パントー・フランチェスコ

社会の所属感、つまり “社会の一員であり続ける” “よそ様に迷惑をかけない” といったことに強いエネルギーを日本人は使っているんだなと感じました。“社会的使命” という言葉が心理学にはありますが、他者や社会から認められない自分のあり方は『恥』『外れている』と思ってしまう。他者から認められたいという“他者承認”欲求が満たされないと、自分が幸せであることを実感できないのだと思います

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  1. shinichi Post author

    「本音と建前」が心をむしばむ――イタリア人精神科医が見つめる日本人の不調

    https://news.yahoo.co.jp/articles/d25bed9372ef4dde4af269a90732e07fcee6dcc2

    異色のイタリア人精神科医、パントー・フランチェスコさん(32)。幼少期から日本のアニメやゲームに励まされ、日本で働くことを選んだ。ひきこもり問題を研究し、心の不調を抱える多くの患者を日々診療している。「日本人は自分の悩みを人に相談したりせずに、抱え込んでしまう傾向がある」。フランチェスコさんの目から見た生きづらさの理由、そして解決する方法とは。(取材・文:ノンフィクションライター・西所正道/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)

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    幼少期、「セーラームーン」に憧れた

    「精神科医の診察を受けて笑えたのは初めてですね。会うといつも『こんにちは!』って感じで元気だし、薬の説明をするときも、これを飲めば感情が安定するとか前向きに説明してくださるんです」

    そう語るのは、30代の女性会社員Aさん。8年ほど、うつに悩まされ、回復と再発を幾度となく繰り返してきた。これまで6人ぐらいの精神科医や心療内科医の診察を受けたが、都内のクリニックで診察している医師によって症状はずいぶん改善したという。

    その精神科医とはパントー・フランチェスコさん(32)だ。生まれも育ちもシチリアという生粋のイタリア人である。7年前に来日、日本の医師免許を取得し、現在、慶應義塾大学病院や複数のクリニックで診察にあたっている。

    フランチェスコさんを大学院で教えている筑波大学・医学医療系の斎藤環教授はこう話す。

    「日本の医師国家試験は日本語でしか出題しないため、非常に高い日本語能力の習得が必要で、欧米人にとっては相当ハードルが高い。医師免許を取れたとしても、日本では給与がさほどでもない。欧米人医師にとってメリットなんてほとんどないのです。だから欧米系の留学生が日本の医師免許を取る例は今までほとんどありません」

    そんな圧倒的に不利な状況を分かったうえで、フランチェスコさんはなぜ日本に興味を持ち、精神科医を目指したのだろうか。

    原点は幼い頃の趣味や体験にあった。フランチェスコさんは、エンジニアの父と生物学者の母との間に生まれた。二卵性双生児の姉がいる。性格は対照的で、姉はいつも陽気、弟の自分はいつも悲しげな顔をしていると言われたことがあるという。しかも幼い頃から同世代の男子と共通の話題をあまり持てなかった。フランチェスコさんは当時を振り返る。

    「小学校の昼食後の休憩時間になると、ほとんどの男子はサッカーボールに群がりますが、僕は全く興味が持てなかったんです。好きだったのは、当時イタリアでもテレビ放映されてブームになっていた『セーラームーン』。ですから一緒に遊ぶのは女子が多かった。一緒に戦士の役をしたりして盛り上がっていました」

    “なんで女の子と一緒に遊ぶんだ”ということで、男子から仲間はずれにされたこともあったし、暴力をともなういじめに遭ったこともあった。また高校の頃になると、ひきこもりに近い状態になったこともある。そんなときに気持ちを支えてくれたのが、日本のアニメやゲームだった。アニメならば「セーラームーン」の他に「エヴァンゲリオン」「犬夜叉」、ゲームでは「ゼルダの伝説」「ファイナルファンタジー」「ポケモン」……。

    「魔法を使ったり、世界冒険ができたりして、元気になるんです。アニメやゲームは現実世界から逃避する道具として見られることがありますが、そうではないと思うのです。好きなキャラクターに自分を投影して、そのキャラクター目線で現実の問題を見つめ直すと、あたかも自分の問題を鑑賞するような形で悩みに向き合えるようになります」

    11歳の頃には日本を紹介するドキュメンタリーをテレビで見る。日本古来の音楽や神秘的な景色を背景に、ひきこもりなど社会問題も紹介されていた。

    「日本文化が持つ芸術的で、美的な部分に感動しました。一方で、社会の混沌とした状態にも好奇心が湧いてきて。自分もひきこもり的なところがあったから感情移入もできた。番組を見た後、母に『僕は日本に住むことになる』と言ったんです」

    イタリアの名門大医学部を首席で卒業し日本へ

    内省的な思春期を送ったためか、心の働き方に興味をもち、ローマにあるカトリック大学で精神医学を学ぶ。首席で卒業すると、幼少期から描いた夢を実現するため日本を目指す。

    ただ、留学しようにも情報がない。トップクラスの大学を中心に調べて、「いちばん優しそうな顔の教授」に連絡を取ることにした。それが慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室の三村將教授。メールでコンタクトした。三村教授はこう話す。

    「日本語は未熟でしたが、文面から誠実さが伝わってきたので相談に乗りました。私費で留学するというので、文部科学省の国費外国人留学生制度があることを伝えました」

    2015年、同制度の審査をパスし、博士課程で学べる資格を得る。そしてその春から、ひきこもり研究の第一人者、前出の斎藤環教授のもとで研究を始める。フランチェスコさんの研究テーマは、「フィクションによってひきこもり経験者の気持ちは前向きになるか」。

    これは自身の経験が原点にあるという。

    「僕はアニメとかゲームの中で得た学びに力をもらって、その力を現実の世界に向けられた。それがなければ心の安定は保てなかったし、今の自分もない。ひきこもりにとってゲームやアニメはあまりよくないと言われるかもしれないけれど、社会的な行動を高める可能性があるんじゃないか。普段、外の社会に接していなくても、物語の世界に接することで、他者に対して共感や配慮ができ、思いやりの気持ちを持てるんじゃないかな、と思って」

    研究の傍ら2018年には、医師国家試験に一発合格。21年春から、慶應義塾大学病院で医師として診察を開始。慶應病院以外でも、週に数日は民間クリニックで診察をしている。冒頭のAさんはその患者だが、フランチェスコさんは話をじっくり聞いてくれるという。

    「日本語が伝わらなくて嫌な思いをしたことは一度もありません。母国語ではない言葉を使うので、誤解のないように意識されているからかもしれません。先生自身も精神的に悩まれた時期があったので、私のつらさを正確に理解してくれます」

    同じクリニックで診察を受けるBさん(30代)は外国人で、日本語に不安がある。だからフランチェスコさんのような存在はありがたいという。

    「私の母国語は英語ではありませんが、フランチェスコと話すときは英語を使います。彼は私の悩みをよく理解してくれます。診察の際、言葉の壁を感じたことはありません。嬉しいのは治療の選択肢を複数用意してくれること。日本に住む外国人にフランチェスコを薦めたいです」

    「勝ち組」「負け組」という言葉に抱いた違和感

    フランチェスコさんは、自分はイタリア人で「部外者」だからこそ、日本人の心の不調の裏側にあるものが見えると話す。

    一つは「同調圧力」。日本の場合、例えば「自分が希望することより、組織の一員としての自分を優先させる」といった考え方が印象的だという。いわば「本音と建前」の使い分け。フランチェスコさんは今、日本人の「本音と建前」について研究し、書籍も執筆中だ。

    「会社や学校など世の中の建前に合わせようとするあまり、自分が思ってもいないのに、無理してうわべだけ取り繕おうとする。そうした“感情労働”が心をむしばむのです。本音と建前の狭間で引き裂かれるのがつらいから社会参加しない。それしか選択肢がない。ひきこもりには多くの要因がありますが、そうした側面が引き金になっていると思います」

    本音と建前の背景にあるのは、自分がどう見られているのかを意識する「他者の目線」である。他人から見て幸せそう、カッコいい、お金持ちそうな人が日本では「勝ち組」と呼ばれ、そうでない人を「負け組」と決めつけることに違和感があった。

    「作られた価値観が格差に拍車をかけているように思います。昨年8月に小田急線車内で起きた刺傷事件で、容疑者が女子学生を狙った動機が『勝ち組の典型に見えたから』と報道されました。『勝ち組』『負け組』という分け方が、そうした犯罪にまでつながっているのではないでしょうか」

    自分が幸せでも素直に喜んでよい状況なのかを注意深く観察する。そこにも日本ならではの「他者の目線がある」と指摘する。

    「こういう振る舞いを見ていると、社会の所属感、つまり“社会の一員であり続ける”“よそ様に迷惑をかけない”といったことに強いエネルギーを日本人は使っているんだなと感じました。“社会的使命”という言葉が心理学にはありますが、他者や社会から認められない自分のあり方は『恥』『外れている』と思ってしまう。他者から認められたいという“他者承認”欲求が満たされないと、自分が幸せであることを実感できないのだと思います」

    フランチェスコさんの患者に、義母との関係性で悩む女性がいた。趣味などに時間を使いたいのだけれど、夫の手前もあって義母と行動を共にすることを第一に考えなければならなかった。我慢して義母につきあううちに、身体に原因不明の変調をきたすようになった。フランチェスコさんは、これも社会的使命によって自分の幸せを犠牲にした結果だと見る。

    「この女性のように、体調が悪かったりするのは、心のトラブルの表れです。日本人は自分の悩みを人に相談したりせずに、抱え込んでしまう傾向があると思います。イタリア人の場合は不安などの感情に向き合って、しんどくなったら周りにしゃべっちゃう。日本人の場合は、負の感情の“居場所”がないんですね。ひたすらため込んで、その感情と向き合うことなくそのままにして抱え込んでしまうと、それが毒になる。さらに膨らむと“怪物”のようになってしまう」

    先ほどの義母に対する女性の態度は、家族の中でうまく生き抜く知恵でもあるだろう。それをするなと言われても、外国人のあなたに何が分かるの? そんな簡単な話じゃない、という反応も出るのではないか。

    「気持ちは分かります。でもそういう場合は医師としての科学的な見解を冷静に話すしかないのです。『今の状態を続けると症状はよくならないですよ』と。診察していてつくづく思うのは、自分にもっと優しくしてほしいということです。自分の幸せにもう少し貪欲になってもいいんじゃないかとも。最終的には、自分がいちばん大切なので。自分が成し遂げたいこと、希望することを優先してほしいです」

    弱点は「負け」ではなく、ユニークさ

    フランチェスコさんは女子と「セーラームーン」で遊んでいたことで、男子から相手にされなくなったとき、母親から言われたことが生きる力になった。

    〈自分の良さや自分のユニークなところを信じて〉

    この言葉は、日本人へのアドバイスにもなるかもしれない。

    「日本では組織の調和が重んじられるためか、自分の苦手なことや変わっているところは弱点だと、まるで悪いことのように捉える傾向があって、〈弱点があるのは負け〉と考えがちです。でも、弱点はむしろユニークな面だと、もっとポジティブに考えればいいと思います。大切なことは、自分を信じることです。そして自分しかできない能力を磨いておくこと。それが社会的な貢献につながるようになったら、ポジティブな評価になって自信が持てます」

    フランチェスコさんがいま、臨床と並行して取り組んでいるのが、「治療に使えるゲームソフト」の開発である。

    「僕が作るゲームのキャラクターはいずれも悩みを抱き、絶望を経験するなど、生きづらさを感じているのですが、あることをきっかけに光明を見つける。そのストーリーに感情移入することで、自信を取り戻し、前向きになればと思っています」

    ゲームのタイトルは「BELIEVE YOUR LIGHT」。このゲームソフトが、自身が何度となく日本のゲームに助けられてきたフランチェスコさんの日本への恩返しになるのだろう。

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