パスポート発給を拒否する「国が被告」の不思議な裁判(西村カリン)

原告がフリージャーナリストの安田純平さん、被告が国の裁判だ。パスポートの発給を拒否している国に対し、安田さんが訴訟を起こしている。
安田さんは2015年6月~18年10月の3年4カ月、シリア反政府勢力と思われるグループに拘束されていた(写真は18年の帰国後の記者会見での様子)。拘束中にパスポートを奪われたため、19年1月に再発行を申請したが、外務省から発給を断られたのだ。
残念なことに、日本では報道が目的であっても戦場に行くことは批判されるし、行く記者は「無責任」な人物というイメージができてしまった。
日本の政府も記者に対し、戦争中の国には「行かないで」と言う。マスコミも、報道の自由の観点からそうした状況は良くないとあまり指摘することなく、政府に従っている。
罪のない人のパスポートを発給しないことは、ちゃんとした説明がなければ誰も納得できない。国は4年以上もその説明責任を果たしていない。

2 thoughts on “パスポート発給を拒否する「国が被告」の不思議な裁判(西村カリン)

  1. shinichi Post author

    申請理由は「旅行」に限る?…パスポート発給を拒否する「国が被告」の不思議な裁判の行方

    by 西村カリン(ジャーナリスト)
    Newsweek 日本版

    https://www.newsweekjapan.jp/tokyoeye/2023/07/post-162.php

    <報道目的であっても戦場に行くことが批判され、行くと「無責任」というイメージに…。パスポートを発給しない国の説明と根拠は?>

    私は月に数回、裁判所で取材をしている。最近も驚いた裁判がいくつかあったが、今回はその中の1つについて書きたいと思う。

    6月20日に行われた、原告がフリージャーナリストの安田純平さん、被告が国の裁判だ。パスポートの発給を拒否している国に対し、安田さんが訴訟を起こしている。

    安田さんは2015年6月~18年10月の3年4カ月、シリア反政府勢力と思われるグループに拘束されていた(写真は18年の帰国後の記者会見での様子)。拘束中にパスポートを奪われたため、19年1月に再発行を申請したが、外務省から発給を断られたのだ。

    国との闘いは3年以上続いているが、6月20日はクライマックスだった。なぜかというとその日は安田さんが1時間にわたって自分の弁護団、国の弁護士と裁判官の質問に答える当事者尋問が行われた。

    異例なことに、本人が12年にシリアで撮影した映像が法廷のプロジェクターで投影された。それは裁判官に「この人は本物のジャーナリストだ」と証明するものだった。

    安田さんはジャーナリストではないといったデマがずっとインターネットに投稿されているから、裁判官に向けて、そんな話は根拠がないと証明したのはよかったと思う。また、記者が戦場に行くことの重要性についても安田さんはしっかり説明した。

    記者の本当の仕事とは何なのか、どんな役割を果たすべきなのか、戦場に行くときに何を注意すべきなのか。戦場に行く方法、どんな人に会うのか、危険性を避ける方法などを全て、彼は法廷で話した。

    裁判官もそうした点は分かっているはずだろうと思ったが、残念なことに、日本では報道が目的であっても戦場に行くことは批判されるし、行く記者は「無責任」な人物というイメージができてしまった。

    日本の政府も記者に対し、戦争中の国には「行かないで」と言う。マスコミも、報道の自由の観点からそうした状況は良くないとあまり指摘することなく、政府に従っている。

    結果、戦場についての報道は海外マスコミやフリージャーナリストの取材に依存するようになった。

    裁判での安田さんの説明はとても良かったが、フランス人記者である私からするとこの場面は「おかしい」とも感じた。

    なぜなら、ジャーナリストが戦争や紛争のある国に行くのは当たり前だと思うから。他国のマスコミの取材に依存すれば情報源を確認することは難しいし、独立した取材ができない。

    もちろん人質になるリスクや殺されるリスクがあることは否定できないけれど、フランスの場合は戦場に行く記者を批判するよりも応援する。

    安田さんはその一例として、「海外の場合、拘束された記者が帰国する際には大統領が出迎えに行く」と語った。それは事実だ。

    今回の裁判で最もびっくりしたのは、国の弁護士の態度だった。安田さんへの質問はただ一つ。旅券を申請した目的は旅行だけだったのか。質問の意図は明らかだった。

    安田さんは旅行目的で旅券を申請したが、実はまた取材に行くつもりだった、と国の弁護士は言いたかったのではないか。

    でも、その質問も意図も無意味だと私は思う。パスポートを申請する際、今後10年間でどんな目的でどこへ行くかを書く必要はない。次の渡航の目的を説明するだけで済む。

    国の弁護士がほかの質問をしなかったことは何らかの戦略があるのかもしれないけれど、あまりにも理解しづらい。

    罪のない人のパスポートを発給しないことは、ちゃんとした説明がなければ誰も納得できない。国は4年以上もその説明責任を果たしていない。

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  2. shinichi Post author

    安田純平さん帰国5年、続く出国禁止 危険地取材を阻む自己責任論

    by 石川智也
    朝日新聞

    https://www.asahi.com/articles/ASR8H6VDYR84UPQJ00W.html

     5年前の秋、シリアでの40カ月に及ぶ拘束から解放されたジャーナリスト安田純平さん(49)が、成田空港に降り立った。紛争地取材が生業であるはずの彼は、以来、日本を一歩も出ていない。いや、出ることを許されていない。そのこと自体が、この国の報道を取り巻く環境と、社会の現在地を表しているようだ。当人の目には今、どんな風景が映っているのか。

    国がパスポートの発給を拒否

     今年6月20日、東京地裁703号法廷の証言台に、その姿はあった。

     「40代後半という重要な時期に、5年もの間、職業を全うできない状況にある」「精神的に引退に追い込まれている。そのことの重さを理解していただきたい」

     シリア内戦取材のため2015年6月、トルコ国境から入国した直後に武装勢力に捕らえられ、3年4カ月に及ぶ独房生活を送った。18年10月に解放され帰国。約2カ月後、旅券(パスポート)発給を申請するが、拒否される。20年1月、処分取り消しなどを求め、国を提訴した。この日は初めての本人尋問だった。

     国は、発給拒否の理由を、帰国時にトルコ政府から入国禁止措置を受けたためとしている。旅券法13条は、渡航先の法規で入国を認められない者には旅券発給をしないことができると定める。

     「入国禁止措置が仮に事実だとして、それ以外の全ての国への渡航の道を閉ざす、出国そのものを実質上禁じるというのは、行政の裁量権のあまりの乱用です」

     安田さん側は、発給拒否は憲法が保障する移動の自由を侵すものだと主張。また、当該条文は、特定の国への1回限定で旅券を発行していた時代の名残で、何度でも海外渡航できる現行旅券となった現在、条文そのものが違憲であると訴えている。

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