コピーライター

百年前の大阪の催しに
有名な文化人が招かれ
有名人目当ての人々が
髙島屋まで押し寄せた

与謝野晶子も招かれて
きものの歌を詠んだり
新しい染織物を見ては
色の名を考えたりした

髙島屋の宣伝のお蔭で
色の名は全国に広まり
気がつけば辞書にまで
載るようになっていた

百年経った今になって
与謝野晶子の 286色が
伝統色の表に紛れ込み
和の色として鎮座する

流行歌人の思いつきで
色に名前が付けられて
それが伝統色といわれ
みんながありがたがる

何百年か前の江戸でも
同じようなことがあり
呉服屋が付けた色名が
言葉の中に紛れ込んだ

今も事情は変わりなく
コピーライターが考え
横文字まで取り込んで
色の名は増えつづける

名を必要としない色は
天気で変わってしまい
季節で変わってしまい
何百何千もの顔を持つ

年月を経て渋くなって
主張を失った色たちが
色なんていうものから
解放され安らいでいる

色に名前はいらないと
少し前に言った口から
色の名がこぼれてくる
とても綺麗な色の名が

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