鈴木貴博

1995年頃、私はある経済誌からの依頼でブラジルのトラックメーカーについての記事を書いたことがある。当時、その1本の記事を書くのには今とは比較できないほどの工程を必要とした。編集部と私とでの記事のアウトラインを確認する会議。わが社のリサーチ部門のスタッフによる日本語と有料オンラインデータベースのサーチ。電話取材では私の秘書と現地の秘書で連絡をとりあって時間を設定してもらった。初稿は英訳してもらい、現地の同僚にファックスで確認してもらって、ようやく記事が完成したものだ。
今年同じことをやろうとすると、グーグル検索とメールとスカイプでひとりですべての作業をこなすことができる。記事を書くのに1995年当時は1週間は必要だったが、今だと取材先とのタイミング次第では24時間で裏取りをした記事が書きあがるだろう。
しかし問題は、私以外のすべてのライターや執筆陣も同様にパワーアップしていることだ。経済や政治、医療や美容など専門分野の記事は、今ではキュレーションという呼び名で行われるネット記事の切り貼りで、専門家ではないライターが3000円程度の報酬でそれらしいものを書きあげることができる。そして私のような専門家の執筆料もそれにひっぱられる形で下落している。

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1 Response to 鈴木貴博

  1. shinichi says:

    AIが仕事を奪うのは“未来の話”ではない――「パワードスーツ症候群」とは

    https://www.dailyshincho.jp/article/2018/01020800/?all=1&page=1

    あなたの仕事を奪う「AI社会」3つの誤解――鈴木貴博(2)
     オックスフォード大学のオズボーン准教授の予測によれば、今から20年以内に日本人の携わる仕事の49%が人工知能とロボットに置き換わる可能性があるという。そんなAI社会について誤解されがちな、3つのポイントを経営戦略コンサルタントの鈴木貴博氏が解説。氏は、“消滅の危機にあるのはブルーカラーではなくホワイトカラーの仕事”であるという。
     ***
     さてホワイトカラーの仕事がなくなると言っても、それが本格的に問題になるのが20年後であれば「あまり真剣に悩む問題ではない」と考える人は少なくない。ここに2番目の誤解がある。
     仕事が消滅するまでの期間、スマホに搭載された人工知能アプリでわれわれの仕事はとても楽になる。そのことは実は現在進行形でわれわれの仕事を奪いつつある。
     そのことを説明するために私が提唱する「パワードスーツ症候群」という現象がある。AIにサポートされることですべてのビジネスパーソンの生産性が格段と高まる。
     仮にビジネスの現場で知らない言葉が飛び交っていたとしよう。たとえば「プライマリーバランス」がどうのとか「上場廃止基準」がどうだとか議論の中心となる言葉を今日初めて耳にしたとしても、数分間スマホ検索をすれば、あっという間にその議論についていけるようになる。
     スマホさえあれば、駆け出しのビジネスパーソンでもまるでパワードスーツを身に着けたスーパーヒーローのようなパフォーマンスを発揮できる時代なのだ。
     ところがその一方で仕事の目標設定も、人事考課も、どちらもパワーアップした状態を標準点として行われる。だから自分では圧倒的にパフォーマンスが上がったと感じていて、実際に過去の働きとはレベルの違う量の仕事をこなしていても、評価は上がらず年収も増えない。この状況のことを私はスマホ時代がもたらす「パワードスーツ症候群」と呼んでいる。

    グーグルとメールとスカイプ
     理解しやすい実例を挙げてみよう。1995年頃、私はある経済誌からの依頼でブラジルのトラックメーカーについての記事を書いたことがある。当時、その1本の記事を書くのには今とは比較できないほどの工程を必要とした。
     編集部と私とでの記事のアウトラインを確認する会議。わが社のリサーチ部門のスタッフによる日本語と有料オンラインデータベースのサーチ。電話取材では私の秘書と現地の秘書で連絡をとりあって時間を設定してもらった。初稿は英訳してもらい、現地の同僚にファックスで確認してもらって、ようやく記事が完成したものだ。
     今年同じことをやろうとすると、グーグル検索とメールとスカイプでひとりですべての作業をこなすことができる。記事を書くのに1995年当時は1週間は必要だったが、今だと取材先とのタイミング次第では24時間で裏取りをした記事が書きあがるだろう。
     しかし問題は、私以外のすべてのライターや執筆陣も同様にパワーアップしていることだ。
     経済や政治、医療や美容など専門分野の記事は、今ではキュレーションという呼び名で行われるネット記事の切り貼りで、専門家ではないライターが3000円程度の報酬でそれらしいものを書きあげることができる。そして私のような専門家の執筆料もそれにひっぱられる形で下落している。

    非正規雇用の増加
     これがパワードスーツ現象で、すべてのホワイトカラーの仕事の価値が下がってしまうのだ。
     このパワードスーツ現象が実社会にどのような影響を及ぼしているかというと、それが非正規雇用の増加である。
     人工知能とスマホの進化で、以前であれば熟練正社員でなければできなかった仕事を、比較的短時間しか訓練をしていないパートタイム従業員で置き換えることができるようになった。
     最近、こんな経験があった。私が滞在したアメリカのあるリゾートホテルで同世代のフロントのスタッフにとてもお世話になった。
     仲良くなった後で聞いたところ、実は彼女は2カ月前にこの業界に入ったばかりの新人だというのだ。私が滞在中にしたいろいろとこまごました質問や依頼に、彼女は手元の端末をたたくことでまるで熟練のホテルスタッフが対応するようにノンストレスでこたえてくれた。そのため私は彼女が新人スタッフであることに全く気付かなかった。
     仕事消滅が起きるのは20年後かもしれないが、実はそれよりも前のタイミングで、このパワードスーツ効果によって正社員の仕事がつぎつぎと消滅して、社会全体で非正規労働者の仕事ばかりが増えていく。そしてこのことの方が身近な社会問題になるだろう。

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