池田信夫

きょうの日経新聞の「中外時評」で、塩谷喜雄という論説委員が「反論まで周回遅れ」と題して、最近の温暖化懐疑論を批判している。彼によれば、IPCCは第4次報告書で人為的温暖化の進行を「断言」したのだそうだ。そんな話は初めて聞いたので、サマリーの原文を読むと、こう書かれている:
Most of the observed increase in global average temperatures since the mid-20th century is very likely due to the observed increase in anthropogenic greenhouse gas concentrations.
イタリックの部分は気象庁訳でも「温室効果ガスの増加によってもたらされた可能性がかなり高い」と訳されている。むしろ慎重に「断言」を避けているのだ。したがって塩谷氏のいう「ついに伝家の宝刀を抜いた」とか「石油資本のキャンペーンが失敗した」という類の話はでたらめだ。
塩谷氏は「異論のほとんどは地球科学とも気象学とも無縁の門外漢」だと書いているが、当ブログで紹介した科学者のうち、だれが門外漢なのか。IPCCのサマリーさえ読んでいない門外漢は、自分だろう。おまけに経済紙のくせに、京都議定書の費用対効果について論じたNordhausやLomborgの最近の議論さえ知らないで、「周回遅れ」の古くさい温暖化脅威論を振り回しているのは日経新聞のほうである。

3 thoughts on “池田信夫

  1. shinichi Post author

    きょうの日経新聞の「中外時評」で、塩谷喜雄という論説委員が「反論まで周回遅れ」と題して、最近の温暖化懐疑論を批判している。彼によれば、IPCCは第4次報告書で人為的温暖化の進行を「断言」したのだそうだ。そんな話は初めて聞いたので、サマリーの原文を読むと、こう書かれている:

    Most of the observed increase in global average temperatures since the mid-20th century is very likely due to the observed increase in anthropogenic greenhouse gas concentrations. (p.10、イタリックは原文)

    イタリックの部分は気象庁訳でも「温室効果ガスの増加によってもたらされた可能性がかなり高い」と訳されている。むしろ慎重に「断言」を避けているのだ。したがって塩谷氏のいう「ついに伝家の宝刀を抜いた」とか「石油資本のキャンペーンが失敗した」という類の話はでたらめだ。

    「査読つき論文誌では異論はゼロに近い」というのも嘘である。これまで紹介したどの論文でも、人為的温暖化の可能性を否定する意見は皆無だが、それが決定的な要因かどうかについては多くの異論がある(米気象学会でさえIPCCは多数説ではない)。だからIPCCも”very likely”という表現にとどめ、2100年の気温上昇も1~4℃という曖昧な予測しかしていないのだ。

    IPCCの報告書全体を読むと、圧倒的にCO2の影響評価の比重が大きく、政治的バイアスが強いが、それでも2100年の気温上昇のbest estimateは、約3℃である。これは東京と仙台ぐらいの差で、シベリアに人が住めるようになり、全世界で凍死者が毎年2万人減り、温帯の農産物は増産になるだろう。海面上昇も、IPCCの予測では2100年で30cm程度で、日本の干満の差(最大約2m)に比べても問題にならない。

    塩谷氏は「異論のほとんどは地球科学とも気象学とも無縁の門外漢」だと書いているが、当ブログで紹介した科学者のうち、だれが門外漢なのか。IPCCのサマリーさえ読んでいない門外漢は、自分だろう。おまけに経済紙のくせに、京都議定書の費用対効果について論じたNordhausやLomborgの最近の議論さえ知らないで、「周回遅れ」の古くさい温暖化脅威論を振り回しているのは日経新聞のほうである。

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  2. shinichi Post author

    池田信夫さんにここまで書かれるというのは、塩谷喜雄さんが一流のジャーナリストだということなのだろう。

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