レイチェル カーソン

この地上に生命が誕生して以来、生命と環境という二つのものが、たがいに力を及ぼしあいながら、生命の歴史を織りなしてきた。といっても、たいてい環境のほうが、植物、動物の形態や習性をつくりあげてきた。地球が誕生してから過ぎ去った時の流れを見渡しても、生物が環境を変えるという逆の力は、ごく小さなものにすぎない。だが、二十世紀というわずかのあいだに、人間という一族が、おそるべき力を手に入れて、自然を変えようとしている。
ただ自然の秩序をかきみだすのではない。今までにない新しい力――質の違う暴力で自然が破壊されてゆく。ここ二十五年の動きを見れば、そう言わざるをえない。たとえば、自然の汚染。空気、大地、河川、海洋、すべておそろしい、死そのものにつながる毒によごれている。そして、たいていもう二度ときれいにならない。食物、ねぐら、生活環境などの外の世界がよごれているばかりではない。禍いのもとは、すでに生物の細胞組織そのものにひそんでゆく。もはやもとへもどせない。

2 thoughts on “レイチェル カーソン

  1. shinichi Post author

    沈黙の春

    by レイチェル カーソン

    translated by 青樹簗一

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    この地上に生命が誕生して以来、生命と環境という二つのものが、たがいに力を及ぼしあいながら、生命の歴史を織りなしてきた。といっても、たいてい環境のほうが、植物、動物の形態や習性をつくりあげてきた。地球が誕生してから過ぎ去った時の流れを見渡しても、生物が環境を変えるという逆の力は、ごく小さなものにすぎない。だが、二十世紀というわずかのあいだに、人間という一族が、おそるべき力を手に入れて、自然を変えようとしている。

    ただ自然の秩序をかきみだすのではない。今までにない新しい力――質の違う暴力で自然が破壊されてゆく。ここ二十五年の動きを見れば、そう言わざるをえない。たとえば、自然の汚染。空気、大地、河川、海洋、すべておそろしい、死そのものにつながる毒によごれている。そして、たいていもう二度ときれいにならない。食物、ねぐら、生活環境などの外の世界がよごれているばかりではない。禍いのもとは、すでに生物の細胞組織そのものにひそんでゆく。もはやもとへもどせない。汚染と言えば放射能を考えるが、化学薬品は、放射能にまさるとも劣らぬ禍いをもたらし、万象そのもの―生命の核そのものを変えようとしている。核実験で空中にまいあがったストロンチウム90は、やがて雨やほこりにまじって降下し、土壌に入りこみ、草や穀物に付着し、そのうち人体の骨に入りこんで、その人間が死ぬまでついてまわる。だが、化学薬品もそれにまさるとも劣らぬ禍いをもたらすのだ。畑、森林、庭園にまきちらされた化学薬品は放射能と同じようにいつまでも消え去らず、やがて生物の体内に入って、中毒と死の連鎖をひき起こしゆく。また、こんな不思議なこともある―土壌深くしみこんだ化学薬品は地下水によって遠く運ばれてゆき、やがて、地表に姿を表すと、空気と日光の作用をうけ、新しく姿をかえて、植物を滅ぼし、家畜を病気にし、きれいな水と思って使っている人のからだを知らぬ間にむしばむ。アルベルト・シュヴァイツァーは言う―《人間自身がつくり出した悪魔が、いつか手におえないべつのものに姿を変えてしまった》。

    いまこの地上に息吹いている生命がつくり出されるまで、 何億年という長い時がすぎ去っている。発展、進化、分化の長い階段を通って、生命はや っと環境に適合し、均衡を保てるようになった。環境があってこそ生命は維持されるが、環境はまたおそろしいものであった。たとえば、場所によっては、危険な放射能を出す岩石があった。
    すべての生命エネルギー源である太陽光線にも、短波放射線がひそんでいて、生命をきずつけたのだった。時をかけて――それも何年とかいう短い時間ではなく何千年という時をかけて、生命は環境に適合し、そこに生命と環境の均衡ができてきた。時こそ、欠くことのできない構成要素なのだ。それなのに、私たちの生きる時代からは、時そのものが消えうせてしまった。

    めまぐるしく移り変わる、いままで見たこともないような場面――それは、思慮深くゆっくりと歩む自然とは縁もゆかりもない。自分のことしか考えないで、がむしゃらに先を急ぐ人間のせいなのだ。放射能といっても、岩石から出る放射線でもなければ、またこの地上に生命が芽生えるまえに存在していた太陽の紫外線――宇宙線の砲撃でもなく、人間が原子をいじくって作り出す放射線なのだ。生命が適合しなければならなかった化学物質といえば、カルシウムとか、シリカとか、銅とか、そのほか岩から洗い出され海へと運ばれていった無機物のかすにすぎなかったが、いまや人間は実験室のなかで数々の合成物をつくり出す。自然とは縁もゆかりもない、人工的な合成物に、生命は適合しなければならない。

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  2. shinichi Post author

    Silent Spring

    by Rachel Carson

    Those who contemplate the beauty of the earth find reserves of strength that will endure as long as life lasts. There is something infinitely healing in the repeated refrains of nature — the assurance that dawn comes after night, and spring after winter.

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    In nature nothing exists alone.

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    Why should we tolerate a diet of weak poisons, a home in insipid surroundings, a circle of acquaintances who are not quite our enemies, the noise of motors with just enough relief to prevent insanity? Who would want to live in a world which is just not quite fatal?

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    We stand now where two roads diverge. But unlike the roads in Robert Frost’s familiar poem, they are not equally fair. The road we have long been traveling is deceptively easy, a smooth superhighway on which we progress with great speed, but at its end lies disaster. The other fork of the road — the one less traveled by — offers our last, our only chance to reach a destination that assures the preservation of the earth.

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    Only within the moment of time represented by the present century has one species — man — acquired significant power to alter the nature of the world.

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