今日、トモが死んだ。
トモ、というのは、二重の意味を含んでいる。文字通り、友達の友であり、知とも子このトモでもあるから。
そして、今日、というのは嘘で、昨日でもなくて、トモが死んだのは一ヶ月前だ。
でも、そんなふうに心の中で思ってしまう程度に、一橋桐子は文学少女であった。
トモとは高校からの付き合いだったが、その人生はなかなかにきついものだった。
夫は暴力亭主ということはないけれど口うるさい男で、彼女は苦労していた。
一度、新宿のデパートで、彼女が大きな荷物を持たされて夫の後ろを歩いているのを見たことがある。トモの歩みが遅れると、「お前!何しているんだ!」と人目もはばからず怒鳴っていた。挨拶はしないで、そっと離れた。
一橋桐子(76)の犯罪日記
by 原田ひ香
「刑務所に入りたい! 」
高齢者の切なる願いは、
人に迷惑をかけずに生きることだった。
<著者からのコメント>
テレビや雑誌で、
凄惨な事件や驚愕の出来事などを
見るのが苦手です。
しばらく、そのことばかり考えて
何も手につかなくなったり、
眠れなくなったりします。
そんな時は事件の当事者の、
いったいどこに分岐点があったのか、
どこでどうすれば事件に巻き込まれなかったのか
答えが出るまで考えてしまいます。
残念ながら、
答えが見つからないこともしばしばです。
桐子さんは小さな幸せから放り出されました。
彼女が事件に巻き込まれないように
一緒に考えてはくださいませんでしょうか。
共に、はらはらしてくださったら幸いです。
<担当からのコメント>
私も桐子さんと同じ、
「人に迷惑をかけないで生きていきたい」と
思っていました。でもこの本を読んで、
「迷惑をかけて生きていてもいいのかもしれない」
と考えが変わりました。
人に迷惑をかけてこそ、生きている証なのだと!
人とのつながりが疎遠になっている今この時代
だからこそ、読んでもらいたい作品です!
<編集長からのコメント>
まだ41歳の私ですが、
76歳の桐子に激しく共感しました。
この老後は決して他人事じゃない――。
万引、偽札、闇金、詐欺、誘拐、殺人
どれが一番長く刑務所に入れるの?
老親の面倒を見てきてた桐子は、
気づけば結婚もせず、76歳になっていた。
両親をおくり、わずかな年金と清掃のパートで
細々と暮らしているが、貯金はない。
同居していた親友のトモは病気で
先に逝ってしまった。
唯一の家族であり親友だったのに……。
このままだと孤独死して人に迷惑をかけてしまう。
絶望を抱えながら過ごしていたある日、
テレビで驚きの映像が目に入る。
収容された高齢受刑者が、
刑務所で介護され
ている姿を。
これだ! 光明を見出した桐子は、
「長く刑務所に入っていられる犯罪」
を模索し始める。
第一章 万引
第二章 偽札
第三章 闇金
第四章 詐欺
第五章 誘拐
最終章 殺人