正林督章

国が積極的勧奨をストップして6年が経ったHPVワクチン。世界中で当たり前のようにうたれながら、日本では1%未満の接種率に落ち込み、若い女性を子宮頸がんから守れないことが問題視されています。厚労省の担当官だった元健康課長になぜ厚労省は積極的勧奨を再開しないのか聞きました。

科学的なことをよく把握しないまま、「このワクチンは問題あるじゃないか」という論調で報道していたメディアもあったと思います。2013年4月に定期接種化した直後の4月、5月で毎日そのような報道がなされて、日本国民の間であのワクチンは危ないワクチンという方向に世論が導かれていったように思います。
その印象は今もたぶん国民の中から抜け切れていないのではないかと思います。
だから、再開したからといって、それだけでは国民が「ああそうか。じゃあ安全なんだ」とは思ってくれないでしょう。
メディアの役割は大きいですね。多くの方は、メディアからしか情報を得られないですから。

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  1. shinichi Post author

    HPVワクチン 厚労省はいつ積極的勧奨を再開するのですか?

    by 岩永直子 BuzzFeed News

    https://www.buzzfeed.com/jp/naokoiwanaga/shoubayashi-3

    国が積極的勧奨をストップして6年が経ったHPVワクチン。世界中で当たり前のようにうたれながら、日本では1%未満の接種率に落ち込み、若い女性を子宮頸がんから守れないことが問題視されています。厚労省の担当官だった元健康課長になぜ厚労省は積極的勧奨を再開しないのか聞きました。

    子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)への感染を防ぐHPVワクチン。

    公費でうてる「定期接種」でありながら、接種後に体調不良を訴える声が相次ぎ、国が対象者に個別に通知する積極的勧奨をストップしてから6年以上が経ちました。

    HPVワクチンの政策については、マスコミの報道の影響が大きかったと語る正林督章さん

    その間、接種率は70%以上から1%未満に落ち込み、日本は先進国で唯一、若い女性を子宮頸がんから守れない国として、国内外からの批判を浴びています。

    予防接種行政に長年携わり、HPVワクチンの政策決定にも関わってきた元厚生労働省健康課長で、現在環境省審議官の正林督章(とくあき)さんに、なぜ厚労省は積極的勧奨を再開しないのか伺いました。

    マスコミの報道が世論を作った

    ーーHPVワクチンなのですが、なぜ積極的勧奨を中止したまま6年以上も引っ張っているんですか?

    今となっては、マスコミの方からそのように言われてしまうのですね。

    ーーそれはマスコミがHPVワクチンは危険だという印象をミスリードしてきたという意味ですか?

    積極的勧奨を差し控えた当時の世論には、マスコミの影響が少なからずありました。

    ーー予防接種行政を担う役所として、当時のメディアの報道に対して不満がおありですか?

    科学的なことをよく把握しないまま、「このワクチンは問題あるじゃないか」という論調で報道していたメディアもあったと思います。2013年4月に定期接種化した直後の4月、5月で毎日そのような報道がなされて、日本国民の間であのワクチンは危ないワクチンという方向に世論が導かれていったように思います。

    その印象は今もたぶん国民の中から抜け切れていないのではないかと思います。

    ーーそれは感じますね。

    だから、再開したからといって、それだけでは国民が「ああそうか。じゃあ安全なんだ」とは思ってくれないでしょう。

    ーーまだそういう空気は醸成されていないとお考えですか?

    醸成されたという印象はあまりないですね。

    ーーそれはメディアだけに責任があると思いますか?

    メディアの役割は大きいですね。多くの方は、メディアからしか情報を得られないですから。

    海外の行政はぶれていない 日本は?

    ーーしかし、海外の国でも同じようにHPVワクチンに反対する運動は起きています。デンマークでもテレビが被害を訴える人たちのドキュメンタリーを放送したら、その途端、接種率ががたんと下がりました。それでも行政は態度を変えなかった。行政はこれは安全なワクチンだからと、勧め続けました。メディアが科学的でない言説をまき散らかしたとしても、行政はブレてはいけないのではないですか? 科学的に行政はこう判断するから、積極的に勧めるし個別通知もしますよとなぜ毅然とした対応が取れないんですか?

    副反応を訴えている人たちは、嘘を言っているわけではなく、実際に体調不良を起こしています。因果関係があるかどうかわからない状況で、専門家で作る副反応検討部会が、定期接種は維持したまま積極的勧奨をするのは一時停止する方がいいとした判断は、いまだに変更されてはおらず、厚労省としても尊重しなくてはならないのではないでしょうか。

    HPVワクチンによって健康被害を受けたとして国や製薬会社を訴えている原告や弁護団

    また、その指摘を裏返すと、マスコミはいい加減なことを書いてもいいように聞こえます。それはいいのですか?

    ーーそれは違います。確かにマスコミの報道は問題があると思います。メディアが科学的でない情報を出すのは別に批判されるべきとして、予防接種行政を決める人たちはブレてはいけないのではないかと思います。厚労省の説明文書のリーフレットの下には、メリット・デメリットを説明した後に「HPVワクチンは、積極的におすすめすることを一時的にやめています」と一文がある。あれでやっぱり危ないワクチンなんだなと読んだ人は思ってしまいます。

    では、自分たちが一生懸命報道しても、行政が動かなかったらどう思いますか? 自分たちが一生懸命この方向に持っていきたいと思って報道していても、行政が全く動かなかったら全く逆のコメント言いませんか?

    ーー腹立たしいでしょうね。

    私は、2013年4月以降、何度も記者会見や記者説明会を開きました。当初はワクチン懐疑派の記者さんたちからかなり厳しい叱責を受けましたが、その後はいい加減再開しろ、というご意見はいただいたことはなかったと思います。

    これだけこのワクチンはしばらく様子見た方がいいんじゃないかという世論の中で、「再開しましょう」とはなかなかならないでしょう。

    ーーでも、国が積極的勧奨再開の方針を示したら、メディアも一斉に報じるはずです。日和見的なメディアこそ、「これは行政も安全性にお墨付きを出した」と、一斉に報道し始めるでしょう。これだけこう着状態が続いているならば、行政がメディアをリードする方針を示してほしい。科学的に理があるのですから。

    マスコミの方はよくそうおっしゃるけれど、感覚的にずるいなと思う。もし、それが科学的に正確だとおっしゃるなら、なぜ自らそういう報道をしないんですか? なぜ、報道のきっかけをこちらに求めようとするんですか? あなた方には世論への強い影響力がありますよね。

    ーーその通りです。私は十分ではないかもしれませんが報じていますし、メディアも行政も両方が動かないといけないと思いますよ。

    マスコミの側で責任を取って、世論を戻せばいいじゃないですか。メディアが世論を変えてしまった責任まで行政にあるのでしょうか。

    ーーそれはおかしい。世論は世論として、正しい方針は方針として示すべきじゃないですか。予防接種行政を担っているなら、科学的にはこれが正しいという筋道を示すべきだと思うんです。

    当時の記者の方とは違うからなんとも言いようがないですけれども、マスコミ全体という括りで言うと、一貫性がないなあと思います。

    ワクチン行政、どこで消極的になった?

    ーー日本ではこれまで、何度も副反応騒ぎが起きては、ワクチンを差し控えることを繰り返してきましたね。経口生ポリオワクチンも一時中止されましたし、日本脳炎ワクチンも積極的勧奨の一時中止、MMRワクチンも髄膜炎が問題となって中止となり、ムンプス(おたふく風邪)を抜いたMRワクチンに切り替えられました。

    おたふく風邪のワクチンを単独でうった場合、今でも全く同じ頻度で髄膜炎は起きているんです。

    もっと正確に言うと、あの時はMMR(麻疹、おたふく風邪、風疹)という三種混合でしたが、定期接種なのは、麻疹と風疹だけで、おたふく風邪だけは定期接種ではありませんでした。でも三種混合だから三ついっぺんにうたざるを得なかった。

    しかし、髄膜炎を起こすのはおたふく風邪のワクチンでしたから、当時の健康局長が謝罪までする事態になりました。裁判も当時起こされて、いったん中止して、裁判の結果、ワクチン会社は負けて、国は半分勝ち半分負けのような形になりました。法的な責任はないが、道義的な責任はあるという形で判決が出たのです。

    ーーそれで予防接種法が書き換えられたんですよね。

    そうです。1994年に、当時、インフルエンザワクチン接種後の後遺症の責任を訴える裁判も国は負けて、それ以前は義務規定だったワクチンを、努力義務規定に変えたわけです。定期接種からいくつかのワクチンは外されて、そこから20年間、ワクチンは暗黒の時代が続いてきました。

    ーー振り返ると、裁判での国の敗訴は、予防接種行政が後退する影響を与えたし、日本人のワクチン不信につながってしまいました。定期接種を努力義務規定にしたのはどうなのでしょうか? 公衆衛生上必要があるから国としてうつべきだとしているのに、あなたの判断に任せますと言っているようなもので、努力義務はすごく分かりづらいです。

    ただ、海外ではかつての日本の予防接種法のように法律で強制的に打たせるという国はないと思います。

    アメリカですら、小学校に上がる時に、このワクチンとこのワクチンを受けていないと入れさせませんよという、事実上の義務のような形になっているだけで、予防接種法なんて法律を持っている国はそうないのです。うつうたないの判断は、どこの国も一応本人に与えられていると理解しています。

    「ワクチンギャップ」「ワクチン後進国」と呼ばれて

    ーー日本では努力義務にしたことがきっかけで、うつのもうたないのも個人の自由というメッセージを国民に与えてしまった気がします。その感覚は、HPVワクチンの現状にも影響していますか?

    根底にはあるかもしれません。20年間暗黒の時代が続いて、2009年に新型インフルエンザ騒ぎが起きた時に、「ワクチンをやっぱりちゃんとやるべきなのではないか」と逆の風が吹いたことがあります。

    当時は、「ワクチンギャップ」とか「ワクチン後進国」とか色々言われたものです。私は長いこと結核感染症課にいて、当時7つのワクチンがギャップがあると言われていたんです。外国では当たり前にうてて、日本ではうてないものが7つあると、今度はワクチンを求める声が大きくなりました。

    ーーHib とかHBV(B型肝炎)などですかね。

    Hib、小児用の肺炎球菌、HPVワクチン、HBV、水痘、成人用の肺炎球菌、おたふくの7つのワクチンに関して、海外とギャップがあると言われていました。2013年4月以降おたふく以外の6つは定期接種にしました。

    ワクチンの数だけで見ると、ギャップはほぼ解消されたわけです。おたふく風邪だけは単独でも前と同じ頻度で髄膜炎が起きているから、早くより安全なMMRが開発されないと難しいということで、その開発を待ちながら今日に至るわけです。

    ーーいま、海外で使われているMMRワクチンの安全性はどうなんですか?

    海外では「Jeryl-Lynn株と言って、副反応があまり出ない株を使っているので安全だと言われています。

    ーーそれを日本に導入することはできないんですか? MRワクチンが足りない時に、個人輸入で使われていますけれども。

    多少時間はかかっても、できるはずですよ。だから今、その方向で開発が進んでいるはずです。

    ーーそれが開発されれば、おたふく風邪もMMRにして定期接種にできるわけですね。

    そうなるだろうと思います。

    「ゼロリスク」を求める日本人の国民性

    ーー副反応のショックというか、裁判のショックというか、厚労省も一度、副反応騒ぎになったワクチンには腰が引けているというところもあるんですかね? ワクチンはメリットとデメリットを天秤にかけてうつものですが、おたふくも安全なものが開発されるまでは定期接種にできないとするのは裁判のトラウマもあるのでしょうか?

    裁判が影響したというのは、原因と結果が逆になっているかもしれません。

    ワクチンはもともと健康な人にうつものなので、「リスクはゼロでないといけない」という国民性が根底にあります。接種後に重篤な症状が出ればその補償を求めて裁判が起きる。

    そして結果的に裁判で負ければ、それに対して世論も、無理やりうたせて健康被害が発生するのは問題だ、ということになります。本来、リスクはゼロであるべきだというのが、日本全体の国民性でもありますから。こうして1994年の義務から努力義務に変える法改正につながったと理解しています。

    ーーゼロリスク信仰は、日本特有のものなんですか?

    聞いている範囲だと、限りなくゼロリスクを求める国民性は、外国と比べると特殊なものです。狂牛病が典型ですけれども、なぜあんな全頭検査をするのか。そんなことをやるのも日本ぐらいで、安全だけでなく、安心まで確保しないと前に進めない。

    ーー福島の米もそうですね。全袋検査をして検出限界値以下が出続けています。

    そうですね。これはもしかしたら分野に関わらず、日本人独特の感覚かもしれないですね。

    ワクチン行政も、1948年に予防接種法が出来てから、ずっと副反応との兼ね合いで動いてきました。

    国民全体が副反応はゼロでなければいけないという意識が非常に強いので、一人死亡ケースが出ようものなら、マスコミは毎日書き立てる。

    国民受けするからマスコミも多分書くんでしょうけれども。いったんそのように火が付くと、行政が世論を無視して、このワクチンをうちつづけると宣言するのは難しいですね。

    ーーHPVワクチンもそうした歴史やゼロリスクを求める国民の意識、マスメディアの報道の仕方の問題が絡み合ってこうなったという分析ですか。

    そうだろうと思っています。

    HPVワクチンどうしたら再開できるのか?

    ーーHPVワクチンはどうやったら積極的勧奨を再開できると思いますか?

    わかりません。ただ、国民の理解は重要です。

    ーー9価ワクチンも承認申請してからずいぶん経ちます。審査は終わっているのでしょうか?

    わかりません。

    HPVワクチン、積極的勧奨再開のためには何が必要か

    ーー今後、状況を変えるために何が必要なのでしょうか? メディアがセンセーショナルなことだけ取り上げて後始末をしない問題にしても、国民のゼロリスク信仰にしても、何を改善したら変わっていくと思いますか?

    教育とマスコミの報道姿勢が改善すれば変わっていくと思います。

    ーーなぜ日本人はゼロリスク信仰が強いのでしょう。

    なぜでしょうね? 戦前の全体主義のようなものも関係しているのかもしれない。みんなと同じことをしていないと安寧を得られず、ちょっとでも違うものが出てくると排除したくなるような気持ち。その結果としてゼロリスクを信じるのかもしれません。

    ーー医療の選択はリスクを伴う。インフォームドコンセントも広がってきましたが、結局、「先生がそう言うならとその通りにします」ということで決めたりしますよね。理科教育の問題ですか? それ以前の問題でしょうか?

    理科教育も大きいのでしょうね。

    厚労省の説明リーフレット 伝わりにくくないか?

    ーーHPVワクチンについては説明の素材もあまり良くないです。厚労省のHPVワクチンのリーフレットも、メッセージがすごく伝わりにくいです。あれは誰が作ったのですか?

    私が課長の時です。

    厚労省が作ったHPVワクチンの接種を検討している親子向けのリーフレット。大きな文字で「HPVワクチンは、積極的におすすめすることを一時的にやめています」と書かれている

    ーー子宮頸がんそのものを予防する効果は現段階では証明されていないとかわざわざ書いています。不安にさせる要素がたくさん盛り込まれています。正確を期す、という意味なのかもしれませんが、国民にはわかりにくいメッセージです。

    そういう見方もあるでしょう。でも嘘はついていないのです。現時点で言えることを正確に書いているということです。子宮頸がんそのものを防ぐエビデンスは残念ながらまだなくて、10年ぐらい先にならないと出てこないです。

    ーーしかし、前がん病変で見つかったら手術するわけで、倫理的にがんになるまで放置して比較観察しようとはならないと思います。そういう意味で、子宮頸がんを防ぐというエビデンスは出しづらいはずです。

    異形成の段階で見つからず、もっと後になって見つかる人もいます

    ーー研究に参加している人は検診も受けるはずですから、がんになる前に手術してしまうと思うんです。がんになるまで観察を続けることはできないから、がんそのものを予防するエビデンスは出にくいと言われてますよね。

    それは聞いたことないです。ワクチンをうったグループとうっていないグループを20年追跡調査して、途中で前がん病変を見つけたら手術する人もいるかもしれませんが、見つかった時にがんの人がどれぐらいの頻度でいるかを見ればいいはずです。

    ーー検診をきちんと受けていたら、前がん病変の段階でほとんど見つかるはずですよね。

    みんなが検診をきちんと受けていればそうですね。それに、前がん病変の時に全て手術で取ることはあまりしないと思います。

    ーー軽度異形成、中等度異形成なら経過観察をすると思いますが、さすがに高度異形成になったら、円錐切除するのが一般的ではないでしょうか?

    絶対手術するとは言えないと思います。観察もしている。元に戻ることがあるから、手術に踏み切れない人もいると思いますよ。

    HPVワクチン、積極的勧奨再開のためには世論が必要

    ーー再び、伺います。厚労省は、これ以上、何が整ったら積極的勧奨の再開に踏み切れるのでしょうか?

    いろいろありますが、やはり国民の理解も大切ですね。

    ーーそれにはメディアがもっと頑張れということですか。

    国民に適切な情報提供ができるまでの間、積極的勧奨差し控えるとしています。ワクチンは感染症を防ぐことができるというメリットと副反応が生ずるというデメリットがあり、その情報に基づき、自分で判断して接種するというのが予防接種行政の基本です。

    治療薬と異なり、健常者に接種するのでメリットをイメージしにくいのですが、接種によって感染症及びそれにより引き起こされる重篤な状態を防ぐことができるということがイメージできるよう、具体的にメリットを伝えるとともにリスクがゼロとなることはないということも理解してもらわなければいけません。

    そして、場合によっては死に至る重い副反応もあるということをマスコミがしっかりと国民に情報提供し、国民の間に理解が進めば少し状況は変わるかもしれないですね。

    ーーメディアもこの6年の間で積み上がった知見を伝えるべきですし、厚労省も再開してほしいと思います。WHOからも名指しで批判され、関連学会からも何度も要望されているのに、なぜ無視し続けられるのか、逆にその心の強さは何から来ているかが知りたいです。

    国民の間に理解が進めば状況は変わると思います。そのためにマスコミの力は大きいです。

    ーー今、残念ながらマスメディアの力はすごく弱まっています。東日本大震災以降、メディアに対する国民の不信感は強く、マスゴミとまで言われ続けています。そして、HPVワクチンの新しい知見を積極的に発信するメディアはまだ少ないです。

    今日の取材は典型的ですが、なぜ私にそういう発言を期待するんですか?

    ーーみんなで変わろうよと言いたいからです。我々メディアも変わらないといけないし、厚労省ももう6年経って知見も積み重ねられたのだから変わってほしいですし、一般の人もゼロリスク信仰を変えてほしい。でも少しずつ変わっていると思いませんか?

    6年前に比べたらだいぶん変わってきたと思いますよ。

    ーーエビデンスを報じるメディアも増えています。厚労省の副反応研究班長の池田修一さんの研究を批判する記事を書いた村中璃子さんを池田さんが訴えた裁判の結果は影響していますか? なぜ池田先生を今年度からまた厚労科学研究に採用したんですか?

    それはわからないです。私は去年の8月に異動しているので、また採択されたのかも知らないし、研究班は厚労省の意向とは関係なく、研究評価の点数で機械的に決まっていきますから。

    ーー池田班は、問題ある中間発表をして、厚労省も「この研究では何も証明されたわけではない」と異例の見解を出しているのに、再び採用するとなるとお墨付きを与えたかのように見えます。

    研究班の採択は評価委員会で点数をつけて自動的に採択を評価委員会で決めるから、役所の意向は働きにくいですよ。

    ーーこの先もこう着状態が続くことをよしとするのでしょうか?

    いずれにしても、このワクチンに不安を感じている多くの国民の気持ちに変化がない限り、例え積極的勧奨を再開したとしても接種する人は増えないのではないでしょうか? 

    このワクチンへの不信感を払拭するために役所も新しい情報をリーフレットなどで国民に伝えるようにしていますが、世論を動かすためにはマスコミなどの報道も考え直してもらわなくてはならないと思います。

    そして、副反応を訴えている方々も、一定の納得感を得られるように、治療体制の整備などに引き続き力を入れていく必要があると考えています。

    (終わり)

    【正林督章(しょうばやし・とくあき)】環境省大臣官房審議官(水・大気環境局担当)

    1989年3月、鳥取大学医学部卒業。都立豊島病院での勤務を経て、1991年2月厚生省(当時)入省。厚生省大臣官房厚生科学課長補佐(ロンドン大学留学)、WHO(世界保健機関)出向などを経て、健康局結核感染症課新型インフルエンザ対策推進室長、結核感染症課長、がん対策・健康増進課長、健康課長を歴任。2018年8月に国立がん研究センター理事長特任補佐、2019年7月、現職。

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  2. shinichi Post author

    ヒトパピローマウイルスワクチン

    https://ja.wikipedia.org/wiki/ヒトパピローマウイルスワクチン

    ヒトパピローマウイルスワクチン (HPVワクチン、HPV予防ワクチン、子宮頸癌ワクチン) は、特定のヒトパピローマウイルス(Human papillomavirus:HPV)の持続感染を予防するワクチンである。HPVは、子宮頸癌、尖圭コンジローマ、肛門癌などの癌の発生に関係する。アメリカ食品医薬品局(FDA)では45歳までの男性および女性に接種を推奨している。HPVワクチンの接種は、定期的な子宮癌検診を代替するものではなく、接種後も子宮の定期検診が必要である。

    日本での導入

    タイムライン

    • 2008年11月に推進団体の「子宮頸がん征圧をめざす専門会議」は、ワクチン承認前の設立された。
    • 2009年10月に日本で、女性へのサーバリックスの使用が承認され、同年12月から販売が開始された。2010年に接種費用が公費によって負担されるようになり、2011年7月にガーダシルが承認され、8月に販売が開始された。しかし、いずれも3回接種の合計で4-5万円程度の費用負担があり、普及を妨げた。
    • 2010年、厚生労働省は「ワクチン接種緊急促進事業」を実施し、Hibワクチンと小児用肺炎球菌ワクチンにHPVワクチンを追加し、市区町村が行う接種事業を助成した。
    • 2012年(平成24年)10月の調査では、接種率(接種事業対象者に対する接種済みの者の割合)は67.2%となっていた。
    • 2013年(平成25年)3月31日までは、事業の対象者(おおむね中学1年生から高校3年生相当の女子)は無料もしくは低額で接種を受けられるようになった。4月1日以降「積極的な接種勧奨の差し控え」が出ているが、予防接種法に基づく定期接種は続けられている。
    • 2013年3月に、全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会が組織され、2016年に集団訴訟が行われた。
    • 2013年4月に、予防接種法に基づき小学校6年生から高校1年生までの女子を対象に無料で受けられる定期予防接種が制度化された。しかし6月14日には、疼痛などの訴えがあったことから、厚生労働省は「積極的な接種勧奨の差し控え」を通達した。その後、接種者が1%に激減した。
    • 2014年に厚生労働省審議会は、注射針の痛みや不安から起こされた心身の反応(機能性身体症状)との見解を示した(精神障害ではない)。
    • 2015年世界保健機関が選出したワクチンの安全に関する国際委員会 (GACVS) が、日本の「接種差し控え」の対応を指摘し、WHOなど専門家による報告書では、「ワクチン接種と副反応の因果関係は無い」と日本に勧告した。しかし、厚生労働省元職員はワクチンへの不安を煽るマスコミの報道などによる世論がある以上、「積極的な接種勧奨」を再開することは難しいと述べている。

    積極的勧奨の中止

    2013年6月14日の専門家会議では、接種後原因不明の体中の痛みを訴えるケースが30例以上報告され、回復していない例もあるとして、厚生労働省は定期接種としての公費接種は継続するものの、全国の自治体に対して積極的な接種の呼びかけを中止するよう求めた。接種を希望する場合は、市区町村の担当部署に自ら連絡し書類の交付を受ける必要があり、呼びかけ中止により、70%程度あった接種率は1%未満に激減した。この判断は、医学的統計的根拠に基づかず、世論に寄り添う日本の政策決定であるとして非難されることになった。

    日本の産婦人科医が、自分の娘にワクチンを接種したかについては、50人超の調査から、2014年では0だったが2017年には16.1%であった。2017年9月までに295人が、HPVワクチン接種との因果関係が否定できないとして、予防接種健康被害救済制度の対象となった。

    2019年9月現在、定期接種対象者は高校1年生に相当する年齢の女性までとなっている。9月中に接種を開始しないと、当該年度中に3回接種が完了せず任意接種(自費)となってしまうため、注意喚起がなされている。2013年6月の厚生労働省勧告を受けて、自治体は積極的に接種を薦めることを控えているため、他の定期接種ワクチンとは異なり一斉通知をしていない。接種を希望する者は、住民票のある自治体に問い合わせ、接種券・予診票を入手する必要がある。

    WHOの接種勧告

    2013年7月5日、世界保健機関 (WHO) は公式声明の中で、「日本が報告する慢性疼痛の症例は、同様の徴候が他国で認められないことにより、2013年時点ではHPVワクチンを原因として疑う根拠に乏しい」とコメントし、日本の方針転換を疑問視した。

    WHOに独立した科学的助言を提供するために、WHOが委員を選出した『ワクチンの安全に関する国際委員会(GACVS)』の2014年3月の声明では、日本の複合性局所疼痛症候群(CRPS)等の報告について言及し、「2013年に検討したが、因果関係は認められなかった」と結論を出した。

    GACVSによる2015年12月22日の声明では、日本だけが接種中止の勧告を出していることを名指して、

    専門家の副反応検討委員会は、子宮頸がんワクチンと副反応の因果関係は無いと結論を出したにもかかわらず、政府は予防接種を再開できないでいる。以前からGASVSが指摘しているとおり、薄弱なエビデンスに基づく政治判断は、安全で効果あるワクチンの接種を妨げ、真の被害をもたらす。若い女性が本来なら避けられる筈の子宮頚がんの被害と脅威に暴露され続けている。 — 世界保健機関 ワクチンの安全性に関する国際委員会、2015年12月22日

    と日本の対応を批判した。

    日本国内で報告されている有害事象について、日本の専門部会でも関連性を否定しているのに、ワクチン接種推奨再開についての合意に至っていないとして、日本国政府として科学的エビデンスに従った判断を行い、予防接種計画を遂行する必要性を強調した。村中璃子によれば、WHOが1国のみを名指しで非難することは異例だという。日本小児科学会理事は「恥ずかしい限り」と語り、日本産科婦人科学会理事も、2015年の声明全体が、日本への呼びかけのように読めるとして声明への理解を示した。

    日本医師会、日本産科婦人科学会、日本小児科学会のワクチン再開要請

    • 日本医師会は2015年8月19日に『HPVワクチン接種後に生じた症状に対する診療の手引き』を発行、47都道府県に協力医療機関を設置し、HPVワクチン接種後の症状に対する診療体制を整えたなど、接種希望者がより安心してワクチン接種を受けられる診療環境が整ってきたことを指摘した。
    • 日本産科婦人科学会は、2015年にHPVワクチン早期再開を訴えた。さらに、2017年12月9日の声明で、ワクチン接種を導入した国々では、接種世代におけるHPV感染率の劇的な減少と前がん病変の有意な減少が示され、9価ワクチンは子宮頸がんの原因となるHPV型の90%以上をブロックしている。日本では「一部の研究者の科学的根拠のないデータや報道等により、国民の正しい理解を得られないまま、長期にわたり勧奨が再開されないままとなっている」が、現在女性の74人に1人が罹患し、340人に1人が子宮頸がんで死亡している。日本でもワクチン接種により子宮頸がん罹患者数は10万人あたり859~595人、死亡者数は10万人あたり209~144人の減少が期待され、「このまま勧奨を再開せず、接種率がゼロに近い世代が拡大し続ければ、将来、ワクチン接種を勧奨しなかったことに対して、不作為責任を問われることも危惧される」として、接種再開を訴えた。2017年12月までに4度にわたって、接種推奨の再開を求めた。
    • 日本小児科学会など国内17の学術団体は2016年4月、子宮頸癌予防ワクチンの積極的な接種を推奨するとする声明を発表した。既に世界130か国で使用されているが、障害を残す副反応は0.002%に過ぎず、ヨーロッパでの調査でもワクチン接種群と非接種群で副反応とされる症状の発生頻度に差が見られないことを根拠として、これ以上の積極勧奨中止の継続は「極めて憂慮すべき事態だ」とした。
    • 2016年8月、日本医学会会長、日本産婦人科医会会長ら学識経験者の有志が、厚生労働省健康局長に書簡を提出した。書簡には「EUROGIN 2016」(ヨーロッパ生殖器感染および腫瘍に関する専門家研究会議)に参加した世界50カ国以上341人の研究者の署名が添えられ、「日本で問題になっている諸症状は、HPVワクチンとの因果関係が認められておらず、日本の不適切な政策決定が、世界中に与えている悪影響を承知されるべきである」という、世界中の研究者の苦言が伝えられた。

    日本のマスコミ報道への批判

    • 村中璃子は、センセーショナルな発言でメディアに露出したがる専門家や圧力団体の主張に大きく紙面を割く一方で、日本だけが名指しで非難されたWHOの接種勧告を一切取り上げないという日本のメディアは嘆かわしいと批評した。また名古屋市が実施した調査に論理的根拠も明示せず、調査方法が疑問であるとする、専門家や団体の主張を大きく取り上げる朝日新聞などを非難した。
      • 村中が2017年にネイチャー等が主催するジョン・マドックス賞を、日本人として初めて受賞した際、ネイチャーに掲載されたプレスリリースでは「HPVワクチンの信頼性を貶める誤った情報キャンペーンが、日本で繰り広げられた」と日本の状況を表現している。
    • ロンドン大学熱帯医学研究所教授で元ユニセフワクチン接種グローバルコミュニケーション部門の責任者のハイジ・ラーソンは「海外から日本での騒ぎを2年ほど見守ってきたが日本で最も驚くのは、日本国政府も学会も薬害を否定する中で、主要なマスコミがこぞってHPVワクチンの危険性を吹聴することだ。このようなメディアは世界中には例外中の例外で特異である。」と日本のマスコミを非難した。また、日本のマスコミの騒ぎがデンマークに飛び火して、一部の研究者が薬害説を唱え始める事態ともなり、欧州医薬品庁(EMA)も独自に調査をすることになったと語った。後の展開は#海外の団体の見解を参照。
    • 産婦人科医らでつくる団体「HPV JAPAN」は2015年3月31日、「HPVワクチンの不安のみをあおる報道は、日本の将来に大きな禍根を残す」とする声明を発表した。
    • 帝京大学の津田健司は、2013年3月の朝日新聞の報道以降、HPVワクチンに関する日本のメディア報道が肯定から否定に転じ、科学的エビデンスを無視する一方で、感情を揺さぶるエピソードが重視される傾向にあると述べている。また、ワクチンに対する否定的な論調が、一部のワクチン接種者の間でノセボ効果を発生させているのは否定できないとも述べた。
    • ジャーナリストの石戸諭によると、HPVワクチンの導入当初、日本ではワクチンに好意的な報道が占めていたが、2013年3月に朝日新聞が疼痛を訴える東京都杉並区在住の女子中学生を報じた報道を境に、「ワクチンをネガティブでリスクのあるように取り上げる記事が圧倒的に占めるようになった」と指摘している。
    • 2019年7月、HPVワクチンの政策決定に関わった元厚生労働省健康課長の正林督章は「科学的なことをよく把握せずに、ワクチンの危険性を煽った一部のマスコミによって、国民の中にワクチンに対する不安が大きくなり、HPVワクチンは危険である世論が形成されてしまった。積極的勧奨の再開のためには、世論が変わることが必要だ。今度はマスコミが接種推奨再開をせよというのなら、マスコミの側で責任を取って世論を元に戻すべきである。世論が変わらない以上、積極的推奨の再開は難しい」と答えている。

    補償

    日本

    東京都の中学生がワクチン接種により1年以上歩行困難となった事例があり、2013年3月に無料接種を実施した東京都杉並区は、副反応の被害救済制度の適用の可能性を検討している。2013年4月に杉並区議会に議員が議題として取り上げられた後に、補償に応じない自治体として被害者団体により非難を受け、マスコミによる激しい取材を受けたため、杉並区では被害者とされる接種者に補償を行うことを決定した。このことを日本国民は「自治体が誤りを認めた」と認識し、HPVワクチンに対する反感の転換点となった。

    村中璃子によれば、HPVワクチンを過去に接種していれば医療費が無料になるという噂が広まり、それらしい症状が少しでもあれば「ワクチンとの関連性を疑うと診断書を書いてほしい」という求めが首都圏を中心に増える現象が報告されている。

    また別の少女らでは、身体の痛みを覚えたり、脱力感、疲労感、四肢に力が入らなくなるなどで寝たきりになる例、修学旅行に行った記憶、学校からの帰り道、食事をしたことなどを忘れるなど著しい記憶障害が発生したといった報道がされるようになった。

    HPVワクチン接種後の体調不良に対して、2014年時点で日本国政府は「任意接種であること」等を理由に補償には応じなかった。しかし、2019年9月現在、厚生労働省は、「積極的な接種勧奨の差し控え」の間であっても、健康被害救済の対象になる、としている。

    被害者団体

    イギリスにはAHVIDという団体があり、470人のメンバーのうち約400人はHPVワクチンの影響があると信じている。

    2018年3月には、日本で国際シンポジウムが開催され、日本、コロンビア、スペイン、イギリス、アイルランドの被害者団体が集った。同年4月、上記5か国の被害者団体は接種中止の共同宣言を行った。

    日本

    2013年3月25日、国にHPVワクチン予防接種の完全中止や副反応患者の救済などを求める「全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会」が設立された。被害者連絡会の会員たちの間では、免疫吸着療法が症状緩和の手段として有効であると信じられており、厚労省に対しては免疫吸着療法に関する成果を公表するように要求している。症状の原因はHPVワクチンの固有成分による脳内での免疫反応であるという仮説を支持している。

    2017年、厚労省研究班の「牛田班」(牛田享宏・愛知医科大学学際的痛みセンター教授代表)が「軽い運動や考え方の癖を前向きに変える認知行動療法によって7割の被害者部症状の回復または改善をみたと発表したことに対して、副反応とされる症状の原因が心身の反応や機能性身体症状という前提で研究している、会員は改善したという自覚を持っていないなど不信感を募らせた。

    一方で、食事療法で症状が改善したという会員の声を封殺したうえで事実上の除名処分にするなど、「被害者そっちのけでイデオロギー闘争に明け暮れている」という医師の上昌広による批判もある。

    また、ワクチンの副反応とされる症状に疑問を呈し、厚労省研究班の「池田班」の研究発表に不備があると主張した医師・ジャーナリストの村中璃子及びその関係者に対しても抗議活動を展開している。また厚生労働省への法的責任の確認や、国内での疫学調査の実施を請求している。

    集団訴訟

    • 2016年3月30日、日本で「HPVワクチン薬害訴訟全国弁護団」が結成され、半身麻痺などが残った女性ら原告124人が、日本政府とグラクソ・スミスクライン社、MSD社に損害賠償を求める集団提訴を行うと発表し、東京、大阪、名古屋、福岡の4つの地方裁判所で1人あたり1500万円の賠償金を求める集団訴訟が起こされた。2020年3月現在、係争中。
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