この日、ディズニー・ジャパンの公式ツイッターに投稿されたのは「なんでもない日おめでとう」の文字。その下には、映画『ふしぎの国のアリス』のアリスがケーキを持ち「A VERY MERRY UNBIRTHDAY TO YOU!」の英語が書かれたイラストが添えられていました。
ツイートされたセリフは、不思議の国に迷い込んだアリスが“狂ったお茶会に”出くわしたシーンのもの。マッドハッター(帽子屋)と三月うさぎが、お誕生日以外の364日は「“なんでもない日”おめでとう!」と歌います。
直訳は「楽しい誕生日じゃない日を!」ですが、ナンセンスさを表現した“意訳”の「“なんでもない日”おめでとう!」が、不思議の国の世界観にピタリときます。
ところが、ツイッターの140文字という制限の中でこの言葉だけを切り出すとどうでしょう。
話の流れの中にあったはずの文脈を失って、唐突な翻訳の印象を受ける上に、読み手が自由にいろいろなイメージや言葉とつなぎあわせられるようになります。すると、送り手が思っていた意味と違う解釈が生じやすくなってしまうのです。
アリスの世界の言葉が切り出されて文脈をなくし、日本人に向けて訳され、うかつにも9日にツイートしてしまった今回の事案。そのひと言に、受け手がどんな意味を見出すかを感じ取ることは、私たちみんなにとっての課題であることを再認識させてくれた騒動でした。
「なんでもない日おめでとう。」の炎上ディズニー、アリスの世界観とは?
アリスの世界観の象徴的な言葉がツイッターから抜け出し、一人歩き…
http://wol.nikkeibp.co.jp/article/trend/20150812/212123/?rt=nocnt
8月9日午前9時にディズニー・ジャパンの公式ツイッターに「なんでもない日おめでとう。」というツイートが投稿されました。この日は長崎原爆の日だったことから「日本の公式アカウントがツイートする内容ではない」といった批判の声が殺到。アカウントは炎上し、ディズニー・ジャパンは公式に謝罪をする事態になりました――。
スヌーピーの「ピーナッツ」連載などの翻訳を手がけ、日経ウーマンオンラインの連載「今日の名言」でもおなじみ、翻訳家でコミュニケーション・アナリストの上野陽子さんに、今回の騒動についてポイントを解説していただきました。
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この日、ディズニー・ジャパンの公式ツイッターに投稿されたのは「なんでもない日おめでとう」の文字。その下には、映画『ふしぎの国のアリス』(*下記注)のアリスがケーキを持ち「A VERY MERRY UNBIRTHDAY TO YOU!」の英語が書かれたイラストが添えられていました。
ツイートされたセリフは、不思議の国に迷い込んだアリスが“狂ったお茶会に”出くわしたシーンのもの。マッドハッター(帽子屋)と三月うさぎが、お誕生日以外の364日は「“なんでもない日”おめでとう!」と歌います。
直訳は「楽しい誕生日じゃない日を!」ですが、ナンセンスさを表現した“意訳”の「“なんでもない日”おめでとう!」が、不思議の国の世界観にピタリときます。
140文字の制限下で投稿する難しさ
ところが、ツイッターの140文字という制限の中でこの言葉だけを切り出すとどうでしょう。
話の流れの中にあったはずの文脈を失って、唐突な翻訳の印象を受ける上に、読み手が自由にいろいろなイメージや言葉とつなぎあわせられるようになります。すると、送り手が思っていた意味と違う解釈が生じやすくなってしまうのです。
この言葉をツイートしたご本人にとっては、あくまでもアリスの世界の話だったことでしょう。でも、送信ボタンを押した瞬間から、この切り出された言葉の解釈は読み手にまかされます。アリスの世界を抜け出て、日常の中で文脈を探そうとすると……たまたまツイートした9日が、どんな日であったかが大きく影響することは想像に難くありません。
では、「誕生日じゃない日おめでとう!」という直訳ならよかったのかというと、そうでもありません。この切り出したフレーズだけでは成り立っても、それではアリスの世界観が壊れてしまい、ディズニーの広報のツイートとしては本来の意味をなさなくなってしまうでしょう。
アリスの世界の言葉が切り出されて文脈をなくし、日本人に向けて訳され、うかつにも9日にツイートしてしまった今回の事案。そのひと言に、受け手がどんな意味を見出すかを感じ取ることは、私たちみんなにとっての課題であることを再認識させてくれた騒動でした。
さて、当のアリスたちは……「そんなつもりじゃなかったのに」と、不思議の国からこちらの世界を眺めているかもしれません。
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上野陽子(うえの・ようこ)
著述家、翻訳家、コミュニケーション・アナリスト。カナダ、オーストラリアに留学後、ボストン大学コミュニケーション学部修士課程でジャーナリズム専攻、東北大学博士前期課程人間社会情報科学専攻修了。通信社、出版社をへて、コラム連載や媒体プロデュース、スヌーピーでお馴染み『ピーナッツ』(C.M.シュルツ作)の連載翻訳などを手がける。著書に『コトバのギフト―輝く女性の100名言』(講談社)、『スティーブ・ジョブズに学ぶ英語プレゼン』(日経BP社)など多数。新刊『1週間で英語がどんどん話せるようになる26のルール』(アスコム)も大好評発売中。
ブログ⇒http://koisurueigo.com/
(sk)
上野陽子の好意的な書き方によって、ディズニーは救われる。
私はそんなには好意的になれない。