長谷川幸洋

アベノミクスと呼ばれる安倍晋三首相の経済政策で金融市場が連日、円安と株高にわいている。販売や受注も改善しているようだ。興味深いのは、それらが政府・日銀による実際のマネー支出・供給ではなく、市場の将来予想によって実現してしまった点だ。
経済学では、多くの家計や企業が「やがてこうなるだろう」という期待を抱けば、一部は将来を先取りして行動する結果、経済が動いていくと説明する。
たとえば「物価が上がるかもしれない」と思えば、現金をため込んでおくより「いまのうちに設備投資するか」とか「いまがマンションの買い時だ」と考えてお金を使うのだ。
期待の役割を重視する考え方はノーベル経済学賞にも結実した。ところが、日本の経済論壇では「期待感だけでデフレから脱却できるわけがない」などと冷笑する向きが多かった。
アベノミクスで実現したのは、いまのところ日銀にのませた2%の物価安定目標だけだ。肝心の大胆な金融緩和も大型財政支出も始まっていない。規制改革に至っては、これから検討する段階である。
つまり事実を素直に見れば、経済の好転は「2%の物価上昇率を目指してがんばりますよ」という宣言だけで実現している。期待の効果をあらためて実証したかに見えるアベノミクスは、経済学の世界でも格好の研究テーマになるのではないか。

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