荻原守衛(荻原碌山)、岡田みどり

Ogiwara1みどりさん! 画を知る人でみどりを知らない人はいないでせう。あの五尺三寸の珍らしく高い脊、蕾が破れようとするやうな匂やかな肉体、みどりほど画家をやんやといはせたものは、まあないでせう。その頃(明治四十三年)彼女は新宿に住んでゐました。当時その近くに、天才彫刻家荻原守衛氏も住んでゐました。
守衛氏の家は義侠パン屋で通つてゐる、中村屋の裏で、その後この家には先年日本政府から追はれたロシヤ詩人、エロシェンコ氏が住んだといふ、由緒のついた家であります。荻原氏はこのみどりを特別に贔屓にして、日毎彼女を呼んではモデル台に立たせ、その製作に熱中してゐました。また彼の製作にはみどりが、そのまゝ生きてゐるといひます。こゝに挿入いたしましたあの当時すべての人の血をわかした、そして荻原氏の最後の傑作『女』なども、その一つであります。不幸にしてこの天才彫刻家は、若くして倒れましたが、その遺言に、彼が使用してゐた寝具をはじめ、何もかも彼女に与へると、いつたことを聞いたゞけでも、いかにみどりを愛してゐたかゞわかります。

One thought on “荻原守衛(荻原碌山)、岡田みどり

  1. shinichi Post author

    「天才彫刻家の恋」
    『主婦之友』11月号
    「若きモデル女のローマンス」特集
    1924年(大正13年)

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