現在,NHKおよび新聞協会ではロシアの酒「vodka」のカタカナ表記を「ウオツカ」にしている。しかし,日本語としては「ウオッカ」「ウォッカ」の形で定着しており,「ウオツカ」では違和感があるという声が大きい。この語の発音と表記について用語委員の意見を聞く。
荻野綱男委員:誤読からのスタートであることは確かだが,すでに[ウオッカ]または[ウォッカ]の発音が普通になってしまった。ことばの問題は多勢に無勢である。「ウオッカ」が多数であるならば「ッ」でいいのではないかと思う。
清水義範委員:「ウオツカ」のほうが原音に近いということをここで初めて知った。「vodka」はこれだけみんなが「ウオッカ」と言っているものを「ウオツカ」にこだわるのも無理だろう。そろそろ「ウオッカ」でいいのではないか。こういう問題にそろそろというのも変だが,みんなが言ってしまっていると,そろそろという気になってくる。崩さざるをえないということだろうか。
井上史雄委員:結論に賛成である。誤読であることは確かである。戦前に「ッ」「ャ」「ュ」「ョ」を小さく書かなかったために出てきた誤読である。1973 年の調査でこれだけの使用率であり,現代では「ウオッカ」で問題ないと思う。
野村雅昭委員:この問題については「ウオッカ」とせざるをえないということで賛成する。
天野祐吉委員:「ウオツカ」というとキザな感じがする。通ぶっている感じ。今はみんな[ウオッカ]と言っているし,「ウオッカ」でいいと思う。しかし,「ウオツカ」も間違いではない。「ウオツカ」の表記も入れておいてはどうだろうか。「ウオツカ」が間違いというのも変な話だ。
井上由美子委員 :「ウォッカ」の表記も気になるが,一気に「オ」と「ツ」を小さくするわけにはいかないだろう。現状を考えると「ウオッカ」とせざるをえないと思う。
製品名 :サントリー →ウオツカ,アサヒ →ウオッカ,キリン,サッポロ,宝酒造 →ウォッカ
外来語の発音・表記について
平成24年12月号「放送用語委員会報告」
http://www.nhk.or.jp/bunken/summary/kotoba/yougo/pdf/095.pdf
「ウイスキー」か「ウィスキー」か
by 山下洋子
NHK放送文化研究所
https://www.nhk.or.jp/bunken/summary/kotoba/gimon/211.html
Q: 「whisky」をカタカナ表記する場合には、「ウイスキー」がいいでしょうか、「ウィスキー」がいいでしょうか。
A: 「ウイスキー」(大きい「イ」)で発音・表記します。
解説
一般には「ウィスキー」(小さい「ィ」)の表記も見られますが、放送では、「ウイスキー」(大きい「イ」)を使っています。
この2つの表記は、発音が異なります。後者は「ウイ」とはっきり読みますが、前者は「イ」をはっきり読みません。発音記号で書くと、[ui]と[wi]の違いです。
このことばが日本に入ってきた明治から昭和にかけての日本語では、「ウィ」という発音はあまり使われておらず、「ウイ」という発音が一般的で、多くのことばは「ウイ」という発音・表記で定着しました。「ウイスキー」も「ウイ」の発音・表記で定着してものの1つです。そのため、放送では、「ウイスキー」という発音と表記をとるわけです。
こういったカタカナで書き表すような語を「外来語」といいます。「外来語」は、一般的に、西洋の諸言語から日本語に入ってきたことばを言います。「かるた」や「きせる」「たばこ」のように江戸時代に日本に入ってきた語も「外来語」の一種です。また、「ギョーザ」や「シューマイ」など現代中国語から入ってきた語や、韓国、ベトナム、タイなどのアジアから入ってくることばも「外来語」に含まれます。
外来語の書き表し方は、日本人の発音に合わせた表記を基本に、国が「外来語の表記」(内閣告示)で考え方を示しています。
また、NHKでも、内閣告示と発音の実態を踏まえて「外来語の表記」を決めています。発音と表記を一致させることが原則です。
さて、「whisky」ですが、明治時代に日本に入ってきて以降、いろいろな表記がされたようです。例えば、「ウヰスキー」と表記されることもありました。「ヰ」は「ウィ」の発音を示す、古いカナですが、現代では、ほとんど使われていません(「ニッカウヰスキー」など古くからの会社名や書名などに見られます)。そのほか、「ヰスキー」「ヰスキ」「ウイスキ」「ウイスケ」「ウヰスケ」「ウスケ」などの表記があったようです。
NHKの外来語の発音・表記について、くわしくは、『NHKことばのハンドブック第2版』(NHK出版)に説明があります。合わせてご覧ください。
「パーティ」か?「パーティー」か?
by 山下洋子
NHK放送文化研究所
https://www.nhk.or.jp/bunken/summary/kotoba/gimon/205.html
Q: 「party」ということばをカタカナで書き表すのに、「パーティ」と書いてあるものと、「パーティー」と書いてあるものと両方見ることがあります。放送で使う場合にはどちらを使ったほうがいいのでしょうか。
A: 放送では、[パーティー]と発音し、その発音のとおり「パーティー」と書きます。
解説
「party」をカタカナで書き表す場合、一般にはいくつかの書き方が見られます。
「パーティ」「パーティー」のほか、古くは「パーチー」などの表記も見られました。また、現代では「party」とアルファベットのまま書き表すこともあります。
放送で、外来語を書き表す場合は、発音のとおりにカタカナで書き表すことを前提に、国が決める「外来語の表記の原則」にのっとって表記しています。
その原則では、英語などの原語のスペルの語末に「-y」がついている場合、長音符号「ー」を使って書き表すことにしています。また、原音にのびる音が含まれる場合も「長音符号」を使って書き表します。
こうした原則により、放送では「party」は「パーティー」と表記しています。
なお、「ティ」の「ィ」がのびる音を含んでいると考える人もいるようですが、「ティ」だけでは、のびる音を含みません。言ってみれば「ア」「イ」「ウ」と同じようにそこで止まる発音です。
外来語の発音と表記については、当研究所発行の『放送研究と調査』「放送用語委員会報告(東京)」でたびたび取り上げて、議論しています。今回の質問にある外来語の「語末の長音」の問題については、平成24年12月号「放送用語委員会報告」にくわしい説明があります。あわせてご覧ください。
七転八倒は7 転 8 倒か?
平成 20 年度「放送における数字表現」に関する調査から
by 山下洋子
https://www.nhk.or.jp/bunken/summary/research/report/2009_09/090905.pdf