楡周平, 林真理子

:じゃあその人の音楽が聴かれてないのかというと、そんなことはないんですよね。ただ、みんなコンテンツに対してお金を出さなくなった。出版業界も市場が縮小し続けていますが、みんなが本を読まなくなったのかというとそうではなくて、図書館の貸し出し数はずっと右肩上がりなんです。
:そうなんですよね。女性誌の「節約特集」なんか見ると、必ずといっていいほど「本は図書館で借りましょう」とあって、本を買う人は変わってる、節約しない人みたいな書かれ方じゃないですか。
:読者の絶対数はそんなに減ってなくで、要はタダで読むことを覚えちゃったんです。全国の図書館の貸し出し状況が見られる「カーリル」というサイトがあるんですけど、あっという間に予約が埋まるんです。みんな自分のお金を出したくないんですよ。いままで本を買い支えてくれたコア層の一つは、団塊の世代だったと思うんですが、その団塊の世代が定年退職して時間がある、じゃあ本を買うかというと、そうはならない。
:図書館に行くんですよね。
:僕らは小屋がけしてるわけですよ。そこでお代をいただいて、そのお代に値するかどうかはお客さんに判断してもらって、それで生きてるわけですよね。ところが、活字の世界でお金を得ることに対して、すごくネガティブな反応を示す人たちがいるんです。
:そうなんです! 昔、イザヤ・ベンダサンが「日本人は水と安全はタダだと思っている」と書いてましたけど、いまは情報がタダだと思ってますよね。

2 thoughts on “楡周平, 林真理子

  1. shinichi Post author

    読者数は減ってない? 作家が“本の売れない理由”を語る

    週刊朝日

    2014年5月2日号

    http://dot.asahi.com/news/domestic/2014042500041.html

    林:楡さんは作家になる前、コダックに勤めていらしたんですね。世界最大のフィルムメーカーで、株価もガンガン上がって、すごい優良企業だったのに、ある日、経営破綻してしまう。フィルムというものがなくなって、デジタルが出てきたせいで。

    楡:衝撃的な出来事でしたね。僕は作家になる前の3年ぐらいの間、デジタルのマーケティングを担当していて、「皆さんのビジネスはもうすぐなくなりますよ」というプレゼンテーションをやってたんです。

    林:そのときの反応、どうでした?

    楡:「こんなにうまくいってるのに、フィルムがなくなるなんてあり得ない」というのが、大方の反応でしたね。ピンとこなかったようで。いま思うとそれも仕方なくて、当時(90年代前半)、すでにデジカメもパソコンもあったんですけど、画像データは重いしフリーズはするしで、とても仕事に使えるようなものではなかったんです。だけどデジタルをやってる人間は、10年先の進化したコンピュータの世界を考えますから、「どう考えてもフィルムは終わる」ということがわかってしまうわけで。

    林:時代を読み切れなかったんですかね。

    楡:というか、あまりにも完全に確立されたビジネスモデルがあると、そこから脱しきれないんですよ。

    林:いまの出版業界にも同じことが言えますか。

    楡:そう思います。去年の大晦日の夜7時のNHKニュース、つまり昨年最後のニュースの中で、「出版業界はこれだけ縮小している」というのをやってたんですよ。ピークだった1996年、これは私がデビューした年ですが、そこからいまは5分の3に減ったというんです。17年間で40%縮小してるんですね。とたんに気分が暗くなっちゃって、そのまま年を越しました(笑)。

    林:音楽もパソコンやスマホにダウンロードするようになってから、CDが売れなくなりましたよね。バブルのころは100万枚売れてた国民的大歌手も、いまは1万5千枚しか売れないというから、慄然としますよ。

    楡:じゃあその人の音楽が聴かれてないのかというと、そんなことはないんですよね。ただ、みんなコンテンツに対してお金を出さなくなった。出版業界も市場が縮小し続けていますが、みんなが本を読まなくなったのかというとそうではなくて、図書館の貸し出し数はずっと右肩上がりなんです。

    林:そうなんですよね。女性誌の「節約特集」なんか見ると、必ずといっていいほど「本は図書館で借りましょう」とあって、本を買う人は変わってる、節約しない人みたいな書かれ方じゃないですか。

    楡:読者の絶対数はそんなに減ってなくで、要はタダで読むことを覚えちゃったんです。全国の図書館の貸し出し状況が見られる「カーリル」というサイトがあるんですけど、あっという間に予約が埋まるんです。みんな自分のお金を出したくないんですよ。いままで本を買い支えてくれたコア層の一つは、団塊の世代だったと思うんですが、その団塊の世代が定年退職して時間がある、じゃあ本を買うかというと、そうはならない。

    林:図書館に行くんですよね。

    楡:僕らは小屋がけ(芝居小屋をつくって芝居をすること)してるわけですよ。そこでお代をいただいて、そのお代に値するかどうかはお客さんに判断してもらって、それで生きてるわけですよね。ところが、活字の世界でお金を得ることに対して、すごくネガティブな反応を示す人たちがいるんです。

    林:そうなんです! 昔、イザヤ・ベンダサンが「日本人は水と安全はタダだと思っている」と書いてましたけど、いまは情報がタダだと思ってますよね。

    Reply
  2. shinichi Post author

    (sk)

    自分たちの収入が上がらなくなり、その不満の矛先を図書館に向ける物書きたち。世の中の流れを完全に見誤っている。

    図書館は、酷暑には涼むところとして、酷寒には暖まるところとして賑わってはいるけれど、ディジタルの興隆に押され、世界的にジリ貧の状態が続いている。どの国の図書館も、予算の削減に悩まされている。

    物書きが豊かな暮らしができたのは人々が豊かだったからで、図書館がなかったからではない。実際、図書館はずっと存在していた。

    人々が貧しかったときは、物書きは皆、困窮していた。いま人々が再び貧しくなってきて、物書きのところにおカネが回らなくなってきた。それだけのことだ。

    日本人が情報にカネを払わないという指摘だけは当たっている。でもそれは、楡周平や林真理子の文章にカネを出すかどうかという次元の話ではない。CDやDVDにカネを出すかということでもない。

    国家や地方自治体を運営していくうえでカネを出すかどうか、企業や団体をマネージしていくうえでカネを出すか、そういう意味合いで、日本人は情報への支出に不真面目すぎたのだ。

    調査費、情報収集費などという予算が、飲み食いや、出張や、図書の購入などに充てられ、まともな情報の収集に使われてこなかったことこそを反省すべきなのだ。

    調査費、情報収集費などという予算から、楡周平や林真理子の本を買うことこそが、間違いなのだ。

    私たちは、楡周平や林真理子が、良い生活をしているのを知っている。そして、本を読んだり、劇を観るなかで、与謝野晶子や石川啄木が、経済的に困窮していたことを知っている。どちらの書くものがより良いとか悪いとか言うつもりはないが、どちらが豊かかということは言ってもいいだろう。

    自分たちの収入よりも先に、考えることがあるのではないか。

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