、放射線影響、事故、トラブルに関して多くの社会的混乱や誤解がこの努力不足から発生していることを再確認し、認識を深めた上で、実践的に改善する必要がある。

     5)シミュレーション結果を通じて原子力安全確保への社会的理解と信頼を高めるには、科学技術的課題への対応と同時に、広範な社会科学的、社会心理学的アプローチが必要と考えられる。

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