土屋秀夫

古本のような女をめくり遅日

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冬木立どの木も過去に遇ったひと

3 thoughts on “土屋秀夫

  1. shinichi Post author

    鳥の緯度
    土屋秀夫 句集

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    (「帯」より)
    蝶生る闇にハサミを入れる時
    白地図の白い山脈鳥帰る
    蒲公英はすべての風に名を付ける
    刺青もピアスも春の愁かな
    大阪の黒鯛泥臭く古典好き
    蠅と居て見て見ぬふりの上手くなり
    おごそかな距離に並んで冷奴
    魂のところが苦い干し鰯
    美しき数列氷柱に芯はない
    折皺の通りに畳む初あかり

    北から南から鳥は日本に渡ってくる
    赤い実を食べた鳥が私の荒地に種を落とした
    種は俳句となって草花をさかせた
    俳句の交わりから、詩のミューズから
    到来した種が育って荒地は草原になった

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    家ごとに巨魚煮つめおり春の星
    魂のところが苦し干し鰯
    一度だけ訂正できる真葛原
    武者小路実篤が床の間にあり鯖定食
    コピー紙をさばき蝸牛を見失う
    短編のはじめに葬儀アマリリス
    うしろから雨に抱かるる鶴の寺
    手紙を読むように漬ける白菜
    冷蔵庫あけるに少し抵抗す
    あちこちが座礁している秋の空
    さっきまで誰かいた部屋雪あかり
    緑陰に座して女神のようなひと
    もう父を忘れし母のアイスティー
    満月の永久機関に船出せり

    **

    舐めて貼る八十二円レノンの忌
    菜畑の奥に廃業ラブホテル
    赤とんぼ物流倉庫という荒野
    じゃが芋が鈍器のように置かれあり
    寒晴の肉感的な椅子の脚
    過去のあるビロードの椅子青嵐
    木守柿通勤準急加速する
    叡山をむこうにまわし赤蛙
    アロハ着てパチンコ打ちにいく自由
    電気ケトルの先に原子炉すべりひゆ

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    Reply
  2. shinichi Post author

    いつまでも見送っている案山子かな
    さや豌豆つる延命の管青し
    そこにある祖父のマントの侵略史
    ブルーシート主は不在梅早し
    六十ですべてを捨つる梅一輪
    初夢を篩にかけて残るもの
    名刺入れ丸ごと焼いて雑煮食う
    如月や分家の格を教えられ
    忘れもの戻れば墓地に青嵐
    新米を供えながらも恨み言
    春めくや蛇口の錆の血の味よ
    洗ひ髪トマトをかじる女中部屋
    浮塵子なら日没までの舞踏会
    玉音のそらへそらへと夏の蝶
    生誕の血煙向こうから春の月
    田植えすみ大海原のあらわるる
    目を閉じて水のありかを聴く守宮
    稲という草の実食ってアジアかな
    空き缶をつぶす音聞く羽根布団
    繋船の順に乗り越え春の潮
    肋骨を削る裏庭風涼し
    身の始末念頭にして霧を吹く
    辣韮を三つぶ小皿においてみる
    退去する軒に風鈴吊るし置く
    風鈴をひとつ鳴らして父帰る

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