野田哲夫

IBM はもともとパンチカード式計算機械の販売においてレンタル/リース方式をとっていた。この方式では生産設備だけでなく生産物=商品自体が固定資本となり、結果的に必要固定資本額を巨大化させ、他の企業に対して高い参入障壁を形成することになる。IBM はコンピュータの販売方式においてもこのレンタル/リース方式を継続したが、コンピュータのハードウェアだけでなくOS を含むソフトウェア、さらにフィールドサポート、システムコンサルティング、ユーザ教育等コンピュータを利用するために必要なサービスを包括的にレンタル価格に含めていた。しかしながらソフトウェアを含めてそれぞれの価格が明確になっていたわけではない。包括レンタル価格方式によってソフトウェアまで含めた固定資本の参入障壁を高めることによってIBM の寡占化にますます拍車をかけたのである。
少数の、特に一つの企業による市場の寡占支配は競争を阻害し、技術の発達を遅らせることになる。アメリカ司法省は1969年にIBM による包括レンタル方式を反トラスト法(独占禁止法)違反であるとして公正取引委員会に提訴した。IBM はただちに和解(事実上の敗訴)し、一方的にアンバンドリング(価格分離)政策を発表する。これは、これまでのコンピュータ・システム全体のレンタル価格体系が、ユーザには内訳が不明だったのに対し、OS も含めて、それぞれ別立ての料金体系として分離したものであった。ここにソフトウェアはコンピュータ・ハードウェアに付随するものではなく、それ自身が価値=価格をもつ独自の商品として自立していくことになった。

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