生涯、好きな絵を描くことができて、本当に幸せだった。ただ、あまりにも有名になり過ぎて、絵を描く時間が少なくなったことが残念でならない。
1944年の戦争特別美術展に出品された荒海
(sk) この作品を戦争画の展覧会に出品した川合玉堂の気持ちが少しでもわかればと思い、絵の前にしばし佇んでみた。しばらくすると左下の波飛沫の上に顔を出したドラゴンが、その右に二本の長い角を持ったガゼルが、その右下にバッファローが、はっきりと浮かび上がってきた。他にも動物がいる。みんな波の中で溺れるかのようなのに、同じほうを見据えている。波も、岩も、みんな「動」なのに、動物たちと遠くに見える高い波は「静」。夢を見ているような不思議な体験だった。
1945年に疎開先の奥多摩で描いた早乙女
(sk) 畔のなかは静かで、苗を植えている娘たちは元気で明るい。戦争を感じさせないこの風景から、逆に戦争が迫ってくる。
山種美術館
『川合玉堂-日本のふるさと・日本のこころ-』