池田信夫

対外純資産は為替レートとは無関係である。経常収支が黒字になると通貨が強くなるという理論は、1970年代まではあったが今はない。もともと変動相場制は、フリードマンなどが経常収支の不均衡を是正するメカニズムとして提案したものだが、実際にはそうならなかった。
その原因は、貿易の決済のための実需は外為市場のごく一部しかなく、為替取引(5兆ドル/日)の99% は投機的取引だからである。ここでは通貨は株式や債券と同じ金融資産だから、経常収支なんか関係なく、重視されるのはそのインカムゲイン(金利)とキャピタルゲイン(値上がり益)だ。
金利は名目でみると日本は低いが、デフレなので実質金利は高く、日米でほぼ均等化している。値上がり益は予想に依存するが、今回のようにFRBが時間軸政策で低金利にコミットすると、ドルが下がるという予想が支配的になる。それが今回のドル安の原因である。
名目レートをみると「歴史的な円高」だが、実質的にはそうでもない。円の(物価上昇率などの影響を除いた)実質実効レートは、1995年に比べて3割近く下がっている。名目レートが上がったのは、この16年間にアメリカの物価が約40%上がったのに対して日本がほぼ0%だったためだ。購買力平価の簡単な指標であるビッグマック指数でみても、日本は4.08ドル、アメリカは4.07ドルで、円は高くも安くもない。
このように資産市場としてみると、現在の為替レートは合理的な水準で、一時的要因でドル安ではあるが円高ではなく、まだ円は強くなる余地がある。1日に5兆ドルが動く外為市場の動きを数千億ドルの為替介入で阻止することはできない。

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