玄田有史

ランダムに指定された連続 2 日間に、ずっと一人であるか家族以外に誰とも一緒にいなかったスネップ (Solitary Non-Employed Persons (SNEP): 孤立無業者) は、2011 年時点で 20~59 歳未婚無業者(在学中を除く)の約 6 割を占めている。その数は 162 万人と、1996 年と比べて 2 倍以上の急速な増加となっている。スネップのうち、過去一年間にスポーツ、旅行、ボランティアなどの社交的活動を一切していなかった人々が約 4 割にのぼり、他者と交流のある無業者と比べても突出している。
無業者では、男性、中高年齢、高校中退を含む中学卒ほどスネップになりやすい傾向がみられた。その一方、2000 年代になると、20 歳代の若年無業者が孤立している割合が高まるなど、孤立は若年無業者の間にも拡大しつつある。スネップは身近に一緒にいる人がいないだけでなく、電子メールによる交流も乏しく、その分、テレビの視聴時間や睡眠時間などが長くなっていた。スネップは求職活動、就業希望、仕事につくための学習に対して消極的であり、なかでも家族と一緒にいる家族型ほど就業から遠ざかる傾向がみられた。
スネップの増加は、ひきこもりやニートなどと並んで、社会の不安定化要因となる可能性が大きい。社会からの孤立状態を解消するためのアウトリーチの推進や、生活保護を受給せざるを得ない状況に陥った場合にも速やかに就業に移行できる政策が必要となる。

One thought on “玄田有史

  1. shinichi Post author

    孤立無業者(SNEP)の現状と課題

    by 玄田有史

    http://web.iss.u-tokyo.ac.jp/future/孤立無業_特別集計.pdf

    孤立無業者は 2000 年代に急増、2011 年時点では 162 万人に達し、60 歳未満未婚無業者の約 6 割を占めるに至っている。

    スネップは調査された 2 日間に限らず、一年を遡ってもスポーツ、旅行、ボランティアなどの社交活動を一切行っていない割合が高く、特に家族を含めて誰とも一緒にいない一人型孤立無業者ほどその傾向は強い。

    スネップは、男性、中高年、中学卒(高校中退を含む)ほどなりやすい。ただし 2006 年および 2011 年には、20 歳代がスネップになりにくい傾向は弱まり、若年未婚無業者の孤立が深刻化している。

    スネップは実際の交流が欠けているのみならず、電子メールや情報検索などインターネットの利用も少ない。スネップは、テレビ視聴、趣味・娯楽、休養、睡眠等の時間が他の無業者に比べて長い。一方でスネップほどテレビやパソコンなどによるゲームをよく利用しているといった傾向はみられない。

    60 歳未満未婚無業のうち、スネップであり、同時にニート及び中高年ニートである人々は、3 割を占める。実際スネップは求職活動、就業希望、仕事につくための学習のいずれにも消極的であり、家族以外との交流を持たない家族型孤立無業ほどその傾向は顕著である。

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    総務省統計局『労働力調査』によれば、各月の月末1週間において把握した収入を伴う仕事をしていない者、いわゆる「無業者」は 2010 年平均で 15 歳以上人口のうち、4786 万人にのぼる。その数は仕事をしている「就業者」総数 6257 万人と比べて、遜色ない数字である。少子化にともなう就業人口の減少に対し、外国人労働力への門戸開放よりは、まず国内に眠る潜在的就業可能者の活用による対応こそが望ましいといわれる理由の一つに、こうした大量の無業者の存在がある。

    従来、無業者を類型化する最も一般的な方法とは「完全失業者」と「非労働力人口」の区分だった。完全失業者とは、調査期間中に少しも仕事をしなかった者のうち、仕事を探す活動をしていたり、事業を始める準備をしつつ、実際に仕事があればすぐに就くことができる人々として定義される。就業者と完全失業者を加えた労働力人口に占める完全失業者の比率が完全失業率である。完全失業率は、厚生労働省発表による有効求人倍率とならび、月次や年次レベルでの就業困難の度合いをはかる基礎指標として注目されてきた。

    一方、非労働力人口は、15 歳以上人口のうち、労働力人口以外の人々として定義される。求職活動をしていない、もしくは病気・怪我などのために仕事に就けない点で、非労働力人口は、完全失業者と違いを有する。労働力調査において非労働力人口は「通学」「家事」「その他(高齢者など)」に区分され、1953 年の調査開始以来「家事」が主流であったが、2003 年以降は「その他」が最も多くなっている。

    完全失業者に比べ、政策面でも研究面でも必ずしも注目を集めてこなかった非労働力への関心を高めた理由がある。「ニート(Not in Education, Employment, or Training: NEET)」の発見である(玄田・曲沼[2004]、小杉[2004]、Genda[2007])。それまで非労働力といえば、専業主婦として家事に専念する既婚女性、学業に専念する学生・生徒、仕事を引退した高齢者が一般的に想起されてきた。しかし一連のニート研究が示したのは、未婚者であり、かつ学校を卒業した働き盛りの若年層にすら求職活動を行わない「ニート」の無業者が多数存在する事実だった。ニート状態の若者は統計的には非労働力人口に含まれるため、2000 年代半ばまで失業者やフリーターのような注目を集めることもなく、政府による対策もなされない状況にあった。

    だがニート状態にある若者は、就職に失敗を繰り返した結果、働くことに自信を失っていたり、高校中退のまま就業も進学の機会を失った状況にあるなど、早急な対策が求められる場合も少なくなかった。そしてニートの存在が広く社会に認知されるにしたがい、政策的な検討も次第に開始されていく。2003 年に政府が開始した「若者自立・挑戦プラン」

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    本稿では特に社会から孤立した状況に晒されやすい人々として、20 歳以上 59 歳以下の未婚者であり、かつ在学中を除いた無業者に焦点を当てる。したがってここで考察対象とする無業者には、60 歳以上の高齢無業者のように働いていなくても年金により生活を支えられる可能性のある人々は含まない。また専業主婦(夫)のように、家庭を支える一方、生活のための収入稼得は有業の配偶者に委ねている既婚者も含まない5。それゆえここで対象とする引退前の未婚者の多くは、無業化した場合、資産を取り崩したり、親やきょうだいなどの親族による支えがない限り、生計を立てるのが困難な状況に陥りやすい人々である。

    さらには 10 代や学生や生徒など将来の就職の準備段階にあり、勉学や技能習得、交友を中心に生活している人たちも除いた。一方、中高年のニートやひきこもりなどが深刻視されつつあることを踏まえ、従来のフリーター・ニート研究のように対象年齢を 35 歳以下に限定せず、引退を考える以前の 59 歳以下まで拡大した。

    これらの 20 歳以上 59 歳以下で未婚かつ在学中でない無業者を、以下では「60 歳未満未婚無業者」と呼ぶ。尚、既婚者、高齢者、在学生などに無業の対象を拡張し、孤立無業を広義に解釈した場合も、後に考察する。

    ここでいう無業とは、ふだんの就業状態として収入を目的とした仕事をしている有業者ではない人であり、かつ「仕事をしていない」状況として「通学」を除いた「家事」もしくは「その他」に該当する場合である6。さらに生活時間編について、1 日目もしくは 2 日目のいずれか一方でも生活時間の記入のなかった標本を除いた。その結果、分析に利用可能な 60 歳未満未婚無業者の標本は 2011 年時点で 3106 件となった。

    社会生活基本調査がユニークなのは、行動の種類とならんで、一緒にいた人が誰であったかを調査日ごとに 15 分単位で 24 時間のすべてについて回答することになっている点である。一緒にいた人は「一人で」「家族」「学校・職場の人」「その他の人」から選び、複数の人たちと行動した場合は該当するすべてを記入する。近くに知っている人がいない場合や睡眠中は「一人で」を選ぶことになる。ここでいう「一緒にいた」とは、普通に会話ができる程度の距離にいる場合を指し、電話やインターネットを通じた交流は含まない。

    以上より「孤立無業者(Solitary Non-Employed Persons: SNEP スネップ)」を次の通り定義する。

    孤立無業者の定義:20 歳以上 59 歳以下の在学中を除く未婚無業者のうち、ふだんずっと一人か一緒にいる人が家族以外いない人々。

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