秋川リサ

AkikawaLisa写真のプリントが上がりシノヤマは白い封筒に入ったその写真をそっと私に渡してくれた。「スゲーいいぞ」とも言った。
太陽やヒマワリの様に丸くて明るいわたしの顔、健康で何一つ悩みのない女と思われるのがいつもシャクだった。
そこにはわたしが一度も見たことのないわたしが写っていた。一言で言って大人の女、色っぽい、それでいて18才の溌剌としたピンとはった肌と乳房、窓から入る横の光で煙草を吸っているわたしなんか、まるで飾り窓の女。嬉しかった。
その後写真はわたしの引出しの中にしまわれ。。。
そして39年たったある日シノヤマから電話がかかってきた。
「あの写真、発表したいんだけど」
正直わたしはちょっと戸惑った。。。
そしてずっと約束を守ってくれたシノヤマをイイヤツだと思った。だって本当に約束を守るカメラマンもいるんだなとはじめて思ったんだもの。

2 thoughts on “秋川リサ

  1. shinichi Post author

    <リサの独白>

    http://www.asahipress.com/bookdetail_norm/author/9784255004686/

    40年近く前のことだけど、この写真を撮った日のことはよく憶えている。だってわたしが高校を卒業したその日だったから。

    当時創刊から一年たったan・anでほぼ専属モデルの様にわたしは毎回登場していた。 an・anは既成の女性雑誌とはまったくちがった新鮮さでとにかくカッコよかった。ADは堀内誠一さん。カメラマンは立木義浩さん。衣裳デザインは金子功さん。スタイリストは堀切ミロさん。モデルはわたしの他に立川ユリ、マリ姉妹、ジョーエン・ガレッキ、青木エミちゃんなどの人気モデル。それにマガジンハウス(当時は平凡出版)の才能あふれる編集者たち。

    とにかく若いエネルギーが寄り集まっていままで見たことのない雑誌が毎号つくられ、わたしも一緒に雑誌づくりに参加するような気分ではしゃいでいた。

    その中のカメラマンの一人にシノヤマキシンがいた。
    「ねえ、リサって処女(ヴァージン)?」なんという不躾な質問。でも当時わたしは正真正銘の処女(ヴァージン)だった。
    「なんで、悪い?」「本当かな〜」「本当よ」「カメラマンて身体見ればすぐわかるんだよ」「……」なんという失礼な物言い。だいたいシノヤマはカメラマンの中でも一番若く一番ナマイキだった。
    「じゃあ見てみたら」思わず若気のいたりで口走ってしまった一言。シノヤマはその言葉を逃がさず高校を卒業する記念としてわたしのヌードを撮る約束をしてしまった。
    その頃わたしは広告表現でも出稿量でも最も目立ったクライアントの資生堂とテイジンの専属モデルをしていたから、もちろんヌード撮影など御法度だった。撮影しても一切発表せず、わたしにプリントをくれるという約束だけはしてもらった。

    卒業式の日でもある撮影当日、お茶の水にある文化学院までシノヤマはヘア・メークとスタイリストもなんでもやっちゃうピーターと、助手さんが運転する車で迎えに来てくれた。一行4人は箱根の古いホテルに向った。
    シノヤマはホテルに着くとすぐ撮影をはじめようとした。ちょっと待ってよ、そんなに急がなくても。不思議と裸になることには抵抗がなかった、そして恥ずかしさも5分もたたない内に無くなってしまったのだ。なにかずっと前からこうして裸でいたような安心感が生まれた。それはそこにいる人たちが興味本位で裸の女を見るいやな視線が無かったからだと思う。シノヤマは汗をふきふき写真を撮ることに夢中だった。

    写真のプリントが上がりシノヤマは白い封筒に入ったその写真をそっと私に渡してくれた。「スゲーいいぞ」とも言った。
    これまでは、太陽やヒマワリの様に丸くて明るいわたしの顔、健康で何一つ悩みのない女と思われるのがいつもシャクだった。
    写真を見るとそこにはわたしが一度も見たことのないわたしが写っていた。一言で言って大人の女、色っぽい、それでいて18才の溌剌としたピンとはった肌と乳房、窓から入る横の光で煙草を吸っているわたしなんか、まるで飾り窓の女。嬉しかった。
    その後写真はわたしの引出しの中にしまわれ、時々出しては一人で見ていた。わたしは  20才で処女を捨て、その人と21才で結婚した。
    結婚するとき、さすがにこの写真は夫に見られるのはまずいと思い、当時所属していた事務所の女社長に預かってもらうことにした。

    そして39年たったある日シノヤマから電話がかかってきた。
    「あの写真、発表したいんだけど」
    正直わたしはちょっと戸惑ったけど、子供も成人したことだし今ならいいんじゃないかと思えた。ずっと会っていない事務所の社長にもその写真を返却してもらおうと手紙を書いたが、返事は無かった。39年前の私の裸が今世に出ることは少々こそばゆいけど何故か楽しい。そしてずっと約束を守ってくれたシノヤマをイイヤツだと思った。
    だって本当に約束を守るカメラマンもいるんだなとはじめて思ったんだもの。

    秋川リサ 女優 1952年5月12日 東京生 血液型B型

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