小林康夫

それぞれの学問にはそれぞれ固有の対象領域があります。法律を扱う学問が法学であり、経済現象を対象とするのが経済学です。もちろん、その領域をさらに細分化し、専門化していくこともできます。きわめて簡単に言ってしまえば、学問とは、一定の対象に関する普遍的な記述を与えることだと言ってもいいでしょう。普遍的な記述が与えられることによって、われわれはその対象を操作し、統御することができるわけで、そうした実践性だけが学問の動機のすべてではありませんが、しかしそれを通じて学問は社会へと開かれているわけです。
ここで大事なキー・ワードは、「普遍性」ということです。つまり、学問がある対象の記述を目指すにしても、その記述は、けっして記述する人の主観に左右されるものではなく、原理的には「誰にとってもそうである」ような仕方で記述されているのでなければなりません。「わたしはこう思う」というだけでは、まったく不十分なのであって、「わたしにとってそうであるだけでなく、あなたにとっても、誰にとってもそうであるとわたしは思う」のでなければならず、しかもなぜそのように言うことができるのかを、論理的に――ということは、原理的には誰にも分かるような仕方で説明し、論証することができるのでなければなりません。
そのことを、専門的な言い方では「反証可能性(falsifiability)」と言います。すなわち、どのような知の言説も、同じ知の共同体に属する他の研究者が、同じ手続きを踏んでその記述や主張を、再検討し、場合によっては、反論し、反駁し、更新するという可能性に対して開かれていなければならないということです。

One thought on “小林康夫

  1. Anonymous

    学問の行為論

    誰のための真理か

    by 小林康夫

    知の技法: 東京大学教養学部「基礎演習」テキスト

    chi


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