至福の時間

人に言えば笑われてしまいそうな企てがある
知らない国をあてもなく旅する
草と木のなかに程々の家を建てる
世界でいちばん美しい本を作る

たぶん僕はそんな企てをどれも実行しない
あてもなく旅したりはしない
程々の家を建てたりはしない
美しい本を作ったりはしない

あてもなく旅したりはしないのに
僕は旅の始まりをどこにしようか思いあぐねている
行きもしないのに
ビザの心配をしている

程々の家を建てたりはしないのに
僕は程々の家を建てる場所を探している
建てもしないのに
電気や水道の心配をしている

美しい本を作ったりはしないのに
僕は本のなかに散りばめる素材を集めている
作りもしないのに
インクの色の心配をしている

そんな企てのために どれだけの時間を費やしたことだろう
旅の始まりにぴったりだと思える場所は数百は下らない
家を建てるのにいいだろうなと思った場所は数千は下らない
本のなかに散りばめるために集めた素材は数万は下らない

僕はそんなことで無駄な時間をすごす
でもそれは眠りたくない時間で
至福の時間で
横にはいつも君がいる

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