One thought on “杉本栄子

  1. shinichi Post author

    花びら供養

    by 石牟礼 道子

    杉本栄子

    「道子さん、私はもう、許します。チッソも許す。病気になった私たちを迫害した人たちも全部許す。許すと思うて、祈るごつなりました。毎日が苦しゅうて、祈らずにはおれん…。何ば祈るかといえば、人間の罪ばなあ。自分の罪に対して祈りよっと。人間の罪ちゅうは、自分の罪のことじゃった。あんまり苦しかもんで、人間の罪ば背負うとるからじゃと思うようになった。そういうとき、人間の仇ば取るぞとばかり考えよった。それで、疼きも一段ときつかったわけじゃ。許すという気持ちで祈るようになってから、今日一日ば、何とか生きられるようになった」

    **

    後ろすざりしてゆく背後を絶たれた者の絶対境で吐かれたどんでん返しの大逆説がここにある。かねてこの人はこうもいう。「知らんちゅうことは、罪ぞ」。光に貫かれた言葉だと思う。現代の知性には罪の自覚がないことをこの人は見抜いていたにちがいない。不自由きわまる体で、あらためて、水俣病とそこに生じる諸現象の一切を、全部ひきうけ直します、と栄子さんは宣言したのだ。皆が放棄した「人間の罪」をも、この病身に背負い直すぞとも言っているのではないか。自分に向かって、迫害する者たちにむかって、世界にむかって仲間たちに対して。

    Reply

Leave a Reply

Your email address will not be published. Required fields are marked *