高齢化による消費総額の減少(デービッド・アトキンソン)

年齢が上昇すると、年収も上昇し、支出も増える傾向があります。そのため、仮に人口が増えなくても、単に国民の平均年齢が上がるだけで消費総額は増加します。
しかし、多くの国では50代に入ると支出が減少する傾向が見られるので、人口が変わらなくても、それ以降は消費総額が減少します。
これは多くの先進国で共通してみられる傾向で、ライフサイクルの影響だと分析されています。24歳以下は、年収以上に消費をしています。消費のピークは45~54歳になります。その後、55歳から64歳になると消費が減って、消費性向が71.5%まで低下します。
日本の年齢の中央値はすでに49.1歳に達しています。
ですので、仮に人口が減少していなくても、人口構成上、日本は消費総額が停滞しても何の不思議でもないステージにいるのです。

One thought on “高齢化による消費総額の減少(デービッド・アトキンソン)

  1. shinichi Post author

    日本を蝕む「20代の給料安すぎ問題」超残念な実態

    「初任給引き上げ政策」がなければ経済成長なし

    by デービッド・アトキンソン : 小西美術工藝社社長

    異常に安い、20代日本人の給料

    若い人の給料が安すぎることは、これからの日本経済の成長を決定的に阻害します。

    これまで繰り返し、世界的に見て日本人の収入がいかに少ないか、データを用いて紹介してきました。今回も驚くべきデータを1つ紹介しましょう。

    イギリスでは2023年の大卒初任給の平均は2万5856ポンドで、中央値は3万ポンドです(graduate-jobs.comのデータによる)。購買力を考慮して計算すると、日本円で年収478万円に相当します。

    一方、日本の大卒の初任給は月に22.6万円で、年収に換算すると270万円です。つまり、イギリスの初任給は日本人の新卒の約1.8倍です。

    アメリカのNational Association of Colleges and Employersによると、2023年の大卒者の初任給は平均5万5260ドルです。購買力調整をすると日本円で539万円に相当します。

    これはイギリスの初任給の約1.13倍、日本の初任給の約2倍です。

    日本人の男性の平均年収はアメリカ人の92%にも上っているのに、日本人の若い人はアメリカ人の7割しか給料をもらっていません。

    このように日本の若者の給与は、他の先進国に比べて極端に低い水準に抑え込まれています。なぜそのようなことになってしまっているのか。その主な理由は、最も高所得の世代と若者層との給与の差が他国よりも大きいことにあります。

    この年齢別の年収格差、つまり若者層にお金が十分に分配されていないことが、日本の経済停滞の一因となっています。

    最低賃金が1000円を超えただけで安堵してはいけない

    政府は賃上げにそれなりに熱心に取り組んでいます。今年度の最低賃金は事前報道をわずかに上回る、平均1004円への引き上げで決着しました。前年度からの引き上げ幅は4.5%で、1979年以降で7番目に大きく、1992年以来の高水準です。

    日本では、最低賃金が都道府県ごとに決められるので、当然ながら大都市部と地方では差が生じます。

    最も高かったのは東京都の1113円で、神奈川県1112円、大阪府1064円と続いています。1000円を超えている都府県は3つから8つに増えて、800円台の県は28県から12県に減りました。

    最も低かったのは岩手県の893円ですが、佐賀県は最高の5.5%も引き上げています。実は平均より高い引き上げ幅だった県は28県にものぼります。

    この結果、最高と最低の差は220円になり、前年の219円から1円広がりましたが、最高額に対する最低額の比率は80.2%となり、前年の79.6%より改善しました。今後は間違いなく地方と東京などの大都市圏との、地域間格差の縮小は進みます。

    このことは喜ばしいことではありますが、日本にはまだまだ手つかずになっている賃金に関する問題が山積しています。

    特に早急に取り組まなくてはいけないのが、若者の低賃金問題です。

    政府として、直接的に賃金に影響を与えられる唯一の武器は最低賃金です。しかし、最低賃金で働いている労働者はそもそも、主に学生と女性と高齢者です。今では、若い人の賃金を引き上げる役割を果たしていません。

    以前から言われているとおり、日本では大卒男性の初任給の伸び率が長年にわたって低迷していて、最低賃金との差が年々縮小してきました。

    かつては大卒男性の初任給は最低賃金の約2倍だったのですが、2023年には1.46倍にまで低下してしまっています。企業がいかに初任給を上げてこなかったかがわかります。

    情けないというか、だらしないというか……実に深刻な問題です。

    年齢別年収格差は日本人の若者を苦しめる

    アメリカのデータを見てみましょう。アメリカの20~24歳の平均年収は3万7024ドルです。一方、45~54歳の層の平均年収が最も高く、その額は6万4416ドルです。若者層との差は倍率で言うと1.73倍です。

    ところが、日本のデータを見ると、最も高い55~59歳の平均年収は529万円ですが、20~24歳の年収は269万円でしかありません(2021年)。アメリカの1.73倍に比べて、1.97倍です。

    つまり、若者層は50代後半の人たちの半分の給料しかもらえていないのです。

    アメリカでは大学を卒業したばかりの若い層も比較的潤沢な報酬をもらうのですが、収入の上昇カーブは比較的緩やかなのに対し、日本では若者層の報酬は低く抑えられ、ある程度の年齢に至ってから、急激な上昇カーブを描く傾向が見られるのです。若い人はその悪影響を受けています。

    このような報酬の上がり方の違いによって、若い人たちが苦境に立たされているのが日本で見られる残念な実態です。

    男性に限定してみると、日本の45~54歳の層はアメリカの同年齢層の男性の91.8%の年収を受け取っています。過去の記事で何度も紹介しているように、日本人の生産性はアメリカ人より大幅に低いので、日本の45~54歳の層がアメリカの同年齢層の91.8%もの年収をもらっているのは、明らかに「もらいすぎ」です。

    一方、日本の20~24歳の男性は、アメリカの同年齢層の男性の72.4%の年収しかもらっていません。25~34歳の男性も79.6%しかもらえていません。

    今のデータを別の角度から見ると、アメリカの45~54歳の男性の年収は、20~24歳の男性の1.8倍ですが、日本では2.3倍もの差があることが見えてきます。

    高齢化によって、消費総額は減少する

    この類の話をすると、「アメリカと日本では文化が違うから、年代別によって年収に差が生じるのだ」などなど、感覚的に拒絶する人が現れると思いますが、ひとまず何が正しいのか客観的に考えてみましょう。

    そもそもアメリカの年代による収入の差は、昔から変わっていないわけではなく、長い歴史の中で徐々に変化して今に至ってきたものなので、文化の違いだけで日本との違いの原因を説明することはできません。

    実際、アメリカでは若者層と45~54歳の年収差は年々縮まってきています。

    このような変化が生まれた一因はDX(デジタルトランスフォーメーション)の進展にあると言われています。DXは言うまでもなく、ここ20~30年の間に生み出された新しい技術がベースとなっています。

    若い世代のほうが、新しく生み出された最新技術に詳しく、活用するのに有利なのは自明です。なのでDXのように新しい技術の習得がビジネス上でも不可欠になればなるほど、年配者たちの経験や勘の価値が低下するとされています。

    日本の場合、DXの進展以外にも、これまでの年収制度を見直すべき大きな理由が2つあります。それが高齢化と消費総額です。

    国の消費総額は以下の式で計算されます。

    消費総額=(所得-税金+手当(補助金)-貯金)×人口

    したがって、人口が減少するのであれば、消費総額を維持するには所得を増やす必要があります。所得を増やすには賃金が上がらなくてはいけません。そして、賃金を引き上げるためには、生産性の向上とそれを可能にする設備投資が不可欠です。

    所得総額の維持策を検討するにあたって、もう1つ見逃されがちな重要なポイントがあります。高齢化です。

    年齢が上昇すると、年収も上昇し、支出も増える傾向があります。そのため、仮に人口が増えなくても、単に国民の平均年齢が上がるだけで消費総額は増加します。

    しかし、多くの国では50代に入ると支出が減少する傾向が見られるので、人口が変わらなくても、それ以降は消費総額が減少します。

    これは多くの先進国で共通してみられる傾向で、ライフサイクルの影響だと分析されています。アメリカも他の先進国と同様に、このサイクルが確認できます。24歳以下は、年収以上に消費をしています。消費のピークは45~54歳になります。その後、55歳から64歳になると消費が減って、消費性向が71.5%まで低下します。

    国連のデータによると、日本の年齢の中央値はすでに49.1歳に達しています。

    ですので、仮に人口が減少していなくても、人口構成上、日本は消費総額が停滞しても何の不思議でもないステージにいるのです。

    そのうえ、あらためて言うまでもなく、日本ではすでに人口減少が始まってしまっているので、二重苦にさいなまれているのです。

    この状況を少しでも緩和するには、消費性向が高い若者層にお金を回すのが、誰にでもわかる論理的な解決策です。

    最低賃金と公務員の初任給を引き上げよ

    しかし、本稿で紹介したとおり、日本では若い層にお金が適切に分配されているとは言いがたい状況にあります。

    日本の若い人のスキルがアメリカ人やイギリス人より劣ることはないので、岸田総理にはぜひ、特に若い世代を中心にした賃上げ政策に力を注いで、全力で推進していただきたいと思います。

    最低賃金は主に高齢者と女性の賃金の引き上げに貢献してきましたが、初任給の引き上げにつながっていません。しかし、最低賃金が平均1004円にまで上がっていますので、これからは若い人の賃上げにつながる水準に近付いています。

    これはチャンスです。これからはさらに最低賃金を引き上げ続けて、初任給の引き上げに影響を与えるようにするべきです。

    政府は賃上げに直接的に影響を与える武器は最低賃金しかないですが、間接的な武器はあります。

    それが、公務員の初任給の引き上げです。これによって、民間に影響を与えることができます。自衛隊、警察、学校の先生、介護職などの初任給を引き上げて、民間の賃金に圧力をかけるのです。

    全労働者の給料を均等に上げる必要性はありません。初任給を中心に賃上げをするべきです。

    Reply

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *