グマの大量出没の原因(WWF)

クマ、特にツキノワグマの大量出没の原因は、秋の食糧不足のみならず、日本の中山間地域が抱える過疎化、高齢化、そして離農・廃村などの社会・経済問題と密接に関わっていると考えられています。
クマは太古の昔から、食糧不足になるとごく自然な行動として、利用できる食物を探してその行動範囲を広げてきました。ところが、人間は近代から現代の歴史の中で、社会・経済な事情によって、クマの自然な行動を阻害したり、逆に助長したりしてきました。
幸いなことに、日本は狭い国土に多くの人間が住んでいるのにもかかわらず、クマとその生息環境である森林がまだ多く残っています。これだけ人口密度の高い地域で、これだけの数のクマがいることは、世界的にみても珍しいことだそうです。
2000年代になり、クマの大量出没が頻繁に起こっています。木々の実りの豊凶サイクルという自然の摂理を尊重しながらも、人間がクマに与えている影響をよく考えてみる必要があるでしょう。

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  1. shinichi Post author

    クマの大量出没

    WWF

    https://www.wwf.or.jp/activities/basicinfo/2399.html

    毎年ある程度の頻度でクマは人里へ出没しますが、著しく出没の多い年があります。特に近年は顕著で、2004・2006年・2010年に起こっています。この大量出没の結果、クマによる農業被害や人身被害が多発し、その防止のため多くのクマが捕獲されました。

    人里に現れるクマ

    例年、生息地である奥山に食物が少なくなる夏になると、一部のクマは山を下りて人里などに出没します。出没は通常、奥山に色々な果実が実りだす秋になると収まります。
    一方、秋になっても人里への出没が収まらず、平常の年の数倍のクマが出没することがあります。これが大量出没といわれ、社会的な問題となっています。

    大量出没はヒグマにおいても見られますが、特にツキノワグマで顕著に見られます。ツキノワグマの大量出没は地域ごとに同調して起こることが多く、2004年には北陸・近畿・中国地方で、2006年と2010年には東北・中部地域の日本海側、そして北関東・近畿・中国地方で起こりました。

    大量出没の原因

    大量出没の原因は、いくつか考えられています。また、複数の要素が重なって、大量出没が起きるケースもあると考えられています。

    食糧不足

    ツキノワグマの大量出没に、大きな影響を与えると考えられるのが、秋の食糧不足です。
    クマは冬眠の準備をするために、秋になるとブナ類やナラ類などの実をたくさん食べますが、それらの木々がどのくらい実をつけるかは年によってさまざまです。これがいわゆる「豊作と凶作(豊凶)」です。

    農林水産省所管の研究所である森林総合研究所では、東北地方において、ブナの豊凶とツキノワグマの出件数には関係性があると報告しています。つまり、東北地方でブナの実のりが悪い秋には、ツキノワグマの大量出没が起こるというわけです。

    ブナの豊凶は、ある程度予測することができます。同研究所では、毎年のブナの実のり具合(結実度表示)をウェブサイトで公開しています。

    ブナとともにその豊凶が、クマの大量出没に大きな影響を与えると考えられているのがミズナラです。ミズナラはヒグマとツキノワグマの生息地に広く分布する樹木ですが、ブナとは異なり、あらかじめ秋の実り具合を予測するのが難しいといわれています。ミズナラの豊凶については、地方自治体やその研究機関などが夏の終わり頃から提供をはじめる情報をこまめに収集する必要があります。

    中山間地域の変化-自然環境

    中山間地域とは、山間地とその周辺の地域のことで、クマをはじめとする野生生物の生息地と人里の中間に位置しています。この中山間地域の自然・社会環境の変化が、クマの大量出没に影響を及ぼしていると考えられています。

    中山間地域に多く見られる里地里山ですが、かつてそこは人々が薪を採ったり、炭焼き用の木材を生産するための森林=薪炭林(しんたんりん)として活用していました。ところが、薪炭から石油やガスへの燃料革命が起こると、薪炭林はほとんど利用されず放置されるようになりました。

    環境省によると、薪炭林の面積は日本の森林の約1/3にもなるということです。日本の国土面積の約2/3が森林ですから、単純計算で日本の国土の2割強が「放置された薪炭林」となっているわけです。

    薪炭林には、炭焼きの材料に適しているコナラやクヌギなどが利用されてきました。これらの樹木は、伐採した後に切り株や根から新しい芽が伸びてきて(これを「萌芽(ぼうが)」という)、やがてその芽が大きく成長する性質があります。このような樹木の性質を利用して森林を再生する手法を萌芽更新といい、薪炭林では萌芽更新によって管理されてきました。

    コナラやクヌギの実であるドングリはクマの食物となります。かつて薪炭林が定期的な伐採によって管理されていたとき、伐採された木々は再生のための生長にエネルギーを使ってしまい、その結果ドングリの成る量は抑えられていました。

    しかし、薪炭林が人の手で管理されなくなったことにより、秋になると多くのドングリを実らせるようになりました。人の手が入らなくなった薪炭林が、ツキノワグマのよい生息地になりつつあると考えられます。つまり、クマの生息地と人間の生活域が近づいているのです。 

    中山間地域の変化-社会環境

    中山間地が抱える問題として、過疎化と高齢化があげられます。人口が減り、高齢者の割合が増えるなると、地域の活力が奪われがちになり、その結果人間の活動が不活発になってきます。

    中山間地域は、野生生物の生息地と人里の接点に位置します。その地域で、人間の活動が不活発になると、今まで人間の活動によってクマが警戒して近寄らなかった場所でも、クマが近寄りやすくなるのです。

    その代表的な例が、放置された薪炭林や耕作放棄地です。
    日本の農業は高齢化や後継者不足などの問題を抱え、人の手が入らなくなった田畑、いわゆる「耕作放棄地」が増えています。農林水産省によると、中山間地域は全国平均より高い割合で耕作放棄地が増えています。さらに山間農業地域では、過疎化による人口の減少が著しく、集落そのものが消滅しています。

    山間地の農家や集落周辺には、カキやクリなどクマが好む果樹が植えられていることがよくあります。離農や廃村により、これらの果樹も収穫されないことになり、やがてクマが食べるようになります。一度果樹を利用することを覚えたクマは、放置された里山や耕作放棄地を通って現在人が住んでいる集落まで近づき、そこの果樹に被害を与えるようになると考えられています。

    大量出没の問題

    2000年代になり、ツキノワグマの大量出没が頻繁に起こっています。大量出没が起こると、当然のことながらクマによる被害も大きくなります。農林業への被害、そして人身被害が平常年の数倍にも跳ね上がるのです。

    その結果、人間に被害を与える、あるいは与える可能性の高いクマは、捕獲されることになります。大量出没のときに、一番多くなる捕獲区分は有害捕獲です。
    (有害捕獲については、「クマの保護管理」の「毎年、狩猟・捕獲されているクマ」の項目を参照。)

    有害捕獲は、クマの被害を受けている個人、法人(国・地方公共団体、農協、森林組合など)が申請し、都道府県知事の許可(捕獲許可権限の一部は市町村長に委任されている場合もある)を受けて、捕獲が認められるものです。

    有害捕獲はクマの被害を防ぐための捕獲となるので、緊急性を求められ確実に捕獲することが求められます。特に、市街地などに出没し人身事故をおこす危険性の高い場合には、住民の安全や感情を第一に考え、迅速に対処する必要性があります。

    複合する大量出没の原因

    クマ、特にツキノワグマの大量出没の原因は、秋の食糧不足のみならず、日本の中山間地域が抱える過疎化、高齢化、そして離農・廃村などの社会・経済問題と密接に関わっていると考えられています。

    クマは太古の昔から、食糧不足になるとごく自然な行動として、利用できる食物を探してその行動範囲を広げてきました。ところが、人間は近代から現代の歴史の中で、社会・経済な事情によって、クマの自然な行動を阻害したり、逆に助長したりしてきました。

    幸いなことに、日本は狭い国土に多くの人間が住んでいるのにもかかわらず、クマとその生息環境である森林がまだ多く残っています。これだけ人口密度の高い地域で、これだけの数のクマがいることは、世界的にみても珍しいことだそうです。

    2000年代になり、クマの大量出没が頻繁に起こっています。木々の実りの豊凶サイクルという自然の摂理を尊重しながらも、人間がクマに与えている影響をよく考えてみる必要があるでしょう。

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  2. shinichi Post author

    過去5年で最多、「クマ出没」が増えた意外な真相 「エサが凶作」だけが原因でない

    取材:当銘寿夫

    東洋経済オンライン

    https://toyokeizai.net/articles/-/389286

    人間の生活圏へのクマの出没が後を絶たない。市街地で、大きな道路で、駅近くで、そしてショッピングセンターで……。環境省によると、2020年4~9月の出没は全国で1万3670件に上り、過去5年で最多となっている。

    10月に入ってからは、新潟県と秋田県でクマ被害による死者も出た。頻繁に出没する原因については、「エサとなるブナやナラの実が凶作だから」とよく指摘される。

    「豊作4、並作2、凶作17」。クマが生息する都道府県が環境省に報告した、2020年度のブナの結実状況だ。報告した都道府県の7割超で、ブナは凶作となっている。コナラは6割の都道府県で、ミズナラは3割超の都道府県で凶作だ。

    被害は東日本に集中

    約20年間、クマの生態を研究し、『動物たちの反乱』(PHPサイエンス・ワールド新書)の執筆に携わった兵庫県立大学自然・環境科学研究所の横山真弓教授は、山の実とクマの出没の関係をこう解説する。

    「豊凶の波は必ずあって、直接的な要因として『山に食べ物がない』というのは確かにあります。クマは常にエサを探しながら行動し、県境を超えたり、市町村を4つも5つも越えたりして移動している。その途中で標高の低い人里に柿がなっていると、喜んで出てきてしまう。

    なお6、7月の出没はエサの状況とは別。繁殖行動が活発になって、繁殖活動の闘争に伴って追い散らされる若い個体がいて、人間の生活圏に出てくることがあります」

    ただし、データをつぶさに見ると、全国まんべんなく出没しているわけではないことがわかる。環境省が取りまとめた4~9月の速報値80件の人身事故のうち、関西以西で発生したのはわずか5件だ。

    これをどう読み解けばいいのか。横山教授は次のように解説する。

    「西日本の多くの府県は、2000年代に絶滅のおそれがあったクマの特定鳥獣保護管理計画を作りました。兵庫県の場合、イノシシ用の罠に間違ってかかったクマを殺さず、唐辛子スプレーなどをかけて人間や人里を嫌いにさせて放獣する『学習放獣』を導入し、できるだけ殺処分数を減らす取り組みを実施してきました。その中で『このクマは何歳なのか』『栄養状態はどうなのか』『繁殖状況はどうなのか』といったデータを取ることができました」

    「クマを保護・管理すべき対象として扱っていた西日本と違い、東日本ではクマの数がそれなりにたくさんいると言われてきたので、狩猟獣として扱われていました。たくさんいるから、たくさん獲る。

    西日本と比べると、特別に施策を打つということがなかったので、増えているのか、増えていないのか精度の高いデータがない。データがないのでよくわからないまま、有害捕獲数だけが増えていきました」

    全国のクマの捕獲数は2008〜2010年度の3カ年平均が2409件、2017〜2019年度の同平均が4607年と、10年で約2倍に増えた。特に増えているのが秋田県で、2008年度の46件に対し2019年度は10倍以上の533件に達している。

    急増するクマの推定生息数

    西日本と東日本の差について、横山教授は続ける

    「秋田県は2016年度までクマの生息数に関し、1000頭前後の個体数であると推定していました。ところが2020年度の推定生息数は4400頭。わずかな間で急増しています。クマが増加したと捉えるより、生息数を長い間、過小評価してきたのではないかと捉えるべきだと思います。

    これまで『人里に出てくるから獲る』という対応をずっとやってきたのですが、その対応では、クマの増加力に負けているのではないか。私はそう考えています」

    「兵庫県の場合、学習放獣する前に取るデータや有害捕獲した際の解剖調査データの蓄積で、従来考えられていたよりもクマは繁殖力を持っているということがわかり、個体数が増加傾向にあることもつかめました。推定生息数800頭を超えたと判断し、2012年度からは学習放獣をやめて、人里に出てきたクマは捕殺するようにしています。2016年度には狩猟も一部解禁されました。

    今年10月には、石川県のショッピングセンターにクマ1頭が搬入口から侵入する事態が起きた。人間の生活圏の中心部分に、野生動物が徐々に近づいているように映る。

    「個体数が増え、分布が拡大してくると、『パイオニア(開拓者)』と呼ばれる、どんどん新天地を探し求めるタイプの個体が出てくるんです。普段は行かないような開けた土地に突発的に出て、クマもパニックになる。

    クマは視力が非常に悪く、白黒にしか見えていないので、建物の入り口が暗く見えることがある。森の中の暗がりだと思いこんで、人家や納屋、倉庫に入ることはよくあるし、ショッピングセンターに入り込んだのもそういう理由だったからかもしれません」

    日本人と野生動物の攻防の歴史は、最近に始まったことではない。江戸時代にはイノシシによる農作物の被害がひどく、人々は田畑のそばに建てた小屋の中で鉄砲を持って寝ずの番をしていた。

    青森県八戸市では、1700年代に冷害とイノシシによる獣害が重なって起きた「イノシシケガジ(ケガジは飢饉の意)」という言葉が語り継がれている。長い年月をかけて田畑を守り抜き、人間の安全な生活圏を地道に拡大していく。それが日本の歴史でもあった。

    日本人と野生動物の関係を横山教授は次のように説明する。

    「野生動物は獣害を引き起こす一方で、貴重なタンパク源でした。毛皮もニーズが高かった。太平洋戦争直後ごろには一度、人間がほぼ獲り尽くしているんですね。そうした中で、戦後日本の経済活動はスタートしている。野生動物のことは考えなくてよかったわけです。

    1960年代以降は工業化が進み、都市に人が集まっていきました。つまり、人が山に入らなくても生活できるようになった。動物たちの生息地域を奪っていたけど、人間がそこを使わなくなった。だから山の状態は非常に良くなり、逆に野生動物の生息域が拡大する状況になったわけです」

    日本各地の里山では少子高齢化、過疎化が急速に進んでいる。住民が食べていた柿の木は実がついたまま放置され、畑を守る若い人材は急速に減っている。かつては、クマが人里に出るとその多くが殺されていたが、今では人間のほうが逃げていく。

    横山教授によると、クマが「人間は怖い生き物ではない」と学習している可能性があるという。「人間と農地を奪う動物たちとの緊張関係を作り上げていかないと共存はできません。野生動物の個体数を低密度に抑えておかないと、なすすべがなくなるんです」と話す。

    新しいポストや職業を創設すべき

    ではどう対策すればよいのか。

    「ハード面では、防護柵やクマ対策の電気柵で集落や田畑を囲う。設置に対しては公的な補助がありますが、維持・管理には補助制度がないところがほとんどです。設置から5年もすれば維持・管理しないと柵は傷んでいき、イノシシたちはその部分から突破してきます。

    したがって、維持・管理についても公的に補助する必要。野生動物が出ることを前提にした地域運営の仕組みを作り上げていかないと農山村や農産物はもう守れません」(横山教授)

    「ソフト面では、都道府県単位で動物のことをしっかり学んで対策を取ったり、地域の人たちに対策方法を教えたりできる『野生動物管理普及員』のようなポストを創設し、その下の市町村には地域住民と一緒に被害対策に組んでいく『鳥獣対策員』の職を創設する。そういう新たな職業人がいないと、動物に負け続けるでしょう」(同)

    もし、現場でクマやイノシシに負け続けたら、日本社会、とりわけ都市圏はどんな状況に陥っていくのだろうか。横山教授は言う。

    「人間が野生動物を押し返すパワーをつけないと、最終的には都市も守れなくなります。短期的には、クマが出没した地域を調査し、侵入経路になったと思われる藪や河川敷の雑草を刈り、動物が隠れる場所をなくす。

    中長期的には個体数や分布域の調査を進めて『どこの地域に出やすいのか』『近隣の個体数の推移はどうなっているのか』というデータに基づき、出没頻度の多い地域の住民に柿や栗などクマを誘引する物を取り除いてもらうなどの策が必要。『動物の数を調べるのにそんなに予算は出せない』という自治体は多いですが、いまが正念場です」

    人間への直接的な被害だけではない。野生動物による農作物の被害は2018年度で158億円に上る。農林水産省は「鳥獣被害は営農意欲の減退、耕作放棄・離農の増加(中略)ももたらしており、被害額として数字に表れる以上に農山漁村に深刻な影響を及ぼしている」(野生鳥獣のジビエ利用を巡る最近の状況)と危機感を募らせる。

    「われわれの生活は都市だけでは成り立ちません。日本の人口を支えているのは、中山間地域で取れる農産物です。国内の農産物生産を維持していくために野生動物たちの被害から農家も農産物も守る体系を日本全体で作っていく。そのギリギリのタイミングだと思っています」(横山教授)

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