塩畑大輔

souma今は神戸でプレーするDF相馬崇人は、06~08年の浦和在籍当時、居残りでシュート練習をするのがルーティーンだった。
左足の強烈なキックが武器の相馬は、その分軸足となる右足の踏み込みも強い。グラウンドキーパーさんたちが、居残り練習後にピッチ補修を始めると、そこには見たこともないような深いスパイク痕があった。
以来、彼らはスパイク痕を「ソウマ」と呼ぶようになった。


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  1. shinichi Post author

    浦和に見るスパイク痕「ソウマ」=成長&特徴の証し

    by 塩畑大輔

    http://www.nikkansports.com/soccer/column/writers/news/1596237.html

     浦和の新シーズンが始まった。1月15日、さいたま市大原サッカー場。2週間の短いオフをフル活用して、芝がしっかり養生されたピッチに、赤いユニホームの選手たちが駆けだした。

     今オフは、引退した鈴木啓太以外の全員が契約を更新した。DF槙野らが盛り上げる、特有の明るい雰囲気は変わらない。ただ数人の若手選手は、期限付きで移籍し、新年を他クラブのピッチで迎えていた。

     昨年、ユースから昇格したMF茂木は愛媛へ。MF斎藤は水戸へ。プロ2年目を迎える選手たちも、初の武者修行に旅立った。

     浦和では日本代表クラスの先輩に囲まれた。チームに居場所を見つけたような、見つけられないような様子で、練習用具を片付けていた2人の姿を思い出す。

     「大丈夫だろうか」。思わず、そう口にした。すると「大丈夫じゃないですか」と妙に力強く断じる声があった。練習前のピッチの手入れを終えた、大原サッカー場のグラウンドキーパーの方々だった。

     「サッカーのことは語れないですけど、彼らがたくましくなったのは、練習後のピッチを見れば分かります。『ソウマ』がだいぶ残るようになってました」。

     なるほど、確かにそれは成長の証しですね-。そう言いたかったが、即座に相づちを返せるわけはなかった。ピッチを見れば分かる? 「ソウマ」が残る?

     「おっと、失礼しました。僕らの間では、選手たちのスパイクで、ピッチがえぐれた跡を『ソウマ』と呼んでいるんです」。

     ◇   ◇

     今は神戸でプレーするDF相馬は、06~08年の浦和在籍当時、居残りでシュート練習をするのがルーティーンだった。

     左足の強烈なキックが武器の相馬は、その分軸足となる右足の踏み込みも強い。グラウンドキーパーさんたちが、居残り練習後にピッチ補修を始めると、そこには見たこともないような深いスパイク痕があった。

     以来、彼らはスパイク痕を「ソウマ」と呼ぶようになった。

     しかし、大原サッカー場のピッチには、実は簡単にはスパイク痕はつかない。選手はみな「日本で最高の練習ピッチ」と口をそろえる。手入れが行き届いたピッチには、ティフトン芝がしっかりと根付いている。

     下部組織に練習場所として貸すこともあるが、高校生のパワーではまったくスパイク痕はつかない。

     茂木も斎藤も、入団当初はまったくスパイク痕を残せなかった。それが1年の間にパワーがつき、年末にはそれなりに「ソウマ」をつくれるようになった。

     国内最高の選手層を誇る浦和にあって、ルーキーイヤーは出場機会を得られなかった。しかし着実に、戦力になる下地はできている。グラウンドキーパーのみなさんは、2人がプロ初年度に残した「足跡」を、しっかりと見届けていた。

     ◇   ◇

     スパイク痕は、ゴルフなら「ディボット跡」にあたる。ゴルフ担当の経験から、そんなことを思った。

     球を打った勢いで、クラブのヘッドがターフをえぐった跡を、ディボット跡と言う。

     ツアープロはショット後に、この痕跡とにらめっこをしていることがある。インパクトの瞬間、ヘッドがどう動いているのか。ディボット跡の向きや深さを見れば、一目瞭然だからだ。

     国内屈指のショットの名手、小田孔明は「ディボット跡が深く、長い時は調子いい」と言っていた。

     クラブが振れていて、かつインパクトで長い距離ボールを押し込めている、と確信できるという。

     石川遼は、ディボット跡が目標よりも少しだけ右を向いているのが、好調のバロメーターだ。

     このオフには、槙野、柏木ら浦和の選手たちとゴルフをした。会話が盛り上がり、一気に交流が深まったラウンドの合間でも、ディボット跡のチェックは欠かさなかった。

     「スイング全体を見ていても分からないことが、ディボット跡を見れば分かることもある。ショットはつまるところ、ボールにどう力を伝えるか。インパクト前後のヘッドの動きが集約されたディボット跡は、何よりも雄弁にショットの内容を語ってくれます」。

     ◇   ◇

     サッカーにおいても、スパイク痕はプレーの内容を、ある程度集約したものと言えるかもしれない。

     浦和でいえば、主将のMF阿部はキック時だけでなく、守備時のスパイク痕も深いという。

     グラウンドキーパーさんは「ソウマは軸足かかとの跡ですけど、阿部選手のスパイク跡は、足の裏全体で芝をつかんでいるような感じ」と言う。

     相手の動きに対応して、強く足を踏み込んでターンする。瞬間的なスピードがあるからこそ、方向転換時に大きな力がスパイクからピッチに伝わる。

     そもそも相手に合わせて動く中で、最大限にパワーを発揮するのは、自分で決めて動く場合よりも難しい。スパイク痕は反応速度、体幹の強さも示しているかもしれない。

     そして足跡は、続けていくつも残される。どんなに振り回されても、しっかりと相手についていく。粘り強さや責任感といった人柄も、阿部のスパイク痕からは見て取れる。

     抜群の身体能力を誇る、槙野のスパイク痕も深い。特徴的なのは左サイド深くから、相手最終ライン後方を狙って走るMF宇賀神に送る、縦パス時の足跡だ。

     最終ライン中央からの横パスを、右足ダイレクトで前方に大きく蹴り出す。強くカーブがかかったパスは、タッチライン沿いから中央へ切り込みながらパスを受ける宇賀神の動きと、非常に相性がいい。

     強烈なサイドスピンの秘訣(ひけつ)は、こすり上げるような右足の振りだ。この際、軸足は左足の外側、ほぼ側面で踏み込む。だから他の選手よりも細く、深いスパイク痕が残っているという。

     大原のグラウンドキーパーさんたちはさらに「エメのつま先の跡も分かりやすかった」と振り返る。

     04年の得点王、FWエメルソンはダッシュの1歩目、特につま先のスパイク痕が深かった。

     爆発的な加速力があったことが分かる一方、後に確認すると、スパイク自体もつま先部分のポイントが強化してあったという。

     ◇   ◇

     よく、記事や見出しで「選手としての足跡を振り返る」という言い方をする。

     しかし、そうした比喩にとどまらず、足跡は文字通り、選手のプロとしての歩みを示すものだ。グラウンドキーパーさんの話を聞いて、そう思った。

     そこにはプロアスリートとしての取り組みが集約されている。プレーへのこだわりが詰まっている。

     大原のグラウンドキーパーさんは、最後にこう言った。

     「遠藤選手がどういうスパイク痕を残すのか。すごく興味があります。新加入選手が来る時は、相馬を超えるソウマに出会えるんじゃないかと、いつも楽しみにしているんです」。

     湘南から移籍した新戦力は、リオデジャネイロ五輪出場を目指すU-23日本代表の主将として、遠いドーハのピッチで懸命に戦っている。

     浦和への合流は予選終了後。大原のピッチに残す第1歩が、どんなものになるのか。今から楽しみでならない。

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