糸井重里

あのね、ま、言いづらい話なんですけど、世の中には「頭のいい人になりたい人」というのがすごくたくさんいてね、多くの場合、その人たちが迷惑をかけるんですよ。なぜかというと、頭のいい人になりたい人たちは、すごく頭のいいことを考えて、みんながそれに従えば世の中がよくなると思ってるんです。で、法律や、決まりや、マニュアルをたくさんつくる。それに従えば幸せがやってくると思って。「1、こうするといいぞ」とか、書くんです。でも、みんなは、頭のいい人の思惑を外れて、「えっと、4番はなんでしたっけ?」とか、「俺、じつは読んでないんですよ」とか、「まぁ、いいじゃないですか」とか言うわけです。そうすると、頭のいい人になりたい人たちは、「どうして大衆ってバカなんだろう」ってもう、涙を流しながら思うんです。「だから戦争が起こるんだ」とか言うんです。でもね、彼らが言うようなことが、世の中を変えたことは一度もないんですよ。まあ、変える手伝いくらいにはなるにしても、本当になにかを変えるようなものっていうのは、「こっちのほうが美味しかったぞ」とか、「つかってみたら便利で、もう戻れないや」とか、そういう「事実が先に突っ走ったこと」ばかりで、決まりやルールは、あとからできるんです。

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