記憶

人は 辛いことや悲しいことを
忘れるように できている
いいことや楽しいことばかりを
覚えているのだという
ほんとうに そうだろうか

人は 辛いことや悲しいことを
閉じ込めて生きている
いいことや楽しいことで覆い隠し
まるでなかったことのようにして
明るく すごす

人の記憶ほど
あてにならないものはない
記憶は歪められ作られる
いくら正しいと思っても
記憶は事実からは遠い

経験したことが記憶に残り
思い出になってゆくけれど
思い出すたびに歪められ
都合のいいように上書きされ
経験とは かけ離れたものになる

文字や画像や映像から
物語を作り出し記憶して
思い出すたびに
実際にあったことのように
感じ 信じる

記憶の持つ曖昧さが
過去を疑わしいものにする
思い出は限りなく広がり
光景は色を変え
次第に薄れてゆく

美しい記憶は
どれも ぼんやりしている
美しくない記憶は
なぜか はっきりしている
消えてほしくても 消えない

人は辛いことや悲しいことを
忘れるようにできているなんて
そんなのは学者のたわごとで
誰もが 忘れられずに
それでも 生きている

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