反市民の政治学(日下渉)

 
ポピュリストのリーダーを追放する「市民」の運動は、「大衆」の反発を招いて深刻な政治不安を生じさせた。選挙を改善しようと、「市民」がポピュリストを強く非難すればするほど、「大衆」は尊厳を否定されたポピュリストに親近感と共感を覚える。年に法治主義と秩序をもたらそうと「市民」が不法占拠者や露天商に対する攻撃を支持すればするほど、貧困層は「金持ち」に対する敵意を強めながら、賄賂によって不法な生活基盤を強化していく。このように、排他的市民主義はその目的を達成できないばかりか、大衆圏で強い反発を招き、国民の道徳的分断を先鋭化させてしまうのである。

One thought on “反市民の政治学(日下渉)

  1. shinichi Post author

    反市民の政治学
    フィリピンの民主主義と道徳
    by 日下渉

    「正しい」政治は人々を幸せにするのか

    格差の激しいこの国では、票の売買や違法な生活様式は珍しくない
    だが、市民的道徳を貫けば暮らしはよくなるのだろうか
    スラムに生きる人々に寄り添いながら、新たな共同性を模索する

    **

    膨大な数の市民が立ち上がり、マルコス大統領の独裁政治に終止符が打たれてから約30年。貧富の差が拡大し、選挙のたびに票の売買が取りざたされるこの国に、「正しい」民主主義は根付かないのだろうか。著者はスラムに暮らし、したたかでたくましい庶民の声に耳を傾けて、新たな共同性の可能性を探る。国民の分断が進む日本社会に本書は参考となるに違いない。

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