福沢恵子

日本の社会では、第一子の出産で働く女性の約7割が離職しています。これは過去20年余りほとんど変化がみられない傾向です。ただ、個々の女性をヒアリングしてみると、20年前と近年では離職の理由がかなり変わってきていることが感じられます。
かつては結婚もしくは出産をきっかけに退職するのが「女性のあるべき姿」という社会通念があり、企業も女性を「短期で離職していく補助的な労働力」として位置づけていました。そのため教育訓練や昇進昇格といった処遇において、男性と女性では著しい差がありました。したがって、出産した女性は「どうせ働き続けても昇進などは望めないのだから今の仕事に未練はない。それよりはこの際育児に専念したい」と考える人が多かったのです。
しかし、男女雇用機会均等法の施行以降は、女性に対する雇用管理が大きく変わり、採用や教育訓練などにおいても性別を理由とした差別的な取り扱いは減少しました。その結果、従来女性は対象とならなかった転居を伴う転勤、残業や出張などを引き受ける女性も見られるようになりました。しかし、これは同時に仕事の負荷も大きくなることも意味します。ハードに働く女性が出産をした場合、以前と同じような働き方をすることは困難です。殊に都市部では保育が十分に確保されない場合も多く、肉親の助けがあるか、民間の保育サービスを利用できる経済的なゆとりがない限り、仕事を続けられません。つまり、彼女たちは「やりがいや責任のある仕事に就いているが故に、子どもを育てながら働くのが難しい」という状況に置かれているのです。
このような状況の背景には、いくつかの要因があります。
ひとつには育児や家事をほとんど負担していない男性労働者のワークスタイルが「働き方の標準」と考えられていること。その結果、育児や家事を主に引き受ける可能性の高い女性は働き続けることは非常に難しいこと。さらには在宅勤務や短時間勤務など柔軟な働き方が選択できた場合も、責任のある仕事をすることは難しいこと。このような理由がいくつも絡み合って、結局多くの女性は一旦仕事を離れるという選択を迫られるのです。

4 thoughts on “福沢恵子

  1. shinichi Post author

    かながわ働き方改革

    ワーキングマザーの就業継続について

    by 福沢恵子

    http://www.kanagawa-wlb.net/?page_id=608

     日本の社会では、第一子の出産で働く女性の約7割が離職しています。これは過去20年余りほとんど変化がみられない傾向です。ただ、個々の女性をヒアリングしてみると、20年前と近年では離職の理由がかなり変わってきていることが感じられます。
     かつて(1986年に男女雇用機会均等法<以下『均等法』と略>が施行される以前)は結婚もしくは出産をきっかけに退職するのが「女性のあるべき姿」という社会通念があり、企業も女性を「短期で離職していく補助的な労働力」として位置づけていました。そのため教育訓練や昇進昇格といった処遇において、男性と女性では著しい差がありました。したがって、出産した女性は「どうせ働き続けても昇進などは望めないのだから今の仕事に未練はない。それよりはこの際育児に専念したい」と考える人が多かったのです。

     しかし、均等法の施行以降(特に97年の改正法以降)は、女性に対する雇用管理が大きく変わり、採用や教育訓練などにおいても性別を理由とした差別的な取り扱いは減少しました。その結果、従来女性は対象とならなかった転居を伴う転勤、残業や出張などを引き受ける女性も見られるようになりました。しかし、これは同時に仕事の負荷も大きくなることも意味します。ハードに働く女性が出産をした場合、以前と同じような働き方をすることは困難です。殊に都市部では保育が十分に確保されない場合も多く、肉親の助けがあるか、民間の保育サービスを利用できる経済的なゆとりがない限り、仕事を続けられません。つまり、彼女たちは「やりがいや責任のある仕事に就いているが故に、子どもを育てながら働くのが難しい」という状況に置かれているのです。
     このような状況の背景には、いくつかの要因があります。
     ひとつには育児や家事をほとんど負担していない男性労働者のワークスタイルが「働き方の標準」と考えられていること。その結果、育児や家事を主に引き受ける可能性の高い女性は働き続けることは非常に難しいこと。さらには在宅勤務や短時間勤務など柔軟な働き方が選択できた場合も、責任のある仕事をすることは難しいこと。このような理由がいくつも絡み合って、結局多くの女性は一旦仕事を離れるという選択を迫られるのです。
     ワーキングマザーたちが就業を継続するためには「子育て中もペースを落とさずにパワー全開で仕事をする」ことを目指すよりは、「少しスローダウンしても、細く長く仕事ができる」「一旦スローダウンしても、また状況が変わればペースを上げられる」という柔軟性のある職場環境が必要です。また、一時期離職することがあったとしても、その後再び就業したいという場合は、離職していたことが著しく不利に扱われないような企業側の採用ポリシーと、労働者側のブラッシュアップに対する意識的な姿勢も求められます。同時に離職せず継続的に就業するワーキングマザーに対しても、実効性のある保育対策や時間的・物理的な配慮が不可欠です。
     せっかく女性も主体的に仕事ができる立場に就けるような社会になったにも関わらず、仕事の負荷は「男女平等」で、育児や家事の負担は圧倒的に「女性が一手に担う」という状況が続いているために、ワーキングマザーは自分の役割に葛藤して苦しむことが多いのです。
     このような状況を打開するためには、男性の家事や育児参加が不可欠です。現在、日本の幼児を持つお父さんの1日の家事・育児時間は合計で1時間ですが、それが3時間程度まで増えればお母さんの負担感も相当緩和されるでしょう。そのためには総労働時間の短縮が必要です。それにより「女性だけが家事も育児も仕事も」という多重の役割を背負わなくても済むようになるのです。保育に対しても「子どもを預けたくても保育園に空きがない」という問題を解決するために、行政の支援と民間の保育サポートの充実の両方が自転車の両輪のように機能することが望まれます。このようなインフラの整備を進めることがワーキングマザーの就業継続につながっていくのだと思います。
     また、短時間勤務や在宅勤務など、働き方の柔軟性を認めることも重要です。これまではこのような働き方をすると「主流からはずれる」と見なされることもあったようですが、今後は「責任ある仕事をしながらも短時間勤務」「専門職として働いているが非常勤の在宅勤務」というワークスタイルも十分成立する可能性があると思います。
     ワーキングマザーのワークスタイルに「絶対的な正解」は存在しないのです。それぞれが自分の置かれた環境で「自分にとってどのような働き方が一番心地よいのか」を考え、また「どのような選択をしても、その選択によって後に著しい不利益を被ることはない」という状態があれば、どのような選択をしても納得できることでしょう。
     「フルタイムの正社員」だけが「正しい継続就業」だと一面的に決めつけることも必ずしも正しくはありません。現在の正規・非正規の待遇格差は是正されるべきではありますが、「就業を継続する」ということを前提にした場合、ある時期は時間的に融通の利きやすい非正規就業で働くということも選択肢として十分考えられると思います。しかし、この場合も、将来的にその人の状況が変化して、本人が希望すれば正規での雇用の可能性が開かれていることが望ましいのは改めて言うまでもありません。
     ワーキングマザーの就業継続においては、自分の置かれている状況と仕事の状況を総合的にとらえて判断するという「複眼的な視点」が求められます。「こうあらねばならない」という思い込みを一旦手放して、自分自身の率直な気持ち、置かれている状況、周囲の環境を眺めてみることが最良の選択につながると思います。

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  2. shinichi Post author

    福沢恵子という人の言うことに、目新しさはない。女性の社会進出ということも新しい話題ではない。多くの学者たちは「そんなことはわかりきったこと」、「もう言い尽くされたこと」と言って、福沢さんが言っているようなことを切り捨てる。

    でも、ゆっくりとしか変わっていかない社会を変えようとすれば、言い続けることがいちばん大事なのだと思う。日本のような社会は、世代が代わるまで言い続けないとならないので大変だけれど、言い続けなければならない。

    学者仲間からは軽く見られても、どこにでも出かけていき、同じことを説き続けることで、長期的に見れば学者たちよりはるかに大きなアウトプットを出すことができる。そういうやり方でしか、社会は変えられないのだろう。

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  3. shinichi Post author

    福沢さんが、テレビで、「男性はすぐビジネスを大きくしようとするけれど、女性は地域内だけのビジネスとか身の丈にあったビジネスを好むようだ」というようなことを言っていた。

    女性の社会進出が進めば、日本も少しはまともになるかもしれない。

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