とりいさえこ

「古典基礎語辞典」によると「恋」とは、やまとことばにおいては、離れていて心を寄せている相手にひかれ、しきりに会いたいという切なる心持ちがつのることを表すといいます。特に時間的、空間的に離れている相手に身も心も強くひかれる気持ちを表し、時には比喩的に、対象が動植物や場所になることもあります。また、「恋ふ」というのは身も心も惹かれ逢いたい気持ちが募る、という意なのですが、この思いは相手に働きかける“主体的”なものではなく、相手によって惹きつけられる“受動的”なものであると、古の人たちは捉えていたそうです。なんとも奥ゆかしく、「恋」というやまとことば自体に恋してしまいそうです。

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1 Response to とりいさえこ

  1. shinichi says:

    恋と愛の違いとは

    とりいさえこ

    古日本 initier nippon
    イニシエ・ニッポン|日本の、古と今の「もの・こと」をつなぐ結び目

    http://www.initiernippon.asia/2014/06/Love.html

    日本には二つの「Love」があります。

    一つは「恋」、もう一つは「愛」。

    今日では「恋愛」という言葉が一般的ですが、古のやまとことばでは、二つは異なる意味で用いられていました。

    思春期になると「恋」とか「恋人」という言葉がにわかに男女の間で盛んになるものですが、私はその頃から「恋」の定義、あるいは映画やドラマに出てくる「愛する」というフレーズ、そして「恋愛」という言葉に、何となくしっくりこないものがあると感じていました。分かるようでわからない言葉。「広辞苑」などの辞書、「Yahoo知恵袋」や「NAVERまとめ」などを見ても、納得できるような答えは得られず仕舞い。それが、2011年秋に刊行された「古典基礎語辞典」をじっくりと読んで、ようやく意味が明確になり、長い間のもやもやがすっきりしました。

    「古典基礎語辞典」は偉大な国語学者、大野晋によるやまとことばの、文字通り基礎語辞典です。一つの言葉を説明するのに文字数の制限を設けず、必要かつ十分な解説がなされていて、やまとことばの成立や背景と変遷を、中古から中世にわたる実際の豊富な用例とともに知ることができます。たとえば、「あはれ」や「をかし」などは一つの言葉に対して1ページ以上にわたる詳細で丁寧な解説と語釈がついているのです。

    ◎恋の定義

    この基礎語辞典によると「恋」とは、やまとことばにおいては、離れていて心を寄せている相手にひかれ、しきりに会いたいという切なる心持ちがつのることを表すといいます。特に時間的、空間的に離れている相手に身も心も強くひかれる気持ちを表し、時には比喩的に、対象が動植物や場所になることもあります。また、「恋ふ」というのは身も心も惹かれ逢いたい気持ちが募る、という意なのですが、この思いは相手に働きかける“主体的”なものではなく、相手によって惹きつけられる“受動的”なものであると、古の人たちは捉えていたそうです。なんとも奥ゆかしく、「恋」というやまとことば自体に恋してしまいそうです。

    興味深いのは、万葉集の歌ことばにあてられている「恋」の漢字です。

    君により わが名はすでに立田山 絶えたる孤悲(恋)の しげき頃かも

    万葉集 巻17 平群氏女郎

    「あなたのために、私の噂はすっかり立ってしまいました・・立田山のように。立(絶)田山のごとく逢瀬が絶えてしまって、激しい恋の思いがあふれているこの頃なのです」

    「孤悲」という当て字は、まさに孤独に悶々と焦がれている様子をよく表しています。

    「恋」の文字こそないものの、自然の風物の中に鮮やかに恋の思いを描いた歌もあります。

    秋山の樹の下隠り行く水の 吾こそ益さめ 思ほすよりは

    万葉集 巻2 鏡王女

    「秋の山の、樹々の下に隠れながら流れてゆく水のように、見えないけれど、私のあなたへの恋の思いこそまさっていることでしょう、あなたが私についてお思いになるよりも」

    ◎愛の定義

    一方「愛」は、仏教語として中国から渡ってきたもので、価値あるものを敬い、大切にするという意味があると同時に、一方では基本的に執着心を含み、目下の者や動物をかわいがるという意味をあらわします。

    この虫どもを朝夕にあいし給ふ

    「堤中納言物語」より 虫めづる姫君

    「この虫たちを、朝も夕もかわいがりになる」

    有名な、虫好きのお姫さまのお話です。

    ◎Love
    英語の「love」の訳語として「愛」が日本で使われるようになったのは明治時代からで、当時の英中辞典に記載されていた中国語訳の「愛」の語釈を取り入れたものとされています。つまり、日本では平安時代と明治時代の二度にわたって「愛」を中国から輸入したことになるのです。

    「恋愛」と一つの語になっている今となっては、「恋」と「愛」の厳密な違いを意識することはほとんどありません。それでも、私は「愛しているよ」という映画やドラマの決め台詞に、日本語を母語とする人たちの根っこの部分が、無意識のうちに居心地の悪さを感じているのではないかと思うのです。

    [参考書]

     「古典基礎語辞典」大野晋編 角川学芸出版
     「英語でよむ万葉集」リービ英雄 岩波新書
     「紀州本万葉集 巻第17」後藤安報恩会 *近代デジタルライブラリーで閲覧可能
     「紀州本万葉集 巻第2」後藤安報恩会 *近代デジタルライブラリーで閲覧可能

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