俵万智

『源氏物語』には、七九五首の和歌が登場する。ストーリーの中心をなす恋愛の場面ではもちろんのこと、晴れの席で詠みあうこともあれば、独り言をつぶやくように歌が詠まれることもある。
 ここぞ、というときの和歌には、登場人物の思いが凝縮しているわけで、それが恋のゆくえを、大きく左右したりもする。心の通いあいから、すれ違い、かけひきにいたるまで、たった三十一文字の言葉にこめられたものは、かぎりなく豊潤で奥深い。

2 thoughts on “俵万智

  1. shinichi Post author

    身はかくてさすらへぬとも君があたり去らぬ鏡のかけは離れじ(光源氏)
    このからだどこまでさすらう定めでもあなたの鏡に残す面影(万智訳)

    別れても影だに止まるものならば鏡を見てもなぐさめてまし(紫の上)
    別れても面影残すというのなら鏡だけ見て暮らしていたい(万智訳)

    かぎりとて別るる道の悲しきにいかまほしきは命なりけり(桐壺更衣)
    限りある命だけれどどうしても今は生きたいあなたのために(万智訳)

    橘のかをりし袖によそふればかはれる身ともおもほえぬかな(光源氏)
    橘の香りなつかしあの人が今もこうしてここにいるよう(万智訳)

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