内田樹

日本で今起きている問題は、戦争の総括の失敗が七十年間、尾をひいているわけです。総括は文学者や哲学者だけの仕事ではなく、もっと国民的な規模で、徹底的になされるべきだった。戦中派の方たちが亡くなった今、戦中派のたたずまいに接した私たちの世代の責務として、総括の仕事を引き継ぐしかないという思いがしたのです。
敗戦後しばらくは米国に対して面従腹背だったが、今は『面従腹従』。政治家も官僚も、アメリカに評価されることが個人的な出世などの利益につながる。国益ではなく、私益のために対米従属している。そんな国は同盟国として信頼されない。今のやり方では、絶対に国家としての主権は回復できない。
非常時にどう生き延びるのか。それには自分で決断して行動できる人間が必要です。今の日本は、上の指示がない限り動かない人間しかつくらない。国家としての脆弱性は戦後最悪レベルでしょう。
『みんな目を覚ませ』と一生懸命言っているけれど、目を覚ましてくれない。そんなノンビリしているような状況じゃないんだよ、たかをくくるなよ、と言いたいですね。

One thought on “内田樹

  1. shinichi Post author

    敗戦の総括 継ぐ責務 『街場の戦争論』 思想家・武道家 内田 樹さん(64)

    by 石井敬

    http://www.tokyo-np.co.jp/article/book/kakuhito/list/CK2014111602000165.html

     今は二つの戦争にはさまれた「戦争間期」ではないか。「次の戦争」が接近しているのではないか-。そんな思いで書いた一冊だ。

     「日本で今起きている問題は、戦争の総括の失敗が七十年間、尾をひいているわけです。総括は文学者や哲学者だけの仕事ではなく、もっと国民的な規模で、徹底的になされるべきだった。戦中派の方たちが亡くなった今、戦中派のたたずまいに接した私たちの世代の責務として、総括の仕事を引き継ぐしかないという思いがしたのです」

     日本は戦争に負けることで何を失ったのか。この問いに答えるために本書では「一九四二年のミッドウェー海戦後に日本が講和を求めていたら」と仮定した。犠牲者は大幅に少なくてすみ、「ふつうの敗戦国」になったはずだった。だが、現実は壊滅的な敗戦で「異常な敗戦国」になった。「自分たちが何を失ったのか」を問う知力まで失ったことが、現状につながっていると内田さんは分析する。

     「敗戦後しばらくは米国に対して面従腹背だったが、今は『面従腹従』。政治家も官僚も、アメリカに評価されることが個人的な出世などの利益につながる。国益ではなく、私益のために対米従属している。そんな国は同盟国として信頼されない。今のやり方では、絶対に国家としての主権は回復できない」

     集団的自衛権の行使容認に秘密保護法の成立。動きは急だ。「自民党の改憲案では、非常時に国会での審議をへずに法律と同等の政令をつくれる。行政府にすべての権限を集中して事実上の独裁体制をつくることを意味します。戦中派の人たちを墓場から呼び返して現状を見せたら、『しまった』と言うと思います」

     本書に副題を付けると「想像力の使い方」になるという。「戦争のような非常時を想像する」ということだ。「非常時にどう生き延びるのか。それには自分で決断して行動できる人間が必要です。今の日本は、上の指示がない限り動かない人間しかつくらない。国家としての脆弱(ぜいじゃく)性は戦後最悪レベルでしょう」

     危機感は募るばかりだという。「『みんな目を覚ませ』と一生懸命言っているけれど、目を覚ましてくれない。そんなノンビリしているような状況じゃないんだよ、たかをくくるなよ、と言いたいですね」

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