虚構の森(田中淳夫)3

現在の農地の奪い合いは、「条件のよい農地」の奪い合いなのだ。作物を換金商品として、コストと引き合う農地を求めている。売値とテンビンにかけて儲かる場所で高く売れる作物を生産する。逆に言えば、儲からない農地は放棄する。日本の中山間地で起きている耕作放棄と同じ理由だ。
飢餓を引き起こすのは食糧不足ではなく、必要な人々の手元に届かない流通や政治の責任だ。経済的な理由のほか、貿易障害やいびつな流通で出るロスも大きいのである。
同じ疑問を林業でも感じていた。日本では、森林が飽和状態で木が繫りすぎだという。木を伐り出しても十分な需要がなければ木材はだぶつき価格は下がる。世界の木材市場でも同じことが起きている。一般に森林破壊が続いて木材不足のように思われがちだが、近年の木材価格は下落気味だ。
食糧危機や森林破壊の発生は、人口爆発のせいではない。社会システムの不具合が生じさせていることを知るべきだろう。

2 thoughts on “虚構の森(田中淳夫)3

  1. shinichi Post author

    虚構の森

    by 田中淳夫

    [目次]
    はじめに ――森を巡る情報の「罠」
    第1章 虚構のカーボンニュートラル
    1.地球上の森林面積は減少している?
    2.アマゾンは酸素を出す「地球の肺」?
    3.間伐した森は「吸収源」になる?
    4.森林を増やせば気候変動は防げる?
    5.老木は生長しないから伐るべき?
    6.温暖化によって島国は水没する?
    7.砂漠に木を植えて森をつくろう?

    第2章 間違いだらけの森と水と土
    1.「緑のダム」があると渇水しない?
    2.「緑のダム」があると洪水は起きない?
    3.木の根のおかげで山は崩れにくい?
    4.森は降雨から土壌を守ってくれる?
    5.黄砂は昔から親しまれる気象現象?
    6.植物もパンデミックに襲われる?

    第3章 日本の森を巡る幻想
    1.マツタケが採れないのは、森が荒れたから?
    2.古墳と神社の森は昔から手つかず?
    3.日本の「本物の植生」は照葉樹林?
    4.日本の森は開発が進み劣化した?
    5.植林を始めたのは江戸時代から?
    6.生物多様性は安定した環境で高まる?
    7.草原は森より生物多様性は低い?

    第4章 フェイクに化ける里山の自然
    1.ソメイヨシノにサクランボは実るか?
    2.外来草花が日本の自然を浸食する?
    3.堤防に咲く花は、遺伝子組み換え植物?
    4.街路樹は都会のオアシスになる?
    5.ミツバチの価値はハチミツにあり?
    6.外来生物は在来種を駆逐する?

    第5章 花粉症の不都合な真実
    1.造林したからスギ花粉は増えた?
    2.枯れる前のスギは花粉を多く飛ばす?
    3.スギを減らせば花粉も減る?
    4.舗装を剥がせば花粉症は治まる?
    5.花粉症はスギがもたらす日本だけの病?
    6.マイクロプラスチックは花粉症より危険?

    第6章 SDGsの裏に潜む危うさ
    1.桜樹は日本人の心だから保護すべし?
    2.和紙も漆も自然に優しい伝統工芸?
    3.木材を使わない石の紙は環境に優しい?
    4.再生可能エネルギーこそ地球を救う?
    5.パーム油が熱帯雨林を破壊する?
    6.農薬や除草剤は人にも環境にも危険?
    7.人口爆発のため食料危機になる?

    終わりに――行列の後ろを見るために

    主な参考文献(順不同)

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  2. shinichi Post author

    世界の農地や森林は余っている?

    by 田中淳夫

    https://news.yahoo.co.jp/byline/tanakaatsuo/20140727-00037733

    世界の人口は爆発的に増えているとされる。とくに発展途上国では出生率が高く、一方で医療の普及で幼児死亡率が下がり気味だから人口増が続いているとか。そして、先進国が途上国の農地を買いあさっている……そんなニュースを新聞や雑誌で見かけるようになった。他国で自国用の食料生産を行うためだそうだ。これをランドラッシュという。

    だが、どうも違和感がある。そんなに先進国は、食料不足だろうか。貿易ではなく農地を取得する必要がなるのか? そして人口増はどこまで続くのか?

    そんなところに、まったく別の情報を目にした。実は、世界の農地は余っている、というのだ。日本では耕作放棄地の増加が問題になっているが、これは地方の過疎化が原因だ。ところが世界でも同じく休耕地が増えているのだ。今ある農地は約15億ヘクタールだが、そのうち休耕地が3億ヘクタールに達しているらしい。日本の休耕地は約40万ヘクタールだから、その750倍の農地が耕作されずに打ち捨てられている計算になる。

    休耕地は先進国だけでなく途上国にも広がっている。農地を捨てて都会に移り住む人々が増えている。あるいは農業より儲かる仕事に転身するという状況が引き起こしているらしい。しかし、飢えているのなら、そんなことはしないだろう。どうも耕作放棄の理屈に合わない。むしろ農産物が余っているからという説があった。だから耕作の不利な農地は捨てられるのである。

    なお、穀物生産量は現在約22億トン。ところが、食用は半分にすぎない。つまり残りは飼料用だ。本当に食料危機なら、これらを人間に回せば済む。それどころか耕地の6割で穀物を生産すれば、60億トンは可能とされている。すると人間も家畜も飢えることはない計算になる。

    結局、現在の農地の奪い合いは、「条件のよい農地」を奪い合っているだけにすぎないのかもしれない。

    食料を投資商品と考えると、コストと引き合う農地を求めることになる。食べるものを得る場として考えると、儲からなくても自分の農地は耕す。そこで幾ばくかの食料を生産すれば飢えることはない。

    結局、飢餓は食料不足が引き起こすのではなく、必要な人々の手元に届かない流通の問題だということになる。もちろん食料を輸入できない経済的な理由もあるだろうが、同時に政治的な貿易障害や、いびつな流通で出るロスなども大きいだろう。

    それは木材においても同じことがいえる。世界中で森林が減少していると報告されている。その大半は木材を得るために伐採するためと、森林のある土地を別の用途に転換するためだ。

    しかし、先進国では森林面積は拡大気味であることに気づいているだろうか。日本はそのモデルの一つであり、近年は中国が森林面積を猛烈に増やしている。またヨーロッパや韓国、台湾も増加傾向だ。経済発展すると、森林保全の意識が高まるとともに森林造成の意欲が進むのである。これを森林資源のU字型仮説といい、必ずしも森林は減り続けるわけではないらしい。

    木材も、なぜ足りなくなっているのかよく考えてみる必要がある。

    改めて振り返ると、森林のある土地を得るために伐採して打ち捨てられる木材がどれほどあることか。さらに有効に利用されずに捨てられたり無駄な使い方される量も莫大にある。素材として大事に加工して使い、それが古くなったら別のものにリサイクルし、最後に熱エネルギーとして役立てる……というカスケード利用にならず、いきなり燃やして効率の悪い発電に使うケースも増えている。

    そして人口も、必ずしも増え続けるというわけではないらしい。

    一昨年公表された国連の2100年までの世界全体の人口推計によると、爆発的に増えてきた地球上の人口は、今世紀中にほぼ横ばいになる可能性を記している。それどころか条件によっては2040年ごろから減少に転じるかもしれないというのだ。実際、21世紀中に人口のピークを迎え、その後は下降すると考える学者は多い。

    その理由は、乳児死亡率が下がると出生率も下がるからだそうだ。発展途上国でも、経済が好転することで少しずつ少子化は進展していたのである。そして高齢化も起きる。

    もちろん、人口や農地、森林面積などの推移は「可能性」であり、仮説が完全に正しいと言い切れるものではない。

    また食料危機や森林減少は経済問題だから放っておいても大丈夫だというのでもない。飢餓は今も起きている。木材調達のために森林伐採は続いている。しかし、それらの原因を厳密に捉えて、対処法を考えねばなるまい。

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