アール座読書館

現実逃避の対極にあるものを考えてみると、その象徴として「to doリスト」なんてものが思い浮かんだりもします。僕もずっと多用している、物事を計画的に運ぶために、目標に一歩一歩迫るために無くてはならない重要なものです。アール座の僕の仕事なんかは実のところ、会社で言う総務みたいな仕事がメインだったりします。何処かの機器や器具什器が故障したり、何かしらが消耗してそのシステムの動きが滞ったりと、絶え間なく交互に訪れる管理、補修業務が仕事の大半だったりするんですが、もうこのリストがそれでひたすら埋め尽くされ続けます。
でも世の中の数ある職種のほとんどにはこれが必要だったりするんじゃないでしょうか。無数のタスクを処理し続けていく要素が少なからず必要なお仕事の方が現代では普通なんだと思います。
僕なんかはスマホや手帳の上で永遠に続くとも思われるそれに、ヘタをすると人生そのものを持っていかれるような恐さを時々感じたりすることがあります。本当の自分は何がしたいのか、最終的にはどうなりたいのか、自分は何のために生まれて来たのか、みたいな大きな視点がto doリストに埋もれてぼやけて分からなくなったまま人生が終わっちゃったらどうしよう…みたいな恐怖感が随分前からあって、それがこの店を作った動機の一つにもなっています。
間違いや迷いを許さないマニュアル化された社会環境が強要してくるこの「やるべきこと」という意識こそ「現実逃避」という言葉に使われている「現実」の部分のような気がしてなりません。
何をやるにも「正しい筋道」や「まっとうな方法」というものが「現実」であるとして、目の前に突きつけられている気がしちゃうんです。特にこの国は。

3 thoughts on “アール座読書館

  1. shinichi Post author

    アール座読書館
    “私語厳禁”というルールのあるブックカフェ「アール座読書館」
    東京都杉並区高円寺南3-57-6 2F
    03-3312-7941
    定休日:月曜

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  2. shinichi Post author


    マスター:渡辺太紀さん

    高円寺「アール座読書館」静謐が売り物の店ならではの苦労
    by 秋場大輔
    日刊ゲンダイ
    https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/money/254886

     喫茶店なのに、店名は「アール座読書館」。店の中では私語厳禁。取材対象としては極めて興味深いが、「きっと偏屈なオーナーなのだろうなあ」と身構えて足を運んだ。実際は真逆で、オーナーの渡辺太紀さんの飾ることのない話は、非常に印象深いものがあった。

     渡辺さんは喫茶店について、「1人で入って、本でも読みながら、自分と向き合う場所」として利用してきた。しかし、ほかの客の会話や食事の音は、どうしても耳に入る。「数は少ないかもしれないが、喫茶店に自分と同じように静謐な空間を求める人がいるのではないか」という思いが、アール座読書館を開いたきっかけだ。

     風変わりな店を開くことについて、「最初は不安でした」と渡辺さんは言う。詳しく聞けば、「確かにそうだろうな」と思わずにいられない。

     店内は観葉植物や水槽が所狭しと並ぶ。9つあるテーブルに同じものは一つもなく、吟味に吟味を重ねて購入した形跡がうかがえる。客は約1000冊に上る渡辺さんの蔵書を読むことができるが、それも手に取りやすいようにレイアウトされている。相当凝ったつくりだ。

    「普通、喫茶店を開くのに内装にかける時間は1カ月くらいですが、半年かかってしまいました」

     その間、無収入なのに家賃だけは発生したはず。相当な覚悟がなければ、そこまではこだわれまい。店は目立たない建物の2階にある。しかし、階段の手前にある看板は、目を凝らさなければ気付かない大きさ。店のコンセプトを踏まえれば、大きな看板は似つかわしくないが、初めての客は探しにくいことだろう。取材でお邪魔した時も、かなり迷った。

    「最初の2年間は、これでやっていけるのかと思いましたね」

     メディアで取り上げられたり、口コミが広がったりして、経営が軌道に乗ったのは3年目という。もっとも、アール座読書館の経営にはさまざまな制約条件がある。

     居心地が良くなければ客は来ない。しかし、居心地が良過ぎると客が長居してしまい、収入に結びつかない。喫茶店経営は二律背反の両立が求められるが、アール座読書館は客が自分を見つめる時間を提供するお店。

    「お客さまの滞在時間は平均で1時間半くらいでしょうか」

     高い回転率を期待するのは難しい。

     喫茶店経営を成り立たせるには、飲み物だけではなく、フードメニューや酒が必要とされる。しかし、静謐を売り物とするアール座読書館で、充実したフードメニューがあるはずもなく、酒はもってのほか。客単価を上げるのも難しい。来店客数は平日で30人ほど。休日には階段に客が並ぶ人気店だが、「同じコンセプトの店をさらに出す気にはなりませんね」という。

     月曜日は定休日。火曜日から金曜日までは開店が13時半で、閉店は22時半。土日と祝日は正午から22時半まで。その間、渡辺さんもほとんど口を開かない。

    「お店を開いて間もなく子供が生まれたんです。帰宅は夜遅く。赤ちゃんが寝ていますから、お店だけじゃなくて、自宅でも声を出せない。今は従業員がいますから息抜きする時間がありますけれど、あの頃は声を出せる時がなかったですね。それが一番の悩みだったかな」

     開店前のアール座読書館で、大きな笑い声が響いた。 

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