鶴見済

八九年に大学を卒業して、とある大きなメーカーに就職した。新入社員研修で企業人としてのあり方や社外での酒の飲み方まで教え込まれた後、自分の希望とは一切関係なく地方の工場のラインに配属された。すでに経営的に火の車だったその工場に通い、残業して帰ったら寝るだけという日々を送っていると、確かに会社のことしか考えられなくなってくる。なるほどこれが会社人間というものか、と思った。安定剤や抗うつ剤を、こっそり工場の便所で飲んで日々をしのいだ。結局、工場の人たちには申し訳なかったが、一年足らずで思い切って辞めた。
その後、名ばかりのフリーライターになった。自由だとは言っても、仕事を取ってくるだけで大変すぎてヘトヘトだった。それでも、また会社に戻りたいとは思えない。将来像などまるで見えないことも、段々どうでもよくなってきた。もう生きるのに疲れてきたのだ。
そんななかで九三年に、なんとか『完全自殺マニュアル』という本を出すことができた。レールの上も下もキツかったが、その前書きにはやはり「レールにしがみつく人生」の苦しさを書いた。こんな人生を頑張って生きていくことなどもうゴメンだ、このレールからまさに“命がけ”で降りてもいいんだという意味合いの本でもあった。
「死んだほうがマシ」と思いながら、わずかばかりの生きる喜びも希望もなく生きていくだけなのだとしたら、生きることが死ぬことよりもいいという理由は、少なくとも本人にはわからない。それでもこの国では、自殺は単に「いけないこと」、自殺した人は「心の弱い人」と扱われ、死にたいなどと言えば「強く生きろ!」という叱咤が飛んできた。それは「レールにしがみつけ」というニュアンスも帯びていた。それに反対するために、「個人の自由」を自分なりに突き詰めた形でぶつけたつもりでもある。

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