ウイルスの感染拡大を弱める「希釈効果」(WWF) 1 Reply 生物多様性が豊かであるほど、つまり、その地域に生息している野生生物の種類が多ければ多いほど、動物由来感染症のリスクは低下する。これを希釈効果という。条件によってはこの効果が発揮されない場合もあるが、おおむね専門家の間で合意が得られている概念だ。
shinichi Post author11/10/2023 at 7:31 pm 生物多様性は世界を救う!?豊かな生物多様性が動物由来感染症を防ぐメカニズムとは WWF https://www.wwf.or.jp/activities/opinion/4451.html 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、動物由来感染症(zoonosis)の一つと考えられています。 動物由来感染症とは、動物がもともと保有していた病原体が人に感染する病気のことです。 そして、これらの病気は、人が森林などの環境を破壊し、それまで踏み込んだことのなかった自然の奥にまで入り込むようになったことで、発生し、拡散するようになりました。 病原体となるウイルスなどの「宿主」となるさまざまな野生動物と、人や家畜が接する機会が増えてしまったためです。 しかし、こうした人と動物の接触を完全にゼロにすることは、現実的には困難です。 特に放牧されている家畜は、野生動物との接点が多く、それが食用などに利用されています。また、地域によっては、野生動物は今も人々の重要なタンパク源となっています。 そうした状況の中で、接触する機会を抑え、予防策を考えていくにはどうすればよいのでしょうか? 実は、そのキーワードになるのが「生物多様性」です。 ウイルスの感染拡大を弱める「希釈効果」とは 実は、生物多様性が豊かであるほど、つまり、その地域に生息している野生生物の種類が多ければ多いほど、動物由来感染症のリスクは低下すると言われています。 それは、希釈効果と呼ばれます。 条件によってはこの効果が発揮されない場合もありますが、おおむね専門家の間で合意が得られている概念です。 簡単な図を使って、希釈効果のメカニズムを見ていきましょう。 生物多様性が豊かだと、動物由来感染症が広がりにくい 上の図は、青、緑、オレンジの3種の野生動物が生息する、ある生態系を示した模式図です。 3種のうち青の動物種は、病原体を保有している「宿主」とします。 病原体は青の個体から別の青の個体に伝播できますが、緑やオレンジの種には感染できません。 ここでは分かりやすくするために、病原体は横方向にしか感染しないこととしますが、この場合、病原体は緑やオレンジの動物種に行く手を阻まれ、人まで到達することができないことがわかります。 生物多様性の低下によって高まる、人への感染リスク しかし、もしオレンジの動物種が密猟や生息環境の破壊などにより絶滅し、逆に青の種が増えてしまったら、どうなるでしょう。 この場合は、病原体が青の動物を経由して、人にまで到達するルートができてしまいます。 つまり、2種しかない生態系では感染のリスクが大きくなる一方、3種の動物が生息する生物多様性が豊かな生態系では、宿主による感染拡大の影響が「薄まる」ことになります。 これが「希釈効果」です。 次々と報告される「希釈効果」の証拠 実際、さまざまな動物由来感染症について、この「希釈効果」とかかわりのが報告されています。 たとえば、西ナイル熱をもたらす西ナイルウイルス、サシガメという昆虫を介して広がるシャーガス病、ネズミなどを介するレプトスピラ症やハンタウイルス感染症など。 また、蚊などを介して動物から人に感染するベクター媒介感染症についても同様です。 さらに、都市のような人の活動の影響が大きい環境でも、同様の作用がはたらく場合があります。 こうした人の多い環境は、一般的に多様な野生生物が生息することはできないため、生物多様性が低下します。 そして、その中では、人間の環境に適応できた一部の生物種ばかりが増え、そうした生物が特定の感染症を広く媒介してしまうリスクがあるのです。 実際、その例として多く挙げられる、ネズミやコウモリなどは、動物由来感染症の宿主となる動物として知られています。 感染症のパンデミックを防ぐ上で、「希釈効果」を発揮してくれる生物多様性の豊かさを守ることは、大切な手段の一つなのです。 もっとも、この希釈効果は、いつでもどこでも働くわけではありません。 その生態系が存在する地域の広さによっても、効果の有無は変わりますし、インフルエンザや結核など、動物を介さない、生物多様性と関係のない感染症もあります。 生物多様性を守ることは動物由来感染症を防ぐこと それでも、世界の生物多様性がさらされている、深刻な危機の現状は、次なる新たな感染症のパンデミックが発生する可能性について、大きな警鐘を鳴らしています。 WWFが2020年9月に発表した『生きている地球レポート(2020年版)』では、世界の生物多様性の豊かさが、この50年間で68%も減少したことが報告されました。 IUCN(国際自然保護連合)の『レッドリスト』に掲載されている絶滅危機種の数は、今や全世界で3万種を超え、さらに増え続けています。 「希釈効果」を持つ生物多様性という名のセーフティネットは今、破れ、ボロボロになりかけているのです。 新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受け、今、各国では食肉やペット目的で利用される野生生物の取引規制強化を求める動きが広まっています。 こうした、人間社会の中での対策も非常に重要ですが、それと同時に、そもそも病原体が人間社会に入り込まないような「予防策」も講じていかなければなりません。 豊かな生物多様性の保全は、まさにこの「予防策」のカギとなるものです。 今や、希少種の絶滅を防ぐ保護活動や、森林などの生態系の保全、そして地球温暖化緩和などの生態系サービスの維持・回復などの取り組みは、人の健康を守る上でも欠かせないものになっているのです。 また、森林減少の低減や、違法野生生物取引の取り締まり強化、拡散(スピルオーバー)の抑止など、パンデミック防止に必要とされるコストは、新型コロナウイルス感染症による被害額の100分の1以下と言われています。 ポスト・コロナの未来の中で、人類が取るべき選択肢は、生物多様性を守り、自然と共存する道しかありません。 コロナ禍からの復興の中において、環境保全を促進する復興「グリーン・リカバリー」と、新たな暮らしの在り方を実現することができるか。 こうした認識をより社会の中に広め、人と環境、野生生物の健康を一つの健康「ワンヘルス」として守っていくことができるか。 未来に向けたその知恵が今、問われています。 Reply ↓
生物多様性は世界を救う!?豊かな生物多様性が動物由来感染症を防ぐメカニズムとは
WWF
https://www.wwf.or.jp/activities/opinion/4451.html
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、動物由来感染症(zoonosis)の一つと考えられています。
動物由来感染症とは、動物がもともと保有していた病原体が人に感染する病気のことです。
そして、これらの病気は、人が森林などの環境を破壊し、それまで踏み込んだことのなかった自然の奥にまで入り込むようになったことで、発生し、拡散するようになりました。
病原体となるウイルスなどの「宿主」となるさまざまな野生動物と、人や家畜が接する機会が増えてしまったためです。
しかし、こうした人と動物の接触を完全にゼロにすることは、現実的には困難です。
特に放牧されている家畜は、野生動物との接点が多く、それが食用などに利用されています。また、地域によっては、野生動物は今も人々の重要なタンパク源となっています。
そうした状況の中で、接触する機会を抑え、予防策を考えていくにはどうすればよいのでしょうか?
実は、そのキーワードになるのが「生物多様性」です。
ウイルスの感染拡大を弱める「希釈効果」とは
実は、生物多様性が豊かであるほど、つまり、その地域に生息している野生生物の種類が多ければ多いほど、動物由来感染症のリスクは低下すると言われています。
それは、希釈効果と呼ばれます。
条件によってはこの効果が発揮されない場合もありますが、おおむね専門家の間で合意が得られている概念です。
簡単な図を使って、希釈効果のメカニズムを見ていきましょう。
生物多様性が豊かだと、動物由来感染症が広がりにくい
上の図は、青、緑、オレンジの3種の野生動物が生息する、ある生態系を示した模式図です。
3種のうち青の動物種は、病原体を保有している「宿主」とします。
病原体は青の個体から別の青の個体に伝播できますが、緑やオレンジの種には感染できません。
ここでは分かりやすくするために、病原体は横方向にしか感染しないこととしますが、この場合、病原体は緑やオレンジの動物種に行く手を阻まれ、人まで到達することができないことがわかります。
生物多様性の低下によって高まる、人への感染リスク
しかし、もしオレンジの動物種が密猟や生息環境の破壊などにより絶滅し、逆に青の種が増えてしまったら、どうなるでしょう。
この場合は、病原体が青の動物を経由して、人にまで到達するルートができてしまいます。
つまり、2種しかない生態系では感染のリスクが大きくなる一方、3種の動物が生息する生物多様性が豊かな生態系では、宿主による感染拡大の影響が「薄まる」ことになります。
これが「希釈効果」です。
次々と報告される「希釈効果」の証拠
実際、さまざまな動物由来感染症について、この「希釈効果」とかかわりのが報告されています。
たとえば、西ナイル熱をもたらす西ナイルウイルス、サシガメという昆虫を介して広がるシャーガス病、ネズミなどを介するレプトスピラ症やハンタウイルス感染症など。
また、蚊などを介して動物から人に感染するベクター媒介感染症についても同様です。
さらに、都市のような人の活動の影響が大きい環境でも、同様の作用がはたらく場合があります。
こうした人の多い環境は、一般的に多様な野生生物が生息することはできないため、生物多様性が低下します。
そして、その中では、人間の環境に適応できた一部の生物種ばかりが増え、そうした生物が特定の感染症を広く媒介してしまうリスクがあるのです。
実際、その例として多く挙げられる、ネズミやコウモリなどは、動物由来感染症の宿主となる動物として知られています。
感染症のパンデミックを防ぐ上で、「希釈効果」を発揮してくれる生物多様性の豊かさを守ることは、大切な手段の一つなのです。
もっとも、この希釈効果は、いつでもどこでも働くわけではありません。
その生態系が存在する地域の広さによっても、効果の有無は変わりますし、インフルエンザや結核など、動物を介さない、生物多様性と関係のない感染症もあります。
生物多様性を守ることは動物由来感染症を防ぐこと
それでも、世界の生物多様性がさらされている、深刻な危機の現状は、次なる新たな感染症のパンデミックが発生する可能性について、大きな警鐘を鳴らしています。
WWFが2020年9月に発表した『生きている地球レポート(2020年版)』では、世界の生物多様性の豊かさが、この50年間で68%も減少したことが報告されました。
IUCN(国際自然保護連合)の『レッドリスト』に掲載されている絶滅危機種の数は、今や全世界で3万種を超え、さらに増え続けています。
「希釈効果」を持つ生物多様性という名のセーフティネットは今、破れ、ボロボロになりかけているのです。
新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受け、今、各国では食肉やペット目的で利用される野生生物の取引規制強化を求める動きが広まっています。
こうした、人間社会の中での対策も非常に重要ですが、それと同時に、そもそも病原体が人間社会に入り込まないような「予防策」も講じていかなければなりません。
豊かな生物多様性の保全は、まさにこの「予防策」のカギとなるものです。
今や、希少種の絶滅を防ぐ保護活動や、森林などの生態系の保全、そして地球温暖化緩和などの生態系サービスの維持・回復などの取り組みは、人の健康を守る上でも欠かせないものになっているのです。
また、森林減少の低減や、違法野生生物取引の取り締まり強化、拡散(スピルオーバー)の抑止など、パンデミック防止に必要とされるコストは、新型コロナウイルス感染症による被害額の100分の1以下と言われています。
ポスト・コロナの未来の中で、人類が取るべき選択肢は、生物多様性を守り、自然と共存する道しかありません。
コロナ禍からの復興の中において、環境保全を促進する復興「グリーン・リカバリー」と、新たな暮らしの在り方を実現することができるか。
こうした認識をより社会の中に広め、人と環境、野生生物の健康を一つの健康「ワンヘルス」として守っていくことができるか。
未来に向けたその知恵が今、問われています。