チェ・ボムス

フランツ・カフカの小説『変身』のように、ある日夢から覚めると、世の中のすべての価格が倍になったが、借金だけがそのままだという状況を想像してみよう。自分の給与、食料品価格、公共料金、住宅価格すべてだ。
審判の日が消え、喜びの日が到来する。名目国内総生産(GDP)が2倍になったため、負債比率の高い国が優良国家に生まれ変わり、ハウスプアの家庭や学資金の融資を受けた青年は希望を見いだすことになるだろう。負債なく預金だけがある引退者は直接的な恩恵はないが、消費・投資が活発になり、子どもが就職して未来を設計する姿を満たされた気分で眺めることができる。
インフレを起こして借金を返しやすくしようという主張は、すでに世界の随所で提起されている。アベノミクスの実情もこれだ。
インフレ政策は難しい。まず政治的な負担が大きい。有権者は、消費と投資が回復し、雇用が増え、所得が増えるという期待より、今すぐ買い物かごが軽くなることを嫌う。日本でアベノミクスがこのように支持を受けるのも「失われた20年」の経験があるからだ。
本当に心配すべきことは、インフレを目指してもそのように導くのが難しいという点だ。アベノミクスが目標にしているのは物価上昇2%、経済成長1%にすぎない。より意欲的な数値の提示を望んだが、強いデフレ圧力を受けていて、実際には難しいからだ。いくらインフレ政策を強く推進しても、名目所得増加率3%がすべてということだ。デフレはインフレよりさらに深刻な問題だ。物が売れないほか、雇用が減り、不動産価格が下落し、破産が続出するおそれがある。
紆余曲折はあるだろうが、日本が円安を引っ張れば、総投資率が40%を超えてインフレ圧力を受けている中国の人民元が切り下げられる可能性もある。東南アジアの通貨はすでに値下がりに転じている。通貨安競争はいつでも触発する可能性がある。
フランスのジヤック・アタリはリーマンショック直後に出した著書『金融危機後の世界』で、世界経済の不況が長期間続き、結局、主要国の債務がインフレを通じて整理されるだろうと予言した。私たちも今後、インフレに対して柔軟な思考を持つべき時期だ。高速道路で周囲の車がすべて150キロ以上の速度で走っていれば、制限速度を違反するのがむしろ安全だ。ケインズは『一般理論』の最後に、経済学者の大きな弊害の一つが、30代後半に生じた価値観を生涯変えることができないことだと書いた。 

One thought on “チェ・ボムス

  1. shinichi Post author

    アベノミクスの狙い…「物価上がれば負債減る」

    by チェ・ボムス

    中央日報日本語版

    http://japanese.joins.com/article/751/176751.html?servcode=100&sectcode=120&cloc=jp|main|top_news

    フランツ・カフカの小説『変身』のように、ある日夢から覚めると、世の中のすべての価格が倍になったが、借金だけがそのままだという状況を想像してみよう。自分の給与、食料品価格、公共料金、住宅価格すべてだ。

    審判の日が消え、喜びの日が到来する。名目国内総生産(GDP)が2倍になったため、負債比率の高い国が優良国家に生まれ変わり、ハウスプアの家庭や学資金の融資を受けた青年は希望を見いだすことになるだろう。負債なく預金だけがある引退者は直接的な恩恵はないが、消費・投資が活発になり、子どもが就職して未来を設計する姿を満たされた気分で眺めることができる。

    インフレは長いあいだ「公共の敵」であったし、インフレを退治した人は「救国の英雄」として称賛された。イングランド銀行から中央銀行運営方式を学んだドイツのブンデスバンクが世界中央銀行のモデルになったのは、ワイマール共和国当時の殺人的なインフレを収拾し、ライン川の奇跡を起こしたからだ。

    ◆最大の難題、物価安定

    リーマンブラザーズの破綻後、過去に米連邦準備制度理事会(FRB)議長を務めたポール・ボルカーの金融改革案だった「ボルカールール」が教示のように見なされ、彼の政策が再び注目され始めた。米国は1970年代、オイルショックなどの影響で慢性的な物価上昇に苦しんだ。ボルカーは79年、FRB議長に就任すると、金利20%、公式失業率10%(実際は20%以上)を甘受しながらも、金融を引き締め、インフレを終息させた。しかし建設会社が次々と倒産し、高金利に苦しむ農夫がトラクターに乗って集まり、ワシントンで激しくデモした。ボルカーをFRB議長に任命したジミー・カーター大統領は結局、再選に失敗した。しかし米国の中央銀行の独立性が認識されたのもこの時期だ。

    韓国も物価の安定が最大の難題だった。公式統計とは関係なく、体感物価上昇率は普通30-40%だった。全斗煥(チョン・ドゥファン)政権に対し、物価の安定だけは政治的功績として認めるのも、あまりにも長期にわたりインフレに苦しんだからだ。今でも世論調査をすると、物価の安定が政府の最初の課題に挙げられる。

    ところがグローバル金融危機後は雰囲気が変わっているようだ。現代経済学の巨頭ケネス・ロゴフとポール・クルーグマンは、国の負債が経済成長に及ぼす相関関係をめぐり、統計資料の誤用の可能性まで取り上げながら激しく論争した。しかし適正な水準のインフレ誘導が必要だという主張には意気投合した。あたかも消火栓を開けたように通貨をばらまくベン・バーナンキに向かっても「なぜそんなに小心なのか」と面責するほどだった。通貨危機当時、世界銀行の首席副総裁でありながらも隣の国際通貨基金(IMF)の高金利政策を厳しく批判し、所得分配を悪化させる米国的資本主義にいつも批判的な見解を示してきたジョセフ ・スティグリッツも、低所得層を支援するにはインフレを乗り切らなければならないと力説する。

    ◆国家負債解決の4つの案

    コンサルティング会社マッキンゼーは過度な国家負債の解決方法を4つ提示した。成長、緊縮、不渡り、インフレだ。

    成長を通した負債の縮小から見てみよう。最も教科書的な方法だが、マッキンゼーが研究した32事例のうち成功したのは1回だけだ。強力な構造改革を断行した後も長い時間がかかり、運も伴わなければならない。緊縮を通じて負債をGDP比25%水準まで縮小させるには、約7年が必要という調査結果が出た。しかしその過程でGDPも25%減るのが問題だ。今のギリシャ・ポルトガルがこの段階にあり、スペインがその後を追っているが、依然として解決の兆しは見えない。成長戦略であれ緊縮戦略であれ、周辺国をはじめとする貿易相手国の経済が厳しい場合、成功の可能性が非常に低い。

    国家不渡りのような債務調整は実際、頻繁に起きている。80年代、中南米のほとんどすべての国が一回ずつ経験している。私たちは個人の改善作業を通じて債務再調整を終え、取引銀行が何もなかったかのように待遇しなければならないと考える。しかし国際金融界では事情が違う。債務調整が行われた国に対しては、普通、数年間は接近を制限する。通貨危機当時、中東の港に停泊した韓国のタンカーには原油が供給されなかった。現金、それもドルを先払いしてこそ、原油の供給が可能という要求だった。このように、冬が寒く、食べ物が不足し、国際貿易依存度が高い国では、モラトリアム(支払い猶予)を宣言しにくい。 (中央SUNDAY第342号)

    インフレを起こして借金を返しやすくしようという主張は、すでに世界の随所で提起されている。アベノミクスの実情もこれだ。過去の韓国もインフレによく助けられた。資本蓄積がなかった韓国は借金で事業を起こした。金利が物価上昇率より低く規制され、企業家に有利な環境が整えられた。たとえ事業に失敗しても、保有する不動産価格が上がり、再起することができた。他の国も変わらない。時々インフレ狂風が吹き、実質的な負債減少が実現したのだ。

    ところが、世界の工場の中国がほとんど無限に低価格製品を供給し、かつて捨てられた土地がグローバリゼーションによって新しく開墾され、農産物の供給が拡大しながら状況が変わった。しばらくインフレのない成長を謳歌することができた。いわゆる「ゴルディロックス」時代が開かれたのだ。物価上昇がない状態で経済の高度成長が続いた。しかしこれは、借金をそのまま返さなければならない時代を意味する。好事魔多しというか。常にインフレの時はその効用を感じることができなかったが、なくなれば恋しくなる。細菌は疫病を起こすが、それがなければ食べ物の廃棄物は腐っていかない。

    ◆インフレよりデフレがに怖い

    インフレ政策は難しい。まず政治的な負担が大きい。有権者は、消費と投資が回復し、雇用が増え、所得が増えるという期待より、今すぐ買い物かごが軽くなることを嫌う。日本でアベノミクスがこのように支持を受けるのも「失われた20年」の経験があるからだ。ひとまずインフレが始まれば、下手をすると統制できなくなるという点も問題だ。インフレはケチャップのように、容器を振り始めれば流れを調節できないということだ。しかし、食堂に入る時と出る時に昼食の価格が変わり、パン一つを買うにも札束を持っていかなければならないようなハイパーインフレは懸念する必要がない。これは国家の公信力が急落し、貨幣制度が崩れたり金本位制度から抜け出して紙幣の信頼度が低い時にのみ発生する現象であるからだ。

    本当に心配すべきことは、インフレを目指してもそのように導くのが難しいという点だ。かつて韓国はGDPの30%を投資に回した。その結果、総需要はすでに発生したが、投資の懐妊期間は供給が増えないため、その差だけインフレ圧力が生じたのだ。今は総投資率がわずか数%にすぎない水準だ。このため市場に通貨を供給しても、流通速度が低まるだけで、物価は上がらない。アベノミクスが目標にしているのは物価上昇2%、経済成長1%にすぎない。より意欲的な数値の提示を望んだが、強いデフレ圧力を受けていて、実際には難しいからだ。いくらインフレ政策を強く推進しても、名目所得増加率3%がすべてということだ。デフレはインフレよりさらに深刻な問題だ。物が売れないほか、雇用が減り、不動産価格が下落し、破産が続出するおそれがある。

    米国は今後、出口戦略を採択しても、相当なレベルのインフレを容認するとみられる。量的緩和の持続、すなわち物価の安定よりもインフレに好意的なジャネット・イエレンがバーナンキの後任として有力視されているのも、こうした雰囲気と無関係ではない。紆余曲折はあるだろうが、日本が円安を引っ張れば、総投資率が40%を超えてインフレ圧力を受けている中国の人民元が切り下げられる可能性もある。東南アジアの通貨はすでに値下がりに転じている。通貨安競争はいつでも触発する可能性がある。

    フランスのジヤック・アタリはリーマンショック直後に出した著書『金融危機後の世界』で、世界経済の不況が長期間続き、結局、主要国の債務がインフレを通じて整理されるだろうと予言した。私たちも今後、インフレに対して柔軟な思考を持つべき時期だ。高速道路で周囲の車がすべて150キロ以上の速度で走っていれば、制限速度を違反するのがむしろ安全だ。ケインズは『一般理論』の最後に、経済学者の大きな弊害の一つが、30代後半に生じた価値観を生涯変えることができないことだと書いた。 (中央SUNDAY第342号)

    ◆チェ・ボムス=エール大経済学博士。元KDI(韓国開発研究院)研究委員。1998年の通貨危機当時、金融監督委員長諮問官として金融構造改革を企画した。その後、国民・住宅銀行合併実務作業を担当し、国民銀行副銀行長、新韓金融持株戦略副社長を務めた。

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