原子は99.9%空洞なのに、なぜ多くの物質は不透明で硬さがあるのでしょうか? (answered by 橋本省二)

そうそう。解説本とかでよくイラストがありますね。原子の中を見ると、真ん中に小さな原子核があり、遠く離れてもっと小さな電子が回っている。ほとんどスカスカで、いくらでも通り抜けられそうに見える。なのになぜ多くの物質は不透明なのか。これは本質的な質問です。どういうことか考えてみましょう。
不透明という以上、光をあてて見ることを考えているわけです。その光はどうやってできたか考えてみたことはありますか? 太陽から? 蛍光灯から? そうではなくて、もっと根本原理に立ち戻ってみましょう。私たちが見ている光は、ほぼすべてブルブルふるえる電子が作り出しています。電荷をもった電子がブルブルと動くと、それに応じて電磁波が放出されます。これが光です。逆に、光が電子にあたると、電子をブルブルふるわせます。
量子力学のことまで考えてより正確に言うと、原子のなかで電子がその軌道を移すと、そのエネルギー差に応じた波長をもつ光が放出されたり吸収されたりします。私たちが見ている光は、そこらじゅうにあるいろんな原子がちょうど放出し、吸収しやすい波長をもっています。私たちの「目」だってある物質ですから、光を吸収します。まずは吸収できないと「見る」ことだってできないわけです。だから可視光なんですね。原子が光を吸収する。つまり、物質は不透明になるわけです。
可視光の波長は原子の大きさよりかなり長いものです。ですから、原子全体をゆっくり揺らし、おかげで電子がその軌道を少しだけ変えたりするわけですが、そんなことをしても原子の中の様子まではわからないでしょう。空洞なのかどうかすら、区別のしようがないのです。
可視光で見ようとしたのが失敗でした。もっと波長の短い光、つまりX線やガンマ線を使ってください。これらは原子中の電子を根こそぎすっ飛ばしてしまうくらい高いエネルギーをもっています。(逆に言うと、燃焼などの化学反応ではX線を作ることはできません。)電子はブルブルどころではなく、弾き出されてしまうわけです。X線は多くの物質を透過することはご存知ですね。X線にとっては、実際多くの物質は透明なのです。もっと波長の短いガンマ線でも同様です。
透明かどうか、それは見る波長によって変わります。原子の大きさよりもずっと短い波長で見てみれば、原子はやはりほとんどスカスカなのです。

2 thoughts on “原子は99.9%空洞なのに、なぜ多くの物質は不透明で硬さがあるのでしょうか? (answered by 橋本省二)

  1. shinichi Post author

    answered by Tomo_Nakayama

    おそらく、結晶構造とか分子構造という概念に触れたものの、物理学を深く勉強する段階には至っていないものと思いますので、できるだけ専門的にならない感覚的な説明に試みます。

    原子を構成する2大要素、原子核と電子をそれぞれパチンコの玉のような球体で表現すれば、確かに全ての物質は、スカスカだと言えます。しかし、次の2つの事情によって、実は、原子はほとんどみっちり詰まった塊と言えるんです。

    まず第1の事情です。かなり大雑把な表現をすれば、電子は小さくて硬い玉ではなく、拡がりをもった存在なんです。細かい事を言うと混乱するので、ここで止めておきますが、1つの電子は、原子の大きさ程度(場合によってはそれ以上大きな)空間に拡がっています。量子物理学ではこういう拡がりを「物質の波動性」の結果であると考えて、電子がどのくらい拡がって存在しているのか、どのように運動するのかなどを、考える時に「波動関数」というのを使います。

    第2の事情は、これも特に電子で顕著な効果で、電子はある特定の場所にじっとしているものではないという事です。物質中の電子は、秒速数千キロ程度の超高速で原子の周辺のミクロな空間を動き回っています。ある空間にポツンと何かが存在しているとき、その「何か」が完全に静止状態ならスカスカに見えますよね。でもその空間の中を目にもとまらぬ速さで動き回っているものが存在していたら、その空間はほぼ満たされているのと同等になります。例えば、扇風機が停止している時は、羽と羽の間に確実に物を通したり、指を入れたりできますが、、、扇風機が動いていたら、その隙間は埋まっているかのように見えるし、ボールを投げたら、よほど運がよくない限り、動いている扇風機の羽の向こうにボールを通すなんて出来ないでしょうね(本当に実験したら扇風機を壊すかもしれないので、頭の中で思考実験してください)。

    上の2つの事情によって、原子は実はそんなにスカスカじゃないのです。だから、原子が密集してできる物質もそんなにスカスカではありません。

    さて、光が通らない、硬さがある、、、という話と上の、「原子(や物質)はそんなにスカスカじゃない」という事とは、どういう関係があるのか、という話なんですが、、、残念ながら(?)、どのくらい物質がスカスカなのかという事で判断する話ではないのです、誤解を避けるために、以下のコメントをしておきますね。

    硬さは、原子と原子の結びつきの強さや形によって大きく変わります。例えば炭素の場合、ダイヤモンドも鉛筆の芯も同じ炭素原子から出来ているのに、硬さが全く違いますね。このふたつの物質は、多くの炭素原子がどのような形でつながっているのか(結晶の構造)が全く違うんです。

    光は電波の一種、つまり電気的な波です。そして、目に見える光(可視光)の波長は、およそ400~800ナノメートルです。空間が大きく空いているから光が多く通る、空間が埋まっているから光が通らないという話は、その隙間が波長よりも大きい時に意味がある議論です。原子の大きさや多くの物質における原子と原子の間隔は、1ナノメートルよりも小さいので、ご質問者が思い描いている隙間は、当然1ナノメートルより小さい隙間で、それはもちろん光の波長よりも圧倒的に小さいです。そうなると、原子や物質がもしスカスカだったとしても(実際はスカスカじゃないですが)、光は通さないという事になってしまいます。でも透明な物質もありますよね。つまり、物質が透明か不透明かは、その波長の光エネルギーを吸収(または反射)するかしないか、、、そこが問題なのですが、、、別の話題になってしまうので、ここまでにしておきますね。

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