小林武史

集団的自衛権の行使容認が必要な理由について、安倍晋三首相は「国民の安全を守る」ためと言う。だが、戦争とは「国を守る」という政府の宣伝から生まれる。どんな理由を付けようとも、戦争とは、人と人とが殺し合うことだ。
戦時中、中国戦線から戻った知人が「捕虜をはりつけにして射撃練習をしていたら当たり所が悪く大声で泣き叫ぶので、上官が切り殺してくれた」と自慢するのを聞いた。武力で他国を守る集団的自衛権の行使を認めることは、日本を戦争のできる国に変え、自衛隊を人殺しのための軍隊に作りかえることだ。
敗戦を告げる玉音放送を聞き、母と伯母は「戦争が終わった」と涙を流して抱き合いながら喜んでいた。十四歳の軍国少年だった私は「負けたのにうれしいとは何ごとか」と本気で切り殺そうかと思った。いま思えば、政府批判はおろか、政治的発言さえはばかられる社会で育ち「天皇陛下のために死ね」という愛国教育の結果だったと感じる。
敵味方なく多くの血が流れたあの戦争の反省から、私たちは政府を再び暴走させないよう縛る日本国憲法を手に入れた。民主国家とは国民の批判を受け、誤りがあれば修正しながら歩んでいくものだ。しかし、特定秘密保護法は国の誤りを監視するための判断材料から国民を遮断してしまう。
しかも、安倍首相は第一次政権で教育基本法に愛国心の理念を盛り込み、昨年十二月、国家安全保障戦略に愛国心を明記した。愛国心を押しつけ、秘密保護法で情報を隠すことは、政府批判を許さぬ息苦しい社会につながるのではないか。

2 thoughts on “小林武史

  1. shinichi Post author

    秘密保護法 言わねばならないこと

    東京新聞

    (1)権力者の責任隠す 憲法学者 小林 節氏(2013年12月13日)

    (2)弱さつけ込む恐怖 劇作家 平田オリザ氏(2013年12月16日)

    (3)人権侵害国家招く おばちゃん党代表代行 谷口真由美氏(2013年12月18日)

    (4)公文書公開に逆行 歴史学者 久保 亨氏(2013年12月21日)

    (5)作品を萎縮させる 映画監督 崔 洋一氏(2013年12月25日)

    (6)言論封殺 戦争招く 女性団体世話人 山口みつ子氏(2013年12月31日)

    (7)国民の良識信じよ 作家 浅田 次郎氏(2014年1月3日)

    (8)原発情報も闇の中 環境経済学者 大島 堅一氏(2014年1月7日)

    (9)医療不信生む恐れ 医師 青木 正美氏(2014年1月14日)

    (10)時計が逆に回った 映画監督 小栗 康平氏(2014年1月19日)

    (11)沖縄への恫喝では 社会学者 田仲 康博氏(2014年1月21日)

    (12)政権は謙虚であれ 漫画家 小林よしのり氏(2014年1月29日)

    (13)悪法縛る手だてを 社会学者 上野 千鶴子氏(2014年2月4日)

    (14)歴史家、検証できぬ 作家 半藤 一利氏(2014年2月12日)

    (15)安倍政権の驕りだ 憲法学者 水島 朝穂氏(2014年2月27日)

    (16)市民から提言萎縮 地雷廃絶NGO理事 目加田 説子氏(2014年3月9日)

    (17)民主主義を壊す軸 作家 森村 誠一氏(2014年3月16日)

    (18)知る権利もっと剥奪 日韓文書の公開求める会代表 吉沢文寿氏(2014年4月3日)

    (19)条約と「秘密」矛盾 人権問題の専門家 藤田 早苗氏(2014年4月11日)

    (20)「戦争できる国」狙う 政治学者 白井 聡氏(2014年4月13日)

    (21)秘密の壁 より厚く 沖縄県嘉手納町議長 徳里 直樹氏(2014年4月22日)

    (22)知らぬ間に戦争 怖い 弁護士 藤原 真由美氏(2014年5月20日)

    (23)国際原則から逸脱 元米政府高官 モートン・ハルペリン氏(2014年5月25日)

    (24)情報隠しの仕組み 情報公開NPO理事長 三木 由希子氏(2014年6月22日)

    (25)戦争国家への道筋 映画作家 大林 宣彦氏(2014年7月5日)

    (26)異論許さぬ異常さ 言論法学者 山田 健太氏(2014年7月20日)

    (27)武力行使を白紙一任 弁護士 早田由布子氏(2014年8月18日)

    (28)戦前の「お上」と似る 俳優・作家 高見 のっぽ氏(2014年8月26日)

    (29)政府批判許さぬ国に ヴァイオリニスト 小林 武史氏 (2014年9月1日)

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