1 thought on “階級社会化の加速

  1. shinichi Post author

    データで解明「コロナで階級社会化が加速」の衝撃

    打撃を最も受けたのは非正規の若者と女性

    by 橋本健二

    https://toyokeizai.net/articles/-/470173

    1947年に発表されたアルベール・カミュの小説『ペスト』と、1722年に出版された、『ロビンソン・クルーソー』の作者であるダニエル・デフォーの実録小説『ペスト』(原題は『ペストの年の記録』)の2冊はいずれも、その事実を描いている。

    ごく簡単に要約すると、カミュの『ペスト』には、次のように書かれている。

    ペストが流行し始めると、必需品への投機が始まったため価格が高騰し、富裕な家庭は何ひとつ不自由しないのに、貧しい家庭は苦しい生活を強いられるようになった。

    また看護人や墓掘り人など、感染の危険の多い職業に就く人々は次々に死んでいったが、人手不足になることはなかった。なぜなら、ペストの蔓延による経済組織の破壊によって生まれた多数の失業者が、下層の仕事を担うようになったからだ、と。

    被害にあったのは必ずしも貧困層ではない

    デフォーの『ペスト』は、1665年のロンドンでのペストの大流行に題材をとっているが、やはりペストが人々の間の格差をきわだたせたことを克明に描いている。

    流行の初期には、まず郊外に疎開先をもつ一部の富裕層が、真っ先に脱出した。豊かな市民や役人たちは、自分や家族はできるだけ家から外に出ないようにして、奉公人を生活必需品の買い物に行かせていたが、往来を駆けずりまわった奉公人たちは感染し、さらに感染を広げていった。死体の運搬や埋葬のために雇われていた者たちが病気になったり死んだりすると、仕事にあぶれた貧乏人たちが代わりに雇われた。

    さらに、次のような注目すべき事実も描かれている。ペスト禍で真っ先に生活が困窮したのは、装飾品や衣服、家具など不要不急のものを製造する職人たちと、これらを扱う商売人たちだった、というのである。

    料亭、居酒屋その他の飲食店での酒宴は禁止され、過度の飲酒は悪疫伝播の原因だとして厳重に取り締まられ、夜9時過ぎの料亭、居酒屋、コーヒーハウスへの出入りは禁止された。

    ここで被害を被ったのは、必ずしも貧困層というわけではなく、自分で事業を営む人々であり、しかもその被害は、感染によるものではなく、事業が痛手を受けたことによるものである。これらの人々のもとで働いていた職人や店員も、仕事を失ったはずだ。

    これは現代の日本と、まったくといっていいほど同じである。

    政府は必需品ではないものを扱う小売店と飲食店に、強い制限を発動した。しかし、大企業と大型店の攻勢、新興国からの輸入の拡大によって多くの商工業の自営業者が淘汰されてしまった今日、生き残っているのは、大企業では扱いにくい個性的な商品や趣味性の高い商品、つまり必需品ではないものを扱う業者、そして飲食業者である。これらが直撃を受けた。

    またこれらの商品を扱う小売店や飲食店は、非正規労働者の多い業種である。だから経営する旧中間階級とともに、非正規労働者が直撃を受けた。

    以上からわかったことを整理すると、感染症は、すべての人々に平等に襲いかかるのではない。階級によって影響に差があるのだ。そしてこの階級性には、2つの要素がある。

    1つは、感染リスクの違いである。仕事の種類によって、感染リスクの高い場所に近づく必要性は異なる。だから感染リスクは、階級によって異なるのである。

    もう1つは、経済的なメカニズムから受ける影響の違いである。物価の上昇から受ける影響は、豊かな階級では小さく、貧しい階級では大きい。感染症の拡大は仕事に影響するが、その影響は階級によって異なる。

    現代資本主義社会を構成する4つの階級

    それではデータを使って、コロナ禍がそれぞれの階級にどのような影響を与えたのか、確かめてみよう。ここでは、資本家階級、新中間階級、旧中間階級、労働者階級、アンダークラスの階級5分類を用いる。まずはその説明をしよう。

    資本主義社会の最も基本的な階級は、生産手段を所有する経営者である資本家階級と、資本家階級に雇われて働く労働者階級である。しかし現実の社会には、その間に2つの中間階級が存在している。

    1つは商工業の自営業者や自営農民などの「旧中間階級」である。これらの人々は生産手段を所有しているが、その量が小さいため、自分や家族でこの生産手段を使い、現場で働いている。このように資本家階級と労働者階級の性質を兼ね備えた人々であり、しかも資本主義の成立以前から存在する古い階級であることから、旧中間階級と呼ばれる。

    もう1つは、雇用されて専門職・管理職・上級事務職などとして働く「新中間階級」だ。雇用されて働く労働者階級を管理したり、生産手段全体の管理・運用を行ったりするような仕事は、もともと資本家階級が担っていたが、企業規模が大きくなると一部の労働者に委ねられるようになる。

    そうした人々は、労働者階級と同様に被雇用者でありながら、労働者階級の上に立つようになる。このように労働者階級と資本家階級の中間に位置する階級であり、しかも資本主義の発展とともに新しく生まれた階級であることから、新中間階級と呼ばれる。

    こうして現代資本主義社会は、資本家階級、新中間階級、旧中間階級、労働者階級の4つの階級から構成されるようになった。

    だが、近年になって大きな変化が生じてきた。労働者階級の内部に、従来から存在してきた正規雇用の労働者階級とは異質の、むしろ別の階級とみなすのがふさわしい下層階級が形成されてきたからである。

    非正規労働者のなかでも、以前から数が多かったパート主婦は、家計補助のために働くことが多いから、必ずしも貧困に陥りやすいわけではない。しかし近年は、それ以外、つまり男性と配偶者のない女性の非正規労働者が激増している。

    雇用が不安定で、賃金が低く、労働者階級としての最低条件すら満たされないこれらの人々は、アンダークラス、あるいはプレカリアートなどと呼ばれてきた。ここでは単刀直入なわかりやすさから、アンダークラスと呼ぶことにしたい。そしてアンダークラスが1つの階級として確立した社会を、新・階級社会と呼ぶことにしたい。

     <日本の新・階級構造>
     資本家階級:経営者、役員
     新中間階級:被雇用の専門職、管理職、上級事務職
     旧中間階級:商工業の自営業者、家族従業者、農民
     労働者階級:被雇用の単純事務職、販売職、サービス職、その他マニュアル労働者
     アンダークラス:非正規労働者(パート、アルバイト、派遣社員)

     
    次の表は、5つの階級の経済状態、そして2020年4月の緊急事態宣言以降に、それぞれの仕事に起こった変化をまとめたものである。

    これを見ると、コロナ禍で大きなインパクトを受けたのは、弱い立場のアンダークラス、そして以前から衰退が続いてきた零細な商工業者の階級である旧中間階級であることがわかる。

    世帯年収は、資本家階級が1100万円と最も多く、これに新中間階級が816万円で続いている。旧中間階級は678万円にとどまり、644万円の労働者階級と大差がないが、2019年と比べると127万円も減った。そして、アンダークラスは393万円と最も低い。

    なお2020年の個人年収は、資本家階級が818万円、新中間階級が561万円、旧中間階級が413万円、労働者階級が463万円、アンダークラスが216万円である。アンダークラスの収入がきわめて低く、労働者階級との比較でも、半分以下にとどまっている。

    旧中間階級とアンダークラスは貧困率も高い

    貧困率はどうか。資本家階級が7.5%、新中間階級が5.2%と低く、労働者階級も9.5%にとどまるが、旧中間階級は20.4%、アンダークラスは38.0%と高い。

    次に、仕事の上での変化を見ると、どの階級も勤務日数や労働時間、そして収入を減らしている人が多いが、階級による違いも大きい。最も影響を受けたのは旧中間階級とアンダークラスで、それぞれ42.0%、29.1%が収入を、そして34.9%、37.2%が勤務日数や労働時間を減らしている。

    興味深いのは、勤務日数や労働時間が減ったという人の中で、収入が減ったとする人の比率である。新中間階級では勤務日数や労働時間が減ったという人のうち、収入が減ったのは37.0%である。この比率は労働者階級では52.1%と半数を超え、アンダークラスと旧中間階級は、それぞれ61.6%、67.3%と、明らかに高い。新中間階級は、仕事が減っても会社組織に守られて収入が減らないことが多いのである。

    さらに在宅勤務などの勤務形態の変更を経験したのは、新中間階級が最も多く25.4%、もっとも少ないのは旧中間階級で4.3%、ほかはいずれも10%台の前半である。新中間階級は在宅勤務によって感染のリスクを減らすことができたということがわかる。

    貧困率が最も高いアンダークラスでは、内部での格差も見逃せない。次の表は、アンダークラスに起こった仕事上の変化を、年齢別に見たものだ。

    まず勤務先が休業したという人の比率を見ると、20~39歳の若者が16.8%と高く、40歳以上(8.3%)の2倍となっている。コロナ禍は明らかに、若者の仕事により強く影響したのである。

    しかし勤務日数や労働時間、そして収入の変化を見ると、様相が異なる。勤務日数や労働時間が減ったという人は、どちらの年齢層も36.5%で違いがない。収入が減った人の比率は、20~39歳の若者が25.1%にとどまるのに対して、40歳以上では31.8%に上っている。

    若者は転職や副業で何とかしのいでいる?
    なぜこんな結果になるのか。その理由は、転職した人の比率と副業を始めた人の比率を見ればわかる。20~39歳の若者は9.0%までが転職しているのに、40歳以上で転職したのはわずか0.5%である。また若者の4.8%が副業を始めているが、40歳以上ではこの比率が2.6%にとどまる。

    どうやら若者たちは、コロナ禍によって勤め先が休業するなど、大きな影響を受けはしたのだが、転職や副業によって何とかしのいでいるらしいのである。これも若さゆえだろう。ちなみに転職した若者の比率を男女別に見ると、男性4.9%、女性11.3%となっており、女性のほうが苦労したことがうかがえる。

    これに対して40歳以上の人々は、仕事が減ったにもかかわらず転職も副業もしなかったために収入が減っているのだが、実はここには男女差がある。収入が減った人の比率は男性では24.7%にとどまるのに対して、女性では36.1%と明らかに多いのである。

    中年男性アンダークラスがある程度まで守られているのに対して、中年女性アンダークラスは、放置されているようである。詳しいことはわからないが、おそらく休業補償などの制度が男性のほうにより多く適用されているのだろう。

    このようにコロナ禍は、従来からあった階級間の格差をより際立たせた。アンダークラスと旧中間階級がより大きなインパクトを受け、さらにアンダークラスの内部を見ると、若者と女性が受けたインパクトが大きい。

    弱者がより大きな影響を被り、格差が拡大した。コロナ禍は日本の社会に、大きな傷跡を残したといわなければならない。この傷を癒やし、さらに格差を縮小して災禍に強い社会をつくりだすことが、今後の日本社会には求められる。

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