宮本常一

会場へ行ってみると、板の間に二十人ほどがすわっており、外の木の下でも三人五人とかたまって話しあっていた。雑談をしているように見えたがそうではない。事情を聞いてみると、村で取り決めをおこなう場合には、みんなが納得いくまで何日でも話し合うという。
はじめに一同があつまって区長から話を聞き、それぞれの地域組でいろいろと話しあって区長のところへ結論を持っていく。もし折り合いがつかねばまた自分のグループへもどって話しあう。用事のある者は家へかえることもある。ただ区長・総代は聞き役・まとめ役としてその場にいなければならない。
とにかくこうして二日も協議が続けられているという。夕べも明け方近くまで話しあったそうで、眠くなり言うことが無くなれば帰ってもいいのである。話といっても理屈を言うのではない。一つの事柄について自分の知っているかぎりの事をあげていくのである。
この寄り合い方式は近ごろ始まったものではなく、村の申し合わせ記録の古いものは二百年近く前のものもある。
昔は腹がへったら食べに帰るのでなく、家から誰かが弁当を持ってきたそうで、それを食べて話をつづけ、夜になって話が切れないとその場に寝る者もあり、起きて話して夜を明かす者もあり、結論が出るまでそれが続いたそうである。
と言っても、三日でたいていの難しい話もかたがついたという。気の長い話だが、とにかく無理はしなかった。みんなが納得のいくまで話しあった。だから結論が出ると、それはキチンと守らねばならなかった。

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