渡辺俊夫

日本人は自然を愛好する―これは日本文化を語るときにしばしば語られるステレオタイプの一つです。現在では当然のように使っている「自然」という言葉が、日本で普通に使われるようになったのは1930年以降に過ぎないのだとか。英語の「nature」の訳語として当てられた1880年代から、1930年代までこの語義は大きく揺れ動いたといいます。
そもそも日本で自然の概念を指すには、万有、森羅万象、天然、などの用語が使われ、人間はその中に包括されているという捉え方でした。しかし、西洋の言う自然とは人間活動とは全く別のもので人が関与できるものではなく、日本とは正反対の考え方をしていたのです。
1880年以前の江戸時代の日本では、名所図会などの浮世絵に描かれる自然景観には人や寺社などの文化的要素を含む描写が不可欠であり、それが自然を描く主流となっていました。一方で、そのような文化的要素を排除し、客観的・地理学的観察のみに基づいた景観を描く傾向も出てきたこと、江戸後期には科学的観察と調査に基づいた博物図譜や日本地図などの製作が盛況だったこと、などの背景も同時に存在していました。

One thought on “渡辺俊夫

  1. shinichi Post author

    日本人の自然に対する眼差しの変化とは

    近代日本自然観の成立

    森美術館

    http://www.mori.art.museum/blog/2010/11/post-129.php

    英語のnatureの訳語として「自然」が定着するまでの、近代日本の自然観成立の経緯を、江戸末期の浮世絵にみる名所ブームと、科学的・地理学的観察に よる反名所的傾向の流れを対比しつつ、明治期の西洋的な風景画の導入やジョン・ラスキンなどの自然論、水彩画運動などとの関連で解説します。

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