近頃、「装飾アルファベット」なるものが気になっている。ご存じの方もいらっしゃると思うが、簡単にいうと、15世紀の中頃、ヨーロッパのあの画期的な印刷術の発明前夜に登場した、銅版で作られたアルファベット23文字なのだが、個々のアルファベットを構成する「線」に、自然界のモチーフや想像上のモチーフが用いられている。日本でいうと、平安朝の「葦手」をもっと複雑にしたものといえるかもしれない。
文字という抽象物が、具象的なイメージでできあがっているというしろものなのだが、これがおもしろいというか興味がつきない。個々のモチーフが、なぜこんな形で組み合わされて、このある一文字を作っているのだろうか? そもそも、この人物はいったい何者なんだ? この動物は? 小さな文字に隠された小さな謎が、やがてヨーロッパ中世の基層文化への興味の扉を開いてゆきもする。
でも、なによりも、文字自体が視覚的に楽しいし、見ていて飽きないのだ。それにくらべると、このモニター上の文字はなんとも……と、また愚痴っぽくなってしまった。
芸術表象論特講#17
http://joshibi-catp.blogspot.jp/2012/12/17.html
今回のゲストは、編集者の橋本愛樹氏でした。
橋本氏は、「ブリュッケ」という出版社をひとりで経営しています。
ブリュッケの出版物といえば、芸術表象専攻の北澤憲昭先生の著作(『眼の神殿―「美術」受容史ノート[定本]』や『境界の美術史―「美術」形成史ノート[新装版]』ほか)、本学で教鞭をとられている藤原えりみ先生や、足立元先生の著作があります(シンシア・フリーランド(藤原えりみ訳)『でも、これがアートなの?芸術理論入門』、足立元『前衛の遺伝子―アナキズムから戦後美術へ』)。
レクチャーでは、編集業を中心にお話してくださいました。
橋本氏は、ブリュッケを立ち上げて17年ほど、編集者生活は40数年になるといいます。
仕事としては、DTP(Desktop publishing)の状態で、ほとんどの仕事を橋本氏がおこなっているそうです。カバーの装丁もご自身でデザインされているとか。
本は、著者がいなくてもつくることができます。その例として、橋本氏が過去に驚いたという、小学館が出版した『日本国憲法』についてお話してくださいました。日本人が自国の憲法を知らなすぎるということから出版されたそうで、ミリオンセラー近くまで行ったそうです。なかは、文字を大きくし、バックに富士の写真をあしらうなどグラフィックな作りをしているそうです。
「本を作るということは、どう料理するのかと同じこと」という橋本氏。
学生たちに対して、電子書籍が出始めているのもあり、ひとりで出版社をするという進路の選択もありなのではないか、この世界にどんどん入って来て欲しいとおっしゃっていました。
(sk)
「装飾アルファベット」というのはどんなものなのだろう。
もしかしたら、こんなものなのかもしれない。
ブリュッケ
出版社
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