リサイタルという形式を発明した「史上初のピアニスト」フランツ・リストは、音楽史上もっともモテた男である。その超絶技巧はヨーロッパを熱狂させ、失神する女たちが続出した。聴衆の大衆化、ピアノ産業の勃興、スキャンダルがスターをつくり出すメカニズム…リストの来歴を振り返ると、現代にまで通じる十九世紀の特性が鮮やかに浮かび上がってくる。音楽の見方を一変させる一冊。
「私の音楽上の望みは、私の槍を未来という漠然とした空に飛ばすことでしたし、これからもそうするつもりです。この槍がすぐれたもので、地面に落ちてさえこなければ、ほかのことはどうでもいいのです」
フランツ・リストはなぜ女たちを失神させたのか
by 浦久俊彦
第1章 神童の神話
第2章 スキャンダルはアーティストのトレードマーク
第3章 巡礼の年
第4章 失神したがる女たち
第5章 「ピアニスト」の誕生
第6章 グランドピアノはなぜ大きくなったのか
第7章 ショパンvs.リスト
第8章 四百人の弟子と後継者たち
第9章 知られざる晩年の肖像
(sk)
音楽は、聴くに限る。
音楽について読むと、「なにかが違う」という感覚に襲われる。
芸術全般にいえることだが、作者や作品やについて書かれたものの大半は伝聞であり、感想であり、ゴシップであり、嘘である。
スポーツも、自分でからだを動かしているうちはいいのだが、画面の前にうずくまり、スポーツについて語るようになったときから嘘が始まる。
なにもかもが職業になり、ビジネスになってしまった。ビジネスには人を欺くという側面があり、芸術とは相容れない部分があるのは、誰もが知っている。
音楽家には、音楽を教え、広めるという役割がある。でもその目的は、聴かせることにある。音楽について書いたり語ったりするのは、ビジネスであって、音楽ではない。