荒ぶる自然(高田宏)

日本列島は山岳列島である。火山列島でもある。それゆえに森林列島であり河川列島である。
複雑な大地が複雑な気候と共に、千変万化する風景をこの列島は生み出してきた。それが、日本列島の自然の豊かさだ。そして、その自然がぼくたちを生かし、ぼくたちの心を養ってきた。
豊かな自然は動く自然だ。動きが大きいとき、自然の力がぼくたちにとって恐ろしいものとなる。
だが、それなら動かない自然がいいかと聞かれたら、それは嫌だと思う。山がなく、森がなく、川がなく、ただ静かで平らな大地がひろがるだけのところには、ぼくは暮らしたくない。
日本列島の荒ぶる自然がこれまで多くの人の生命を奪ってきた。家々を壊し、田畑を荒らしてもきた。たくさんの悲しみを生んできた。それは辛いことだ。だが、その辛さがぼくたち日本列島に生きる者を鍛えてもきた。地震、噴火、台風、水害、雪崩、津波といった荒ぶる自然の歴史は、その自然に鍛えられてきた人間の歴史をも見せている。荒ぶる自然はしばしば美しい人間の母胎であった。

One thought on “荒ぶる自然(高田宏)

  1. shinichi Post author

    荒ぶる自然

    by 高田宏

    本は、「風化」に抗う。

    日本列島
    天変地異録

    地震、津波、噴火、
    台風、洪水、豪雪、冷害――。

    忘れられていく
    全国の被災地を歩き、
    言葉に刻んだ幻の紀行文。
    復刻。

    **

    浅間山天明大噴火(1783年)
    三陸沿岸大津波(1896年、1933年、2011年)
    桜島大正噴火(1914年)
    室戸台風(1934年、61年)
    福井地震(1948年)
    狩野川台風(1958年)
    伊勢湾台風(1959年)
    天竜川三六災害・梅雨前線豪雨(1961年)
    北陸三八豪雪、五六豪雪、五九豪雪、六一豪雪(1963年、1981年、1984年、1986年)
    有珠山噴火(1977年)
    伊豆大島噴火(1986年)
    下北ヤマセ冷害(1993年)

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